22話 ひた隠さない


 俺と友莉は、不破ノ宮高校の最寄り駅まで電車で戻る。


 ここまで特に会話することもなかったが、貸しの件って言うぐらいだから何かしらの命令が下ることだろう。


 クラブ紹介の際に、友莉に頼んだ役回りは我ながら中々ハードだったからな。


 なるほどそれのツケを支払うことになるのだとしたら。


 もってくれオラの体。


「ちょっとそこのベンチで話さない?」


 友莉は駅を出てすぐ、ロータリー脇にあるベンチを指さす。


「あ、あぁわかった」


 二人でそのベンチに腰掛ける。


 まじで何要求されるんだ…


「えっと…友莉さん…?」


「どしたの」


「貸しの件っていうのは…」


「言ったじゃん。そこで話さないかーって」


「んなことが貸し?!」


「えっそうだけど、なんかまずい感じ?」


「いやだってお前…」


「ん?」


 友莉は不思議そうに首をかしげる。


「…っはぁ…ちょっと待ってろ」


 俺は立ち上がって駅前の自販機に飲み物を買いに向かった。


 本当に変なやつ。


 少女漫画的なセリフを思い浮かべつつ、自販機の前に立ってラインナップを吟味。


 カフェオレも捨てがたいが気分的に俺はお茶でいいとして。


 しまった何が欲しいか聞いとけば…


「あたしこのアップルジュース」


「っどぅをいぃ!!つったろ待ってろ!」


「驚きで反対になっとるし。おごってもらえるなら自分で選ぼうかなと」


「卑しいやつだな…ほらよ」


 言いながら、アップルジュースのボタンを押して友莉に突き出した。


「そうすよ。あたし欲しいものに妥協なんてしないから」


 友莉はそれを受け取ると「あんがと」と言ってまたベンチに歩いていく。


 普通疲れるだろ、妥協しないことって。


 時刻はまだ17時過ぎ。


 水族館にも行って時間が経つのが遅いように感じるが、見て回るだけなら現地での消費時間は以外に短い。


 この中途半端な時刻のせいか、人の流れは常に数える程度しかなく、近くで行き交う車の音が妙な静けさを際立たせていた。


 再びベンチに腰を下ろすと、友莉は駅の方をどこか遠い目で眺めながら今日のことを話し始めた。


「とりあえず良かった、菊原たちが何事もなくうまいことやってて」


「だな。改めて助かったわ、お前がいてくれて」


「一人で尾行するのは心許ないしね」


「それもあるけど、友莉がいなかったらここまで楽しめなかったと思うからさ」


「もう言ってることが趣旨変わってんじゃん。まぁでも、あたしも楽しかったかも」


 少しの間、友莉は押し黙ると重たそうに口を開けて。


「なんで…花屋の前に立ってたのか、だったよね…」


「――――――」


「えっとそだな、どっから話せば…」


「あぁ悪いっ!!!」


 俺は勢いよく上半身を前に倒す。


「は?!どしたのっ」


 体を起こして、おそるおそる友莉に視線を向けた。


「自分から言っといてあれなんだが、今は友莉が言いたいことだけ聞いたらだめか…?」


 友莉はあっけにとられたような表情を浮かべると、一変して大きく笑いながら。


「ははっ、キモっ、似合わなっ」


「よし死のう」


 俺はバッと立ち上がる。


「冗談っ冗談だから!!」


「自分でもらしくないこと言ったと思ったんだよほらこれで満場一致でキモい!!マジョリティが常の世の中で俺は同調圧力に殺されるべきなんだっ!!」


 明後日の方向へ向かわんとする俺の腕を、片手で引っ張って制止させようとする友莉。


「いいから座りなって」


 心を落ち着かせ、またまたベンチに腰を下ろして深く項垂れる。


「はぁ…いやもう今のでごっそりHP削られたわー」


「ごめんごめん、ここまで刺さると思ってなくて。あたしも不器用だからなんて返そうか迷った」


 友莉は本当に謝っているとは思えないほど、尚もくつくつと笑っている。


「悪かったな不器用引き出すくらいキモいこと言って」


「そうじゃなくて。その…なんていうか、嬉しかった?から」


「いやそもそも俺が変なこと尋ねなかったら済んだ話だ」


「あんたとことんだな…」


 呆れ混じりに言うと、友莉は仕切り直すように一つ咳き込んで。


「なら改めて付き合ってもらおっかな。あたしの『言いたいこと』に」


「それが貸しの一件なんだろ、好きにしろ」


 友莉はまたふっと笑顔を浮かべると、そのまま話を続けた。

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