第7話 奇跡の大陸

 再び天空の大陸巡りを再開した彼らの次なる目的地は天空の孤島トルーユ独立国。水産で賑わう海の国だ。

 ここは天空の大陸でも割と孤島に近い場所。しかし、貿易飛空艇が定期的に往来するので、水産物で取れた魚介類を輸出して栄える国だ。

 飛空艇ラグナロクは両方の翼を広げ、その孤島の国の近くを旋回している。中ではナビシートのテオが確認をしていた。

 

「ここは妖精の地図では孤島の独立国トルーユ国ですね」

「ねえ!?見て!浮島の大陸から止まることなく水が流れているわ!あの国!」

「いかにも海の王国だね」


 トルーユ独立国の浮島の大陸からはとめどなく水が湖から流れ落ちる光景が飛空艇ラグナロクから見えた。その下の部分には水しぶきで虹が見える。

 何だかそれだけでも得したような気分だ。そこで彼らはこの水産で栄える孤島の国へ上陸をしようと飛空艇を上陸させる場所を探した。

 浮遊大陸の端に飛空艇を停めた彼らは目の前の街トルーユ独立国の首都へと入った。首都とは言うが実質的に港町である。

 温かく照らす太陽の下、港町の突端を見ると、灯台が見えた。

 その灯台はこういう言い伝えがある。その名は”黒龍祓いの灯台”である。そう。ここでも密かに恐れられているのが知恵ある黒龍の存在だ。

 遥か昔に滅びてしまったこの国は生き残った人々で、トルーユ独立国の礎を築いた。滅びを迎えた日は禍々しい真紅の空が広がり湖は人々の血が流れたように赤く染まり、人々は絶望した。

 そこで、助けてくれたのがあの剣豪『ハロルド・ベルセリオス』だ。

 故にトルーユ独立国では伝説の剣豪『ハロルド・ベルセリオス』は英雄として崇められている。

 門から入国を果たした彼らは、情報を得るために酒場へ向かう。今はランチ手前の11時。まだ酒場はそんなに混んではいなかった。


「いらっしゃいませ!何名様でしょうか?」

「4名です」

「こちらのテーブル席でどうぞ!」


 彼らは頑丈な木製の丸いテーブルを囲んだ。さて、ここのお品書きは…?


「天空海鮮丼なんて美味しそうね」

「天空サラダの付け合わせも出来るらしいよ」

「古代真鯛のあら汁って何だか美味しそうだな」

「トルマグロのカルパッチョとかもよさそうね」

「すいませーん!」

「はい!何でしょうか?」

「天空海鮮丼と天空サラダの付け合わせを2つ。それから古代真鯛のあら汁を1つ、ライスをつけて。それからトルマグロのカルパッチョをください。付け合わせに天空サラダを」

「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「はい」

「あのウエイトレスさん」

「はい?」


 レンドールはそこで例の”食材”についての情報を得ようと話しかけた。


「この港町で”食材”となりそうな特産品を探しているんだけど、何か知っている食材あるかな?」

「そうですね。トルマグロの大トロとかは有名ですね。後はトルーユ貝というアサリのようなものもありますよ」

「どこで手に入りそうかな」

「なら、海鮮市場に向かうといいですよ。そこで大概の海産物が卸売しているので」

「ありがとう」


 そして、少し早いランチを摂った彼らは、ウエイトレスが教えてくれた海産物が集まる市場へと向かう。

 賑やかな市場だ。店には本日水揚げされた新鮮な魚介類が並んでいる。

 すると、市場の奥の方で、何か催しものが行われている光景があったので、覗いてみることにした。


「さあさあ、寄ってらっしゃい!トルーユ独立国の洞窟の魔物を倒した者には、景品としてこちらのトルマグロ大トロとトルーユ貝、それから古代真鯛のセットをプレゼントするよ!」

「しかしなあ…あの魔物は、厄介だよなあ」

「ギラアクルスって確か雷を自在の操る海竜だよな」


 ギラアクルスとは雷の力を自在に操る海の王者と呼ばれている。水の中でありながら放電して周囲の水を煮だ足せるという力を持つかなりの強敵である。

 しかし、あの極彩色の鳥の討伐した彼らならやれそうだと思ったインビジブルナイツの面々はどこにギラアクルスがいるか尋ねた。


「質問がある!」

「何だい?兄さんたち」

「そのギラアクルス、どこにいるんだ?」

「この街から出て西の方角にある孤島の洞窟にあるよ」

「行ってみようか」

「行ってみよう!レム!」

「一度、ここから出て、その孤島に向かわないとな」

「それにしても綺麗な大陸ですよね」

「奇跡の大陸トルーユと言われるだけあるよ」


 彼らはトルーユ独立国の街から出ると、西の方角の孤島テートに向かう。ここの洞窟にギラアクルスがいるという。

 青味を帯びた岩窟だ。時折、水滴が落ちる音が聴こえ、彼らに立ちふさがる怪物たちを、倒しながら奥へと向かう。

 ここではシーゴブリンと呼ばれる魔物とフェチフィッシュという邪悪な人魚、そしてフィッシュマンという半魚人が中心に出てきた。

 それらを倒しながら、彼らから素材をいただいていくレンドール。

 レンドールが”素材”と呼ぶアイテムは全て、何かの”おたから”として認知されているアイテムだ。場合によってはそれが貴重な材料になるので手に入れる。

 洞窟の最深部に、海竜ギラアクルスがいた。


「こいつだな。ギラアクルスとやらは!」

「先手必勝!いっけー!」


 しかし、ギラアクルスがミオンに雷のブレスを思い切り浴びせる。思わず叫ぶミオン。アネットがすぐさま反応して癒しの呪文を唱える。

 出鼻をくじかれた感じだ。レンドールは迂闊に近寄るのは危険と見て、左側の拳銃に氷結弾を装填して撃ちこんだ。

 海竜ギラアクルスがひるんだ。テオはそのひるんだ所で、思い切り跳躍して、ギラアクルスの頭の角を狙い、思い切り剣を振り下ろした!


「シールドブレイク!」


 最上段から袈裟斬りを食らわせる!角が折れた。これで雷の力を早々速く充電は出来ないだろう。

 レンドールとアネットはギラアクルスの左右に別れ、氷結弾を浴びせる。

 ミオンは雷の充電をする前に、海竜の足を徹底的に叩いて、転ばせる。そのまま背中の帯電殻を一気に必殺技で壊す。


「マシンガンジャブ!」


 両方の拳で目にも止まらぬジャブをして、帯電殻を破壊した。これなら倒せるかも知れない。

 だが、海竜ギラアクルスが最後の力を振り絞り一気に雷撃攻撃を空から降らせた!

 しかも、身体まで麻痺してしまう凶悪な威力だ。


「ぐあっ!」

「ああっ!」

「ううっ!」

「あうっ!」


 とんでもない大技を食らって、ミオンとアネットが身体を麻痺させてしまった。


「ミオンさん!アネットさん!」

「こいつ!やるな!……テオ君は、このマワヒリの花で麻痺の治療を!こいつは任せろ!」

「どうするつもりですか?」

「少し危険な魔法を使う。巻き添えにならないように気を付けてくれ」


 レンドールは精神を集中させると、漆黒の闇の刃を右手に発生させた。その場の空間がねじれて曲がったように禍々しい刃が握られた。


「神滅斬!」

「あ…あれは…闇の魔法!」

「あれで倒すつもりなの?」


 当の使用者、レンドールは非常に険しい表情を浮かべる。まだ…これは、自分の魔力では荷が重いか…!

 そんなに長く発生させる気力がないので、一気に漆黒の闇の剣を海竜ギラアクルスに振り下ろした!


「とどめだ!消え去るがいい!」


 闇の剣を振り下ろした瞬間……海竜ギラアクルスが断末魔の叫びをあげ、そしてそのまま倒れて死んだ。

 まだ闇の剣の余韻が残っている。レンドールも荒い呼吸をして、片膝を立てしゃがみこんでいた…。


「はあっ…はあっ…どうにか…やったかな」

「今回は出番なかったね。あたし」

「麻痺は治ったのか?」

「ええ。マワヒリの花のおかげね。……大丈夫?レム」

「……かなりの、大魔法を使ったから…めまいがするね……」


 フラフラと身体を揺らすレンドール。そのまま討伐された海竜の下に向かうと、小さな切れ味の良いナイフでその身体から素材を剥ぎ取った。

 

「この海竜の雷撃の力……素材があれば再現できるかもね」

「工房の親方に連絡しましょうか?」

「そうだな、頼めるか?」

「ええ。この伝書鳥に素材を運んでもらいましょう」


 レンドールが剥ぎ取った素材は、鱗と帯電殻と角である。まだ触るとかすかに電撃を帯びていた。

 テオが口笛で呼び出した伝書鳥に、それらの素材が入った革の袋を足に結びつけて、伝書鳥を工房の親方へ飛ばした。

 足早に孤島の洞窟から去った彼らは、また港町トルーユへと向かう。

 トルーユの海鮮市場の一角で催し物をしていた依頼人に、彼らは会うと、海竜ギラアクルスを倒した証に鱗を見せた。


「マジで狩ってきたのか!あの海竜ギラアクルスを!只者じゃないね!約束通り、トルマグロ大トロとトルーユ貝、古代真鯛のセットを”食材”としてあんた達に渡すよ」

「これからの仕入れ先はアストリアのディープスカイへお願いしますね」

「わかった。うちの魚、バリバリ食べて、闘技大会を勝ち進めよ!」


 こうして、魚介類も調達した彼らは、一度、集まった”食材”をリヴァスに見せてみようと思い、アストリアへと戻ることになった。

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