30話 内面的
彩芽は頭を左右に振って、自身を強く否定する。
「違う。私、全然…全然何も出来てないっ…!」
はやる気持ちが伝わってくる、それほどまでに彩芽の言葉の中には焦りが出ていた。
「もしかしてさっき俺が言ったこと、か…?」
「―――――」
鈴木に命令されて、恥ずかしながらも口にしたことが気がかりになっているのではと思い尋ねてみるも、彩芽は何も答えない。
つまり、そういうことなのだろう。
彩芽には否定的な側面があるのは、わかっていたつもりだ。
この場は彩芽に励ましの言葉をかけて、明日にはまたいつも通り過ごすのがきっと、一番正しいんだと思う。
だとしても今この瞬間向き合わないと、絶対にダメだ
そう直感した俺は彩芽を真正面に見据える。
「ごめん。俺の勝手な言葉が彩芽を傷つけて、嫌な気持ちにさせたんだよな。重く受け止める必要はない、ってのは都合が良すぎるか…」
「―――――」
「でもな…悪いけど彩芽。それはきっと、お前が決めるものじゃないと思うんだ。俺は本当に彩芽と友莉に助けられたよ」
「…めて」
「これは嘘でもお世辞でもない。紛れもなく本心だ。だから何回だって言う。感謝してる、ありが…」
「やめてっ!!!」
何もかもを拒絶するような声を張り上げる彩芽、それは今までにない程に大きくて悲しそうな。
忘れるはずもない。三年前のあの日の楓と今の彩芽が重なって映し出される。
「もうやめて」と、俺にそう叫んでいた楓に。
わかってる、それでも言うべきだ、ありがとうって。
でも、なのに、声が出ない。
今度は正しかったって、そう思えるようにって。
なのに、俺はまた…
「いい加減にしなよ彩芽」
静かに、それでも確かな怒りが含まれた声がする。
目の前にいる友莉は、いつも彩芽に優しい言葉をかけていた人物だとは全く思わせないほどに冷たい目をしていた。
「浅岡はさ、本当にどうしようもないやつだよ。坂本先生の車追いかけるのに付き合わせるわ、クラブ紹介の時にはめちゃくちゃな作戦言い出すわ、菊原の件にだって一人で首突っ込もうとするし」
ただ俯くだけで何の反応を示さない彩芽に、友莉は言葉を続ける。
「それでも、こいつがいてどうにかなったことばっかだった。だから彩芽が浅岡の言うことを否定したくなるのもわかる。けど、その『ありがとう』だけはちゃんと受け止めてあげなくちゃ。じゃないとあたしたちは、あの時と変わらない…」
友莉はそこで話を切ると、悔やむように眉をひそめる。
音が止んで、張り詰めた沈黙が室内を覆う。
しかしその静けさも、彩芽の言葉で終わりを迎えた。
「やっぱりすごいね友莉姉は、昔から…。ダメな私じゃ、どうやったってわかんないよ」
彩芽はゆっくりと席を立ち、静かに部室から立ち去った。
廊下から響く足音だけじゃない、何かが崩れていく音が頭に鳴り響いた。
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