24話 うまい
「なぁ
「どうしたの?」
友莉と出かけた土曜日、ひたすら横になってダラダラしていた日曜日が明けて月曜日の朝。
楓の作った朝ご飯も食べ終わり、いつもの登校時間より余裕があるので二人で皿洗いをしていた。
「もし、目の前のやつが人には言いにくそうなことで悩んでたとして。楓はどうしたのかって話を聞き出そうと思うか?」
楓は「うーん?」と言って怪訝そうな顔をするも、そのまま話を続ける。
「場合にもよるけど、多分聞かないと思う」
「だよな。そう、だよな…」
その言葉に安心したのかなんなのか、食器を洗う手を止めてしまった。
「何かあったの?おにぃ」
「って俺には容赦なく聞くのかよ」
絶対、言いにくそうなオーラ満載だっただろ今の。
「そういうのじゃなくって。さっき言ったばっかりだよ?」
「言ったって何を」
聞き返すと、楓は不思議そうな顔を浮かべながら。
「場合にもよるって」
「…そ、れは。あれか?気を遣うだけ無駄っていう兄へのアンチテーゼではないよな?」
「おにぃがそう思うなら。そうなのかもね」
イタズラっぽく笑みを浮かべる楓。
何とも兄として不甲斐ないばかりだ。
「別に大したことじゃない。また、気が向いたら話すわ」
「そっか…。ならほら、早くお皿洗って学校行かないとだよ」
「だな。ソシャゲのログボが俺を待っている」
「おにぃの友達は馬耳の女の子だもんね」
学校までの長い坂道と、妹に一番頭を抱えたくなる言葉を浴びせられる朝を乗り越え、今日も俺は不破ノ宮高校まで赴く。
◇◇◇
昼休みに入り、食堂で受け取った牛肉弁当を持って部室まで足を運ぶ。
週一とはいえ、牛肉が出るなんて太っ腹だな不和ノ宮公立高校。
部室のドアを開けると、彩芽がいつものように席に座っていた。
「よぉ
「あ、
「あぁ行ってきた。友莉のやつ水族館で本気ではしゃぐから困ったもんだよ全く」
第一声から先日の尾行の件を持ち出す彩芽、
「友莉姉は沙星がはしゃいでたって言ってたけど…」
「まぁお互い様ってとこだな。そういやちゃんと仲良くやってたぞ菊原カップル。教室でも落ち込んでる様子はなかったし、これなら心配いらなそうだ」
「そっか…ごめん。結局一つも力になれなくて、何かしなきゃって思うだけで、何もできずに終わって…」
「いやいやいや、俺らなんか二人の様子見してただけだ。友莉と行動したのも成り行きだったし、彩芽が気に病むことなんかねぇよ」
ただ反省しているだけなのかもしれないが、彩芽はあまりにも人の目を気にしすぎているように思える。
「そうかもしれないけど…沙星はずっと頑張ってくれてたでしょ?」
「お助け部の活動以前にあいつとは友達だからな。なんつーか責任感が先走ったんだと思う。ごめん、そこんとこは俺の協調性が足りてなかった」
菊原に伝えたアドバイスや今回の依頼における作戦のほとんどは俺が発案したものだ。
そこに友莉と彩芽を巻き込んでしまっているのではないかという負い目がどうしてもあった。
「ううん。優しいね、沙星は…」
「なんか友莉にもそんな勘違いされたな…まぁいいや、それより魚の形した粋なクッキー買ってきたんだ。貰ってくれ」
「えっと、ありがとう。でもせっかくだし放課後に皆で食べてもいい?」
「それはもう彩芽の物だし、そう言うならお言葉に甘えさせてもらうけど…」
「うん、そうして。なんか沙星がこういう計らいするのって、ちょっと変な感じかも」
「それも向こうで友莉に言われた。今はさっさと飯済ませようぜ、今日は牛なんだ」
「牛?うん、そうだね。食べてすぐ寝ると牛に…でもまだお昼ご飯食べてないし…どういうこと?沙星」
「さぁ、なんだろうな」
「いじわる…」
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