21話 やるせなさ

 友莉を連れて、菊原カップルの待ち合わせ場所である駅前の広場まで足を運ぶ。


 二人の集合時間は12時半、今は12時ちょうどだ。


 ちなみにモーリーファンタジ○はご健在であった。


「おっもういるぞ、菊原のやつ」


「ほんとだ、なんとなく集合時間ちょうどか少し遅れてくるかと思ったけど」


「そこらへんもちゃんと釘を刺しといて正解だったな」


 昨日の話し合いで、デートにおける対策は済ませている。


 少し離れたところで、こそこそと周辺を見回していると間もなくして彼女さんも集合場所に到着。


「ごめん潤、待った?」


「い、いいやっ今来たとこ!」


 カップルってリアルでこんな定型文と化したやりとりするもんなんだな。


「いい出だしなんじゃない。菊原はなんか緊張してる感じだけど」


「そりゃ緊張もするだろうよ。よしっ俺たちも動くぞ」


 注意を払いつつも、二人で駅の中へと向かう菊原カップルの後を追う。



 ◇◇◇



「でかすぎんだろ…」


「なに突っ立ってんの、見失ったら面倒だからはよ」


 ほけーっと口を開けて立ち止まる俺に友莉が声をかける。


「水族館だぞ!それも日本で指折りの!」


「デートの鉄板だと思うけど…」


 客層は子連れからカップルと様々で来場者はかなり多い。


「浅岡は来たことないの?水族館」


「小学生の頃に母親と妹とで来たことはあったけど、退屈すぎて一人で館内のベンチで寝てたな。薄暗くて、ちょうどいい閉塞感もあったからぐっすり眠れたぞ」


「魚はあんたでしょ…てか妹なんかいたんだ」


「あぁ、俺と似つかず大人から子供まで人気がある」


「テーマパークみたいな言い回しやめたら?ってツッコむのも疲れてきた…さっさ行くよほら」


「あぁそうだな。言っとくがボケてねぇからな」


 あくまでも今回の目的は菊原カップルの動向を見守ることだ。


 退屈は必至だろうが、せいぜい気張っていくとしよう。



 ◇◇◇



「おおいやべぇぞ友莉!!なんかこう、なんかこうでっかいのからちっこいのまでヒラヒラと泳いでんぞ!!」


 ジンベエザメの歯は約8000本?!嘘だろおいどうやって数えた?!?!


「確かにでっかい水槽、海そのものって感じだ」


「しっかしロマンがあるな水族館ってのは!大きくなってみないとわかんねぇもんだな!」


 珍妙な生き物たちを前にして、高ぶっている俺と対極に友莉は悠然とした様子で水槽を眺めている。


「大きくなってわかるのはロマンスでしょ。なんで小さい時にそのロマンがわかんなかったかな」


 こんなにもワクワクしているところに水をさすなと言ってやりたいが、中々うまいこと言うなこいつ。


「友莉はなんの面白みも感じてないのか?」


「面白いよ、普段見れないもの見れるわけだし」


「にしては顔に出てねぇな。そうか表に出すのが恥ずかしい年ごろなのか」


「うぜ」


「やべぇ菊原たち見失っちまう、次だ友莉!!」


「そっすね…」


 ◇◇◇


「これがカピバラか!ばかでかいネズミの仲間らしいぞ」


「ざっくりしすぎでしょ。いつもの浅岡もこんなだるそうな顔してるわ」


「いやもうちょい目つき悪いぞ」


「卑屈」


 ◇◇◇


「すげぇペンギン見るの初めてだ!あいつらのビンタって人間の頬骨を粉砕するらしいぞ」


「シュールな特徴。てかペンギンってあんな鳴き方するんだ」


「あぁ俺もてっきりマグナムかと思ってたよ。なんとも言葉にあてはめにくい鳴き声だな」


「こう、ぐぁ~~って感じ」



「――――――――」



「――――――――」



「殴っていい?」


「なんでだよっ!!」


 ◇◇◇


「このガチャガチャ、ニセゴイウツボほんとに入ってんのか?暴露系Youtub〇rに取り上げてもらおうぜこれ」


「あっ出たっぽいわそいつ」


「いいな…」


「じゃあはい」


「くれんの?!」


「なわけないっしょ、そのワモンアザラシと交換」


「このキャラ可愛いけどいいのか…」


「なにその腹立つ気遣い。いらないの?」


「いります!ありがとうございます!」


「はいはい。まぁあたしもアザラシの方がよかったし」


 ◇◇◇


 そろそろ夕暮れも差し込む時間になり、俺たちは水族館を後にする。


「結局、後半ぐらいから菊原カップル見失ったじゃん」


「二人とも楽しそうにやってたし大丈夫だろ。そんで俺も大いに楽しめたから大団円だな」


「どんだけ自分の感情に素直なん。確かに一番楽しんでたのはあんただろうけど」


「かもな。ありがとうな友莉、付き合ってくれて」


 言うと、友利はその場で立ち止まって足元を見つめる。


 すると、心苦しそうな顔色を浮かべて。


「…いや、ごめん、ちょっと違うかも」


「違うってのは、お助け部として同行したからってことか?」


「それも違うんだけど…ははっ、なんか難しいね口にするのって」


 そうして言葉を濁す友莉の笑いは、どこか自嘲しているようで。


「なぁ、無神経かもしれないけど聞いてもいいか」


「いいよ別に」


「なんで今日、花屋の前に立ってたんだ」


 賑やかな喧騒が響くモールの中で、一人沈んだ表情で花屋の前に佇んでいた友莉。


 そんな対照的な絵ずらが、俺の頭からずっと離れなかった。


「無神経かもしれないけど、か…案外目ざといね浅岡。うん。じゃあ、あたしからも一つ聞いてい?」


「あぁ。構わねぇよ」


「覚えてる?クラブ紹介の時の貸しの件」

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