第25話 血の十字架

「次はレムの番ね!」

「ミオンさんの後だなんて、重圧じゃないですか?」

「あはは、確かにそうだね。でも、俺は俺の戦いで皆を楽しませるさ!みんなも観戦してくれよ?」


 レンドールは心配そうなアネットの顔を見て、表情を微笑ませた。”大丈夫。安心して観ていろ”と言うかのように。

 そうして、闘技場コロシアムへ続く廊下でアイテムポーチの確認をする。各種弾丸、戦闘補助アイテム、万が一の薬。装飾品アクセサリーはシルバーピアスを填めてきた。

 最後にきちんとリボンを結び直して、太陽と青空が広がる闘技場コロシアムへとゆっくりとした歩調で歩いていった。

 先程までミオンコールをしていた観客席がざわめく。来た。次は華麗な闘い方をする不思議な魔法騎士マジックナイトだ。

 闘技場コロシアムの乾いた砂の風を感じるレンドール。ゆっくりと左手に拳銃を握り、軽く身構えた。同時に檻から放たれる地竜ちりゅうアースドラゴン。

 レフェリーの鬨の声と共に試合が始まった。


「試合開始!」


 レンドールはイクシードで一気に間合いを侵略した。ミオンとは違いこの間合いの詰め方はテクノロジーでしている。地竜アースドラゴンは虚を突かれたようになり、レンドールの剣の舞いが始まる。


「まずは、これだ!」


 レンドールが1撃剣で入れると、素早く離脱して、2撃目を入れる。離脱して3撃目と合計6撃の剣戟を入れた。チャージ&アサルトと呼ばれている剣技だ。

 すると地竜アースドラゴンが首を上げて、あの隕石の雨を降らす魔法を唱えようとする。しかし、


「やらせんよ!サイレント」


 彼が左手で魔法封じの呪文を唱える。地竜アースドラゴンの魔法が封じられた。これで隕石の雨を降らすことはできない。

 レンドールがアースドラゴンの頭を踏みつけ、高くジャンプすると、ブラッディクロスを思い切り振り下ろす。脳天に向けて唐竹割りを繰り出した。


「喰らえ!」


 地竜アースドラゴンが脳天から切り裂かれ即死してしまった。おびただしい赤い血が闘技場の大地を染める。

 すぐさま2回戦に突入する。

 2回戦は合成生物ドルムキマイラが檻から放たれた。

 合成生物ドルムキマイラが初っ端から炎のブレスを吐いた。

 レンドールが驚くべき反射神経で避ける。どうやら合成生物ドルムキマイラには空中にいれば大抵の攻撃を回避できると学習されている様子だ。

 今度は冷気ブレスと雷のブレスがほぼ同時に吐かれた。


「やばい!避けきれない!旦那!」

「マジックバリア!」

「あれは魔法障壁マジックバリア!」

魔法障壁マジックバリア?」

「聞いたことあるぜ。この世界にはあらゆるブレスを無効化させる呪文があるって。あれがその呪文だ!」


 そう。その通りである。レンドールのマジックバリアはブレス攻撃を全て無効化させる呪文である。おかげで雷のブレスが直撃しても冷気ブレスが直撃しても動じる気配もない。

 レンドールが肩にブラッディクロスを担いだ。そして、吐き捨てるように言う。


「飽きてきたよ。貴様と戦うのも。ブレス攻撃しか能がないなんてやはり合成生物ではそんな程度か」


 合成生物ドルムキマイラが一気に急降下した。暴言を吐かれて怒りが湧いたのだろう。鋭利な牙と爪で引き裂こうと一気に間合いを詰めた。

 レンドールはそのまま何も構えないで静かに時を待つ。ドルムキマイラがレンドールの間合いに入った瞬間。

 文字通り、血の十字架となり、ドルムキマイラの身体が引き裂かれた。青い血がほとばしる。

 観客は何が起きたのかわからない。いつの間にかドルムキマイラの身体に深く大きな傷が刻まれている。

 ミオンがその瞬間を目で捉えていた。動体視力の良いミオンとテオ、アネットも何が起きたのか見えていた。


「あれは、武闘家で言う”クロスカウンター”ね。剣技でも応用は出来るんだ」

「クロスカウンター?」

「武闘家の場合だと対人戦でよくカウンターを狙う人がいるでしょう?あれをより進化させたパンチね。相手のパンチが来た所に十字架を描くようにカウンターを合わせるのがクロスカウンター。効果は絶大よ」

「それをレムさんは剣技で応用したのですか?」

「鏡花の構えってあるでしょう?あれを更に攻撃的にしたものよ。恐らくレムが出した技は桜花気刃斬おうかきじんざん。複数の大技をあの瞬間にこなすなんてとんでもないことだわ」


 観客席ではどよめいている。一体何が起きたのか?いつの間にかドルムキマイラが血まみれになっている。しかしまだ生きている。もう一度あの謎の攻撃が見られるかも知れない。

 合成生物ドルムキマイラが自暴自棄になり突っ込んでくる。またレンドールは静かに待っている。そうだ、あの魔法騎士マジックナイトの間合いに入った瞬間に起きるんだ。

 固唾を飲みながら観客が観る前で、もう一度、血の十字架を見せた。

 ドルムキマイラの牙が刺さる直前に、あの背中の剣で一瞬で居合切りをして、ドルムキマイラの身体が文字通り血の十字架となり身体を真っ二つに切り裂かれてしまった。


「スゲエ。あの合成生物ドルムキマイラが、たったの2撃で殺されちゃったよ」

「何なんだ?あの技は?見たことがないぞ」


 ざわめく観衆を前に3回戦が来る。地獄の番犬ケルベロスが檻から放たれた。

 この地獄の番犬ケルベロスの個体は、少々、好戦的な個体らしい。狂った血に飢えた狼がレンドールに襲い掛かる。

 だが、またレンドールが構えを取らずあのドルムキマイラを葬ったように静かに待っていた。あれだ。あれをやるんだ。観客は自分の目でそれを見ようと躍起になる。

 今度は地獄の番犬の中心部分の牙が触れそうになった瞬間に、居合抜きをする。そして逆袈裟斬りでまず左側の首を刎ねた。


「見えた!クロスカウンターだ!旦那の攻撃は…!」

「クロスカウンター?あの武闘家がよく狙うカウンターか?」

「それを旦那は背中の剣で実行しているんだ。恐ろしい速さで抜刀している!」

「クロスカウンターを剣技で実行するなんて、自分の剣のリーチをわかっている人間でなければ死ぬぞ、あれ」

「対人戦でも出来る奴はほとんど見ないぜ。クロスカウンターは」


「地獄の番犬が聞いて呆れるよ。お前はこいつでさっさと地獄へ行くがいい!」


 レンドールの左手から暴風のような風の刃が渦巻いている。まるで台風がそこにあるかのように吹きすさぶ。

 

「トルネード!」


 その呪文を唱えた直後、恐ろしい風の刃が地獄の番犬ケルベロスをなますのように切り刻んだ。

 悲痛な鳴き声を上げる地獄の番犬。しかし、レンドールの死刑執行は始まったばかりだ。


「さあ、次はどうしてくれようかな?冥土の土産に血の十字架をくれてやるか」


 彼は軽く構えると一気に試合を決めにかかる。加速装置イクシードで一気に加速すると、美しくも残酷な技で、地獄の番犬ケルベロスを引き裂いた。


「百花繚乱!」


 背中のブラッディクロスで居合抜きをして、地獄の番犬の真っ赤な血が、まるで桜の花びらのように舞い散って、その身体を一気に四散させた。

 その瞬間は何人の目に映ったのか定かではないが、居合抜きして、その後合計10回程剣で身体を斬ったのである。

 地獄の番犬ケルベロスが無残にも微塵斬りにされて、死体を調べる必要がないレフェリーは高らかに宣言した。


「勝者!レンドール・ボーフォード選手!3次予選を突破!本選出場決定とする!」

「やったーっ!!3番目の本選出場決定は旦那だ~!」

「旦那の試合に賭けて正解だったぜ!オッズは…5倍か。本命として申し分ないオッズだぜ~!」


 同じ観客席で観戦していた、ミオン、テオ、アネットも今回のレンドールの闘いは凄かったと思った。


「今回の戦い、レムさん、凄かったですね」

「クロスカウンターを剣技でするから凄いなんてもんじゃないわよ。天才だわ」


 アネットは観客に手を振るレンドールを見つめ、そしてようやく自分を許す気持ちになれたのを感じた。


『俺は、俺の美学を貫いてこの”シングルデビュー”を飾る。俺に今出来ることはそれだけだ』


(見せてもらったわ。貴方の美学。今回、一度も左側の拳銃を使わないで戦ったよね。それが貴方の美学ね。私も私の美学をしっかりと抱きしめるわ)


 歓声はしばらくの間、遠雷のようにこだましていた。

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