29話 刺客が来た
このいかにもな鈴木の目論んでいると言わんばかりの顔!!
どうやらもう腹を括るしかないらしい。
「命令とはずばりですね……」
「……」
間を空けるの好きだなこいつ。
多岐にわたる属性を有している鈴木がするような命令とか、全く見当がつかない。
なんか何考えてるかわかんねぇんだよこいつ。
だが、この命令で鈴木という人間について、何かわかるものがあるのではないかという確かな予感がある。
というかはよ言えやっ…!
「……
「は…?そんだけ?」
「えぇぜひお聞かせくださいっ!」
鈴木は目を
だっめだ本当にまじで何考えてんだ。
まぁいいや、ただ答えるだけでいいのなら超イージーな命令だしな。
「あぁそうだな、こいつらはぁ……」
一つ、空けた窓から春風と共にウグイスのさえずりが、教室の中をこだまするように響き渡る。
んーーーー?
もしかして、これめちゃくちゃ恥ずかしいやつー?
ねぇ真隣にいるんですけどその某双子が。
「どうしましたぁ?これは不可避の命令ですよ~ ME・I・RE・I」
「あぁうっせぇな!今言うとこだったんだよ」
「ではどうぞ」
こいつめんどくっせぇ!!!
まるで宿題をやれという母と思春期まっさかりの中学生のようなやり取り。
「
彩芽は気を遣ってくれているのか、不安げに俺の目をのぞき込む。
これは時間を空ける分、気まずさも増していくやつだな…。
俺は意を決して、外の景色を眺めながら、言葉を濁すように…
「あーなんだ、まぁまだ短い付き合いだけど色々ありがたいと思わされたんじゃないですか…?正直、俺の作戦に付き合わせることばっかで申し訳ないとも思ってますけど。んでも、こいつら双子は…その…なんだ…手を貸してくれるから、まぁ感謝してるかもな知らんけど」
いやもう誰得だよ俺のツンデレとか!!!!
舐めていた、鈴木のやつ罰ゲームというものをわかってやがる。
「へー。浅岡そんなこと考えてたんだへーーーー」
「うるせぇ…」
手の平に顎をのせ、挑発的な笑顔でまじまじとこちらを見つめてくる友莉。
もちろん羞恥心が邪魔をして、そんな挑発的な友莉と目も合わせられないわけだが。
「あれ?言葉に覇気が感じられませんけど、どかしたの?」
こいつしっつこっ!!!
くっそあの時もう一枚のトランプを選んでおけば今頃は俺の御膝元としてこき使ってたはずなのに…!
何ともたらればなことを考えていると、鈴木はぐったりと項垂れながら両手を机の上で滑らせるようにして体を伸ばす。
「あーもう拍子抜けですよぉ私は…」
「なんだってんだよ、先輩が身を
言うと鈴木は長い銀色の髪をなびかせながらバッと顔を上げて。
「私は色恋の話が聞きたかったんです!!」
「あー…そういう
俺は悟った目で小さく呟いた。
今わかった、というより思い知った。
こいつのことは知ろうとするんじゃなくて、慣れるべきなんだ。
「友莉先輩も彩芽先輩もめちゃくちゃ美人さんじゃないですか?!この艶やかな
「何がわかったってんだよ?!っはぁ…ほんと
「す、すみません…!言葉が過ぎましたよね、私…」
ほんと忙しいやつだな…
コロコロと変わる表情が面白おかしくて、思わず笑いが漏れる。
「いやいや堅い方がめんどくさいし。お前みたいなのはわかりやすくて好きだわ」
すると鈴木は、どこか驚いている様子で
「…社交辞令でも、素直に受け取っていいんですか?そのお言葉」
「んな気を利かせるような顔に見えるかよ」
「ははっ、確かにそうですね」
眩しいほど屈託のない笑顔を鈴木は浮かべる。
ったく…
「そうですねじゃねぇだろ?!?!」
「えええぇぇぇ?!?!」
やっと一泡吹かせてやったぞこの野郎。
「いいっしょもう茶番は。とりあえずババ抜きしてエリカは満足したの?」
鈴木はピースサインを掲げながら、ここに来た経緯を語る。
「えぇ大満足です!思いがけない収穫もありましたし…。お助け部を訪ねたのも暇で友莉先輩どうしてるかなーって思っただけなんで」
にしてもよく
「あのねエリカ、暇つぶしに付き合うほどこの部活はぁ……そういやあんたボードゲーム部だったよね、抜け出してきて大丈夫なの?」
賢明な判断だ友莉、ここはお世辞にも忙しい部活だとは言えない。
「はい。顧問もやる気なくて、数少ない部員で適当にやってるだけなので問題ありません!」
鈴木は曇りなき
ぶっちゃけた話だ…
しかし、我が高校の部活の多さは数知れず。ボードゲーム部のように惰性で活動する部活モドキも多いと聞く。
「あぁそう。用も済んだんだし、さっさと部活に戻ってあげな」
しっしっと手で払って部室から出ていくよう友莉は促す。
「ひどいですねぇ、可愛い後輩が最果てのお助け部まではるばるやって来たっていうのに」
言いながら鈴木は席を立ち、軽くお辞儀をした。
「それでは、物好きな私に付き合って頂きありがとうございました。また遊びに来ますね友莉先輩、彩芽先輩。ついでの浅岡先輩も」
イタズラっぽく笑う鈴木。
「いやもう来なくていいから」
「はいはいついでな」
「はい、また来ます。引き続き頑張ってくださいねー!」
俺と友莉にてきとうにあしらわれながら、鈴木は教室を後にした。
俺は大きくため息をついて、椅子に深くもたれかかる。
「友莉お前…嵐のような後輩をお持ちなんだな」
「あたしも久々に潤ったわ…」
静かになると、グラウンドで活動している微かな野球部員の掛け声が部室に流れ込んでくる。
鈴木の滞在時間は言うほど長くはなかったが、この空気感はどこか懐かしい。
心地いい静寂に浸っている隣で、友莉は小首をかしげていた。
そして友莉は静かな声色で、その名前をぽつりと口にする。
「彩芽…?」
今にも押しつぶされそうな、悲痛な表情で顔を伏せる彩芽が俺の目に映った。
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