第11話 竜の首コロシアムへようこそ

 天空都市アストリアでは、この日からいよいよ闘技大会が始まるということで異様な賑わいを見せていた。

 まるで天空の大陸の全ての国からこの日の為に集まってきたかのように、様々な人々がアストリアの街を歩き、露店が開かれ、客はこれから行われる”宴”を満喫しようと闘技場へ集まる。

 そして、竜の首コロシアムでは観客たちが己の金をコインにして、これから行われる賭けに勝ち巨万の富を得ようとするギャンブラーがこぞってオッズを見に来ている。

 一方、選手たちは、これから行われる予選リーグの説明を受けている。予選リーグは全てシングルクラスで行われること。パーティーで竜の首コロシアムに参加している選手はパーティー全員の予選リーグ突破で初めてパーティークラスに参加できることなどを説明会で運営から話された。

 予選リーグはシングルクラスで3回戦まである。1次予選から3次予選まであり、それぞれの戦いが3回戦ある。

 つまりは合計9回の戦いを一人で勝ち抜けば晴れて予選突破となる仕組みである。本日は予選リーグ1次予選。運営からはメイクデビューと名付けられた記念すべき初戦である。

 巷では初心者バトルと呼ばれるが、一人前の戦士でもその場で逃げてしまいたいようなモンスターも出るので、半人前程度では殺されるのが関の山だろう。

 

 さて、説明会を聞き終えたインビジブルナイツの面々は、今はコロシアムの選手控え室にて待機している。それぞれ強化した武器を携えて、精神を集中させて、呼吸を整えて、静かに時を待つ。

 他の戦士たちも己の出番が来るまで、控室で待っていた。選手控室では、店も入っており薬草や回復薬の販売を行っている。また解毒剤や魔力回復薬の販売までしていた。

 シングルクラスは基本的に武器自由、防具自由、アイテム持ち込み可能、闘技場からの逃走はその場で失格という規定がある。大雑把に表現するなら、戦いの場に出たら死ぬか、殺すか、どちらかにしろ、ということだ。

 竜の首コロシアムは、『竜の首』とあるようにある程度強いランクになると飛竜との闘いへ移行する。今は予選リーグなのでそのような飛竜は登場しないが、それでも一筋縄ではいかないモンスターばかり出る。

 闘技場で歓声と共にため息が聞こえた。誰かが死んだのであろう。

 しばらくすると棺に納められた選手の遺体が運ばれてくる。棺を運ぶ職員はぶつぶつと文句を言う。


「やれやれ。また被害者が出たか」

「ここでの商売は薬草よりも棺桶の方がよく売れるよ」

「無理をするからこうなるんだ」


 言いようがない不安が脳裏によぎる頃、彼らの出番が来たことを告げる職員がいた。


「ミオン・アーヴィング選手!闘技場入り口までお越しください」

「よし!やるわよ~!」

「トップバッターはミオン君か。1次予選突破しろよ」

「僕たちはここで待っていますね」


 ミオンが入り口に来ると、彼女は深く息を吸い、そして吐いた。神経を集中させて、戦に心を躍らせる。軽くつま先で床を叩いて、両手をぶらぶら揺らしてリラックスさせた。

 光の先は聖なる戦が待っている。そして闘技場へ入場を果たした。遠雷のような歓声が自分の周囲から聞こえる。

 闘技場へ入場した武闘家ミオンに観客の応援が聞こえる。

 しばらくして初戦の相手が現れた。まずは初歩の初歩。これを倒せないならここには出るなというランクのモンスター、ドンポラススが現れた。

 青い鱗、鋭い爪、強靭な足、軽快なフットワークを売りとする中堅ランクの鳥竜類である。

 

「まずはこいつが相手ね。こいつなら村で戦ったことがあるわ」

「試合開始!」


 異国の銅鑼が高らかに鳴り響く。同時に先制攻撃をミオンは仕掛けた!真っ向から突っ込む!

 

「はああっ!」


 メタルフィストを填めた右手で殴りかかる。青い鳥竜は軽く飛びあがった。足の鋭い爪で引き裂く。それを紙一重で回避する。

 右足を軸にして回転蹴りをする。青い鳥竜の顔面に入った。甲高い悲鳴を上げる。

 そのまま左足で連続蹴りを叩き込む。顔面に打撃を加えられ気絶するドンポラスス。頭を上下に揺らしておおいに気絶している。

 その隙を付き、ミオンが技を出した。


「昇竜撃!」


 一回腰を落として、右手の拳で必殺のアッパーを繰り出す。そのまま上空にとんだ!

 ドンポラススの顔面にまともに入った。更に気絶するモンスターに彼女得意の回転蹴りが炸裂する。


「ぶったぎりソバット!」


 大木を叩き割る豪快な蹴りがとどめとなり、1戦目が終わった。


「よし!絶好調!」


 続け様に2戦目が来た。2戦目の相手はギスアドノス。ドンポラススの亜種と呼ばれる鳥竜モンスターで、最大の特徴は氷属性のブレスを吐くことである。

 まともに受けようものなら凍傷を起こす危険な氷の息だ。純白に青味のあるドンポラススという感じだ。

 

「真っ白なドンポラスス?見たこともないけどどういう奴かしら?……ん?!」


 ギスアドノスはいきなり氷のブレスを吐いた。ミオンはその攻撃をいなし、攻撃へ移る。

 懐に入るとマシンガンのような連続攻撃のジャブを浴びせた。通称マシンガンジャブ。一気に叩き込むとギスアドノスの頭を掴んで、高く跳躍した後、地面に思い切り叩きつけた。


「メテオストライク!」


 容赦のない武闘家の闘いに観客のボルテージは高くなる。まるで、プロレスか、総合格闘技を見せられているような気分だ。

 観客たちもミオンと一緒に戦っている気分で応援する。


「やれーっ!」

「ぶっ殺せーっ!」


 ミオンは地面に頭をのめり込ませている純白の鳥竜に今度はサマーソルトキックを浴びせる。華麗に一回転してギスアドノスは真っ赤な血を顔面から流して倒された。

 

「2戦目、突破ね!」

「後1戦だぜ!突破しろ!」

「姉ちゃんに勝つ方に賭けているから頑張れ!」


 最後の3戦目は、猛毒使いで有名な鳥竜、イーオドスス。真紅の鱗に猛毒付きの爪、猛毒の液を吐いて獲物を弱らせる狡猾な相手だ。

 毒々しい赤い鱗を見たミオンは厳しい表情を浮かべる。


「まずいわね。解毒薬はストックがあまりないのよね。毒を受けたらすぐに治療しないといけないし今度ばかりは危ないかも」


 イーオドススは鋭い毒爪で引き裂くようにとびかかる。それを紙一重で回避するミオン。そのまま左足で蹴りを入れる。

 鳥竜類は総じて頭が弱点ということが共通しているので彼女は頭を狙う。左足の蹴りで反動をつけた彼女は一度間合いを取った。

 イーオドススが威嚇している。口から毒液を吐いた。彼女は大きく回避をしてそれに当たらないように細心の注意を払う。

 

「このままじゃ決着がつかないわね。危険を承知でやるしかないか」


 彼女が一気に間合いを詰めた。右手のメタルフィストでイーオドススの背骨を狙って殴る。

 イーオドススが噛みついた。そのままミオンの身体に毒を流しこむ。


「あうっ!……こ、これは、毒?!」


 観客たちが固唾を飲んで見つめる。

 ミオンは噛みつきを力づくで振り払うと、身体に毒が回り始める。彼女は意識が朦朧とするのがわかった。毒のせいだ。

 イーオドススがチャンスとばかりに襲いかかる。そこでミオンが覚醒した。

 彼女はとどめを刺しにきたイーオドススの攻撃をいなし、そして腰を深く落とすと、昇竜撃よりも連撃が多い技を放った。


「天襲連撃!」


 左手のアッパー攻撃の2連撃である。アッパー連撃というか、武闘家ならではの身体のこなしでかまいたちのように風が吹いて、アッパーと共に切り裂いたと言うべきか。

 大技を叩き込まれたイーオドススがかまいたちによって身体を引き裂かれ、大量の血と共に崩れ落ちた。

 武闘家ミオンのデビュー戦は、見事な勝利で終わったのである。


「勝者、ミオン・アーヴィング選手!1次予選突破とする!」


 観客たちが歓声を上げて彼女を祝福する。彼女は観客席に手を振り控室へと戻ったが、


「ミオンさん!」

「はあっ…はあっ…すごい毒ね……まだ残っているわ」

「待っていろ。すぐに解毒の魔法を唱えてやる」


 レンドールが解毒魔法を唱えた。白い光を照射して体内の毒素を浄化する。

 彼女の顔がみるみるうちに健康的な皮膚の色になった。毒素が回っていた時は青ざめた顔をしていたのだ。

 

「ありがとう!レム!」

「傷は他にないか?」

「特にないみたい。あのイーオドススの毒は危ないわ。みんなも気を付けて」

「とても初戦とは思えない戦いだったな」

「これが竜の首コロシアムの恐ろしさ何ですね」

「さあ、俺達も気を引き締めていこう」


 彼らの闘いはまだ始まったばかりである。次に呼ばれたのは騎士テオだった。


「では…行ってきます!」

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