25話 キャラクター


「いやぁ本当にありがとう!お助け部のみんな。おかげさまで響奈とはこれからもうまいことやってけそうだ」


 菊原は机に手をついて、深々と頭を下げる。


「つまんねぇな、よかったよ二人が上手くいったみたいで」


「本音と建前がごっちゃになってるぞ沙星さとし。にしても、そういった経験も無しによくあんな的確なアドバイスが出てきたもんだ、おかげで助かった」


「そんくらいお前のダメポイントが露骨だったんだよ。水泳部で忙しいんだろ、もう戻ってくれていいぞ」


 俺は彩芽へのお土産に渡した魚の形をしたクッキーをついばむ。


 これはダイオウグソクムシか…?魚じゃない上に魚を食い荒らすような存在じゃなかったっけこいつ。


「あぁそうだな、いつここの利用者がくるかもわからないし。んじゃ改めてありがとう沙星、と多花栗姉妹のお二方!」


 菊原は席を立ち、また頭を下げる。


 なんというか、相談に来る前の深刻度が菊原の多大なる感謝から見て取れる。


「はいよー」 「うん…えっと、これからも仲良く…ね」


 気だるそうに返事する友莉と菊原のこれからを気遣う彩芽。


「あぁ。他の友達にもこの部のこと布教しとくよ、これからも頑張ってな」


 菊原は手を振りながら部室を後にした。


 ドア越しに菊原の階段を下りる音が静かに響く。


「とりあえず終わったな。お疲れ」


「うん、お疲れさま。沙星、友莉姉」


「まぁ今回は菊原の件で活動報告できるからいいとして。部の存続のためにもまた人呼ばないとだよ浅岡」


「なんで俺」


 初クエスト達成直後にも関わらず無慈悲な現実を突きつける友莉。


 先日の一件から少し心配していたが、ある意味でここまで前向きなことを言えるぐらいなら大丈夫だろう。ひたすらに芯の強い友莉のことだから杞憂に終わるとは思っていたが。


「知名度が上がるまでは浅岡の友達で食つなげないの?」


「ト、モズァ、チ…?」


「なにその友情を理解し始めたクリーチャーみたいなレスポンス」


「いやいや、そんな都合のいいやつ俺にはいねぇよ。菊原をお助け部にデュアルサモンもう一度呼ぶってんなら話は別だが。いやでも、菊原が連続で相談してることが学校職員に知れ渡ったら、助っ人として心理カウンセラーが最強の四人目として、お助け部メンバーに参加しかねないな」


「しかねるから。そもそも二回続けて相談させるっていうのがもう道徳に反してる」


 なかなか好き勝手いうなこいつ。心理カウンセラーが仲間に加われば友達がいないことでいつでも相談できるってのに。


「そういう友莉はいないのかよ」


「あたしも頼んでまで部室に来てもらうほど気の置けない友達はいないかな。彩芽はどうなん?」


 彩芽はかぶりを振って、申し訳なさそうに答える。


「私もいないかも。友達の数は沙星と同じくらいだと思う…」


 どうも最低基準です。


「え、いや、でも浅岡はあれだ。体育の授業でペアを自由に組む方式だといっつも余るから、先生が気を使って出席番号の前後で組む方式に変更するくらいの権力の持ち主だよ。だから浅岡と同じくらい友達はいないってことはないって、ね?」


「おい腫れもの扱いやめろ。あとなんでそのことを知ってる」


 もう三人でカウンセリング受けに行くってことでいいんじゃないか。


「でもほんとにこのままだと、誰もこないんじゃ…」


 彩芽が不安げに呟くと、勢いよく音を立ててドアが開かれる。


「元気にやっとるかーお前ら」


「坂本先生…依頼のことなら一つ達成しましたよ」


「いや、私用があってきたわけじゃなくてやな」


 確かに坂本先生は、部室のドアを開けてすぐのところで話を続けている。


「んじゃあ、他にどういう…」


 その答えが息を切らしたうめき声となって、廊下から響きわたる。


「いやっ…はぁ、速すぎますよぉ先生…!」


「お前が遅すぎるだけや。ほら、ここやぞお助け部は」


「お、ここがですかっ!ありがとうございます!」


 言いながらズケズケと一人の女子生徒が部室に足を踏み入れる。

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