第23話 地獄へ道連れ
1次予選と2次予選突破を果たした彼らは、この戦いでようやくシングルクラスのデビューと認められるのだ。
インビジブルナイツも”シングルデビュー”の説明会を運営から聞いている。3次予選はやはりレンドールが睨んだ通り、地属性の対処能力が試される戦いだ。
出現する怪物は、
ここからの闘いは
それを有効に活用出来れば道は開けるはずだ。
説明会が終わると、彼ら選手たちは選手控室へと戻って行った。
「地竜アースドラゴンって聞いたことあります?それに合成生物ドルムキマイラとか」
「地竜アースドラゴンは確かに地属性の攻撃を多用してくる傾向にあるな。合成生物ドルムキマイラは正直わからない」
「地獄の番犬の噂なら聞いたことあるわ。その名の通り、冥府への番犬を務める狂暴極まりない三つの首を持つ狼よ」
「ここからは俺達を含め25人しかいない。だいぶ早く進行は早くなるだろうな」
インビジブルナイツの面々がそんなことを話しているうちに早速、一人目の犠牲者が出た。
しばらくすると、無情な戦死を遂げてしまった戦士の亡骸が、棺桶に入れられて職員の手で運ばれる。
感覚が麻痺してきたのか、彼らは別段、それに対して驚きもしない。今度は自分がその箱に入れられるかも知れないのだから。
そんなことを想い始めた矢先、とうとうインビジブルナイツの面々の出番が来た。
「アネット・サザーランド選手!闘技場入り口までお越しください」
「あら?私が一番手?今回は?じゃあ…景気よく勝ってくるわね」
「アネット。危険だと思ったら回復魔法を忘れずにな」
「ええ!」
「景気よく勝ってくださいね!」
「じゃあ、行ってくるわね」
アネットが
薔薇のコサージュの効果は障害ステータスの沈黙回避の効果。アネットは妖精のピアスを装備しても風属性を効果的に使用するのが難しいのだ。それなら唯一の回復手段である回復魔法を唱えられるように沈黙回避を優先したのだ。
沈黙回避さえしてしまえば魔法封じの呪文を唱えられても回避できる。安全に越したことはないのだ。
そうして、彼女は光の先の闘技場に向けて歩みを進めた。
レフェリーの鬨の声と共に試合が始まった。
「試合開始!」
アネットが素早く右手と左手に拳銃を構える。そして、地竜アースドラゴンに、爆破弾を早速撃ちこみ始める。
地竜アースドラゴンは黄土色の鱗を持つ典型的な竜だ。その攻撃方法は大体が地属性を持っている。地竜アースドラゴンが吠えると、空から隕石の雨が降ってきた。
「スターフォールね!」
「なんだ~!?この隕石は!?」
「スターフォールという魔法かな。あんまり見ない魔法って聞くぜ」
「ガンナーの姉さんは避けることが出来るのかな?」
アネットは隕石の雨をいなして回避する。次から次へと降る隕石を素晴らしい体術で回避する。まるでサーカスの軽業師のようだ。
すると地竜アースドラゴンに鱗を貫通する徹甲弾を一気に速射を始めた。恐ろしい弾丸の嵐がアースドラゴンに襲い掛かる。身体の内側に撃ちこまれた爆破弾が爆発を開始する。
「すげえ。地竜アースドラゴンがガンナーの前ではただの的だ。容赦がない」
「見ろ!アースドラゴンの身体が爆発をしている。内側から爆破されたんだよ」
アネットはそろそろ地竜アースドラゴンも死ぬだろうという計算をして、一気に必殺技を出した。
デザートストームと銘を変えた拳銃でも必殺技を変わらず撃てる。一気にデザートストームの内部の熱量を上げて、必殺の一撃を放つ。
「これで終わり!スーパーノヴァ!」
一撃だけでも核爆発に匹敵する弾丸を撃ちこんだ。地竜アースドラゴンがあっという間に処刑されてしまった。
すぐさま2回戦に突入する。
合成生物ドルムキマイラが現れた。ドルムキマイラとは人工的に合成された生物兵器である。
ドラゴンとライオンの首、コウモリの翼、身体はドラゴン、脚はライオン、と多数の生物が混在する怪物である。
魔法の合成生物ドルムキマイラなので、主な攻撃手段は魔法中心。または冷気と炎のブレス攻撃である。
初めて見る合成生物ドルムキマイラにアネットは警戒する。まずは出を窺う。何をするのか見極めたい。
静かな立ち上がりに闘技場も静まり返ってしまった。
「さすがに一気に片づけるわけにはいかないか。ガンナーの姉さんも」
「合成生物ドルムキマイラなんて、そうそう自然界に存在しないものな」
「出を窺っているのか」
すると、ドルムキマイラが雷のブレスをドラゴンの首から吐いた。
アネットが間一髪で回避する。次はライオンの首から炎のブレスを吐く。
ここから、ドルムキマイラの怒濤のブレス攻撃が始まる。
ドラゴンとライオン、二つの頭を持つ双頭のキマイラは、冷気を吐き、猛毒のブレスを吐く。
最初の数発は回避したアネットも、その内、被弾をしてしまう。立て続けにブレスで攻め立てるドルムキマイラ。
この怪物の前では、妖精のピアスは役には立たない。
だんだんと被弾数がかさんでくる。体力が削られていく。
「姉さん!危ない!」
「やばいぞ。このままでは押し切られる!」
(どうにかして時間を稼いで、回復魔法を唱える時間を…!くうっ!こうなったら…!)
火炎のブレスが放たれると同時にアネットが弾倉を投げて、一時的に大爆発を起こして、閃光を生みだした。
ドルムキマイラが爆発に巻き込まれて気絶する。その間にアネットは回復魔法を唱え、体力回復をする。
観客は何が起こったのか、わからなかった。ただ、すさまじい爆発が起きたのは知っている。
思わず観客が席を離れて
「一体、何が起きたんだ!?」
「凄い爆発が起きたぞ!」
「ドルムキマイラが気絶している!」
「姉さんは回復中か。この隙に攻撃出来れば…!」
(なんて奴なの?!でも、確かに今が攻撃のチャンス!どうも見た感じでは冷気に弱そうだけど……やってみるしかないわね!)
アネットが、左側のリボルバー式魔法銃に魔法弾を装填した。この魔法弾には冷気の魔法と雷の魔法を10発ずつ入れた。
残弾はかなりある。撃ちこむしかない!
「喰らえ!」
左側の魔法銃から、冷気の魔法が放たれた!極寒の氷の刃が気絶するドルムキマイラを非情なまでに刻んだ。
アネットがその冷気の魔法を何発も放つ。
ドルムキマイラの身体からドス青い血が傷口から溢れるように流れる。
観客たちはあっけに取られてそのガンナーの猛攻を見つめる。
やがて、ボルテージが上がり、観客たちは一気にヒートアップした。
「そうだー!やっちまえ!今のうちに片づけろ!」
「一気に終わらせたれー!」
「いけー!」
気が付けば合成生物ドルムキマイラは、氷の像となって凍てついてしまった。そして儚い音を立ててその場に崩れ去ってしまった。
「後1戦。地獄の番犬の登場ね」
地獄の番犬が檻から放たれた。そして、ここから先に行ける資格があるのか、その審判となる戦いが始まる。
その姿は漆黒の狼だ。三つの首からはそれぞれ鋭利な牙が見える。ケルベロスが獲物に突っ込んできた!
「くっ!」
アネットが横に飛んだ。彼女はまだ回復魔法を唱え傷口を塞いでいるのだ。
「さっきのダメージが残っているんだ。きっと」
「頑張れー!姉さん!」
(ケルベロスは風に弱いと聞くけど、風の属性を活かす攻撃が……あるわ)
そこで、レンドールが3次予選の前に込めた魔法弾に風の魔法を詰め込んだことを思い出す。
魔法弾に風の魔法を込めるのが一番難しいと悩んでいた。それは荒ぶる風の力を封じ込めるからだ。
さすがにはじけ飛ぶことはないが、切り札にはなるんじゃないかと彼が話していた。
「レム!貴方の風の力を貸してもらうわよ!」
アネットが魔法銃に新たな弾丸を装填すると、その弾丸を発射した。
大いなる封印から解かれた暴風のような風の刃がケルベロスを一気に刻んだ!
「今度は風を銃から放った!?どうなっているんだ?あの銃は?」
「あらゆる魔法をあの拳銃からは放てるのか!?」
「よし!いいぞ!押し切れー!」
「やっちまえ!地獄の番犬を切り刻め!」
アネットが残弾数を気にすることなく、風の魔法の弾丸を発射する。右側の拳銃からは、止まることなく弾丸の嵐が押し寄せて来ている。
爆破弾もケルベロスの体内に撃ちこまれてゆく。数秒後に爆破弾が爆発を開始した。地獄の番犬の体内がことごとく内側から爆破されていく。
だが、アネットの気が収まらない。こんなに怪物に弄ばれて許せるものですか。
残酷に殺してやる!アネットの茶色の瞳に確かな殺気が宿る。殺してやる、残酷に、血まみれに、これ以上にないほど残酷に!
地獄の番犬が瀕死になる。アネットが静かに歩み寄る。
「何をするつもりなのかな…?」
「あのお姉さん、もしかして…怒っているのでは…?」
地獄の番犬ケルベロスが風の刃で血みどろになっている。そこへ。
「はあっ!!」
アネットがケルベロスの顔面を蹴り上げた!思い切り、殺気を込めて。ケルベロスが血にまみれる。
観客がざわめきだした。
今度は右側の拳銃をゆっくりと構える。そして、重い一発をケルベロスの目に直接撃ちこむ。非情な弾丸が眼球を破壊する。
「ひいっ。何て残酷な殺し方だ」
三つの首のすべての眼球を重い一撃で破壊する様は、レフェリーすらも戦慄するものだ。しかし、反則行為ではないので止めることもできない。
重い一発が処刑台へ連行する階段を上るかのような音に響く。地獄の番犬が悶える。すべての眼球を潰される頃には虫の息だった。
「さあて……次はどこかな」
アネットが冷酷な微笑で、地獄の番犬ケルベロスをゆっくりと殺していく。
今度は脚を撃ち抜いた。赤い血だまりが出来ている。これも4本の脚を丁寧に残酷に撃ち抜くのだ。重い拳銃の1発が処刑のように響く。
そして、最後の1発を撃ちこむ頃には、地獄の番犬ケルベロスは、真っ赤な血だまりの中に横たえて、無残になった姿があった。
「し、勝者!アネット・サザーランド選手!3次予選を突破!グランドマスターズ本選出場を決定とする!」
しばらくの間、沈黙が流れ、やがてさざ波のように、観客たちの声援が響いた。
「本選出場だー!一番手はあのガンナーのお姉さんだ!」
「オッズは…!7倍…か。儲けたぜ!」
「何かいきなりスゴイの見ちまったな」
興奮冷め止まない闘技場から、アネットは観客たちに手を振り、また選手控室へと戻っていった。
激闘を終えたアネットに、インビジブルナイツは健闘を称える。
「さすが、アネットさん!」
「一時は静かになったからやられてしまったのかと思ったよ」
「……」
「どうした?アネット」
「ううん。何でもないわ…」
レンドールは見た。いや、彼しかわからなかった。アネットが、自分の闘いに満足していないことに。こんな戦いでは納得できない…と。
「次は誰かしら?」
「ミオン・アーヴィング選手!闘技場入り口までお越しください」
「次はあたしね!じゃあ、行ってくるわね!」
ミオンが飛び出すように出ていく。レンドールはアネットに人気のない所に連れて行くことにした。
「アネット、少し、話をしようか?」
「レムさん、どこへ?」
「ちょっとアネットと話をしてくる。すぐに終わるから」
肩を落とす
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます