第10話 彼らの武具は特別製
彼らがアストリアの街の工房に向けて歩いていたら、故郷の街キールカーディナルの工房の親方にバッタリ出会った。
この人物がパーティーの武闘家ミオンの父親、ネイサン・アーヴィング。愛称はネイト。または親方と呼ばれることも多い。
「よう!ミオン!やっぱりここにいやがったか!」
「親方!」
「お父ちゃん、どうしてここにいるの?」
「なあに、丁度、闘技大会があるし、ここは娘といつも世話になっているお前さんたちの為に自慢の腕を振るってやろうと思ってな!」
「あの海竜ギラアクルスの素材は無事に届きました?」
「ばっちりだ。それでいい案が浮かんでよお。それでここにいるんだよ」
ネイトは武器工房の親方ということで頭にはヘルメットをかぶり、身体には丈夫な革と軽めの鉄の素材で出来た作業着を纏っている。
靴も機能性と耐久性に優れた特注品だ。彼らの故郷の街キールカーディナル。アストリアから遥か彼方、南西部の天空に存在する工房の国。
キールカーディナルは様々なモンスターが生息する国で、故にモンスター狩猟で生計を立てる者達が多いことで知られている。
インビジブルナイツの者達の武器もネイトの工房で作られた武器なので武器屋で売っている既製品よりも性能が高い。しかも彼らの武器は普通の武器とは違いそれぞれに属性を付属されている優れものだ。
さて、ここでインビジブルナイツの面々の使用する武器を軽く紹介しよう。
まずはレンドール・ボーフォード。魔法騎士という職業はこの世界では大変珍しい職業で、一言で表現するなら”剣も扱える魔法使い”だ。
彼は右手に剣を、左手で拳銃を使う変わった戦闘スタイルを取る。拳銃には属性弾などを装填できるし、その他にも貫通弾や魔法そのものを撃つ魔法弾も撃てる特別製品だ。
剣はキールカーディナルで作られたもので仲間内ではギミック武器と表現されている。様々なギミックを施された剣を愛用している変わり者だ。
テオ・ラドクリフはこの中では最も一般的な剣を扱う正統派。両方の手で扱う剣を主に使用する。魔法を扱えない不利を補う為に属性武器を使用する場合が多い。
この世界では属性と呼ばれるものは、火、水、氷、雷、風、土、聖、闇、8属性と呼ばれるもの。複合属性として扱われるものも最近になり発見されている。
例えるなら鋼の剣に炎の属性を宿らせるには火の力を宿した”何か”を素材として使うのが一般的だ。それはモンスターの素材がほとんどだ。
ミオン・アーヴィングは武闘家という職業柄、剣などの扱いは苦手とする。彼女はナックルと呼ばれる拳に握る爪などを装備して超接近戦で戦う人物。だが工房の娘の武器はただの爪ではない。
彼女の近接武器にもテオの属性武器と同じものが適用できる。
アネット・サザーランドは右手はレンドールと同じ拳銃を、左手には魔法銃と呼ばれる試作品を装備する。特に魔法銃はまだ世間一般には出回っていない新しい拳銃で、キールカーディナルでもレンドールしか製法を確立させていない。
魔法銃に関しては研究段階であり、もしかしたら従来の武器よりも最も変わった性能を獲得できるかも知れない。
「親方。ここアストリアで工房を借りることは出来るのですか?」
「それには心配無用だ。俺の知り合いがこの街の工房を仕切っているから既に話はつけておいたぜ」
「さすが親方」
「んじゃ、行こうか」
ネイトと共にアストリアの工房に向かうインビジブルナイツ。アストリアでは総じて工房を鍛冶屋と表現している。既製品を売る所は武器屋と呼び差別化をさせている。
防具に関して触れると、彼らの防具はそれぞれが世間では変わった武器を愛用しているので、防具も個人に合わせたオーダーメイドになる。
個人のオーダーメイドなので、工房で生産してもらう形になる。そこで彼らの趣向に合わせた防具を身に着けられるので好みがもろに出る。
また装飾品なども攻略の一助となるだろう。闘技大会の景品は非売品の装飾品が景品になる場合が多い。これについては、様々な効果があるので都度説明を入れよう。
「予選リーグ開始まで3日となったが、調子はどうよ?」
「食材に関しては予選リーグ開始までそれなりの数は確保したわ。専属のコックもついてくれたし」
ミオンが現在の状況を父親に話す。
「じゃあ…後は武具の強化くらいか。やることと言ったら」
「そういうことね。お父ちゃんの腕を存分に振るえるよ」
「そりゃあ楽しみだ」
アストリアの鍛冶屋が軒を連ねる場所、勇猛のエリアに入っていく彼らは一軒の工房にたどり着く。
工房の名前は『ウェポンマスターズ』。ウェポンマスターズの親方はネイトの親戚のおじさんが務めている。
「おーい!」
「待っていたぜ!兄弟!」
「お父ちゃん、この人は?」
「俺の親戚でな、以前はキールカーディナルで工房を営んでいたやつだよ」
「よろしく!兄ちゃんたち!ネイトから話は聞いたよ。何でも闘技大会に出るんだって?だったらうちの工房で武具を造ってけってんだ」
そうして、彼らの武具の強化が始まる。
彼らが食材探しの際に倒した海竜ギラアクルスの素材を見たネイトにはアイデアが浮かんでいたようで、試しにテオの剣に雷の力を込めてみようという話になる。
彼はまだほぼ普通のバスタードソードという剣だった。その剣を貸してみろということで、テオは剣を差し出す。鞘に刃が収まった状態で貸した。
ネイトと親戚の親方は鞘から剣を引き抜くと刃の部分に海竜の素材から取った雷光エキスを塗りこむと灼熱の炉に入れて、刃を鍛え始めた。
心地よい槌が振り下ろされる音が響く。すると刃が雷光エキスによって青白く輝き始める。刃の形も日本刀のような片刃の剣に変わり始めた。
最後にその青白い刃を収める鞘に濃い目の青い帯を巻いて装飾を施す。
「ほら!持ってけ、テオ!」
「これが、バスタードソードから強化した剣ですか?」
「どことなく異国の剣っぽいね」
「これはまだ1段階目だけどな。名前はフラタニティという名前だ」
「さーて、お次は誰にする?」
「あたしのは出来る?お父ちゃん」
「メタルナックルの強化か。どういう風に強化する?」
「今よりももっと破壊力を上げたいわ」
「おあつらえの鉱石があるからそれで強化しよう」
ミオンのメタルナックルはメタルフィストと銘を変えて強化される。軽さと破壊力の強化の為に最適化されて、武闘家の拳の威力を発揮できるように鋭い棘が取りつけられた。
アネットは右側の拳銃の性能強化だ。拳銃は素材を加えて強化という手法ではなくカスタマイズで強化される。
左側の魔法銃に関してはレンドールの特許みたいな技術が盛り沢山なので彼からの研究待ちになる。
最後にレンドールの武器の強化だが、拳銃はアネットと同型なのでカスタマイズをして、問題は剣だった。
レンドールは魔剣の使い手で強化の仕方も素材を加えて強化だが、変わった素材を強化に使用する。
闇の魔晶石、闇の魔石、闇の石とオルギンと呼ばれる古い書物で強化するらしい。そのオルギンに魔剣の強化の方法が載っているという話なのだ。
既に彼はそれまでの旅路で強化に必要な魔石などは回収したらしい。ネイトはそのオルギンを読みながら魔剣の強化をする。
「こいつは驚きだ。こんな書物があるとは思ってなかったよ」
「全部読めば魔剣の強化は最終段階までいけると思います。ただし、要求される素材もスゴイですけどね」
「確かにこいつは骨が折れるだろうなあ…」
「まずはブラッドクロスまで強化するぞ」
そうしてレンドールの剣もブラッドクロスと銘を変えて強化を一旦終える。
その武器の強化で残りの3日間を使い、そしていよいよ、竜の首コロシアム『グランドマスターズ』への予選リーグが開始されることになった。
「いよいよね!」
「武器の強化も出来たし準備はできた」
彼らは今、闘技場の前の広場に集まっている。それぞれが期待と不安を抱きつつ、これからの長い闘いの始まりに興奮を覚えつつ、強敵との闘いへ心を震わせつつ。
彼ら、インビジブルナイツの激闘が始まる。
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