18話 渇望
翌日、木曜日の放課後
俺たち三人は、
どうやらデートの許可は下りたらしい。
だが遠くに見える菊原は、彼女との現状が現状だけに、どこか落ち着かない様子だ。
「まーだ来ないね、彼女さん」
「色々あるんじゃねぇのか?女の子なんだし」
「浅岡、今はそういった発言ってセクハラ案件らしいよ」
「世知辛いよな現代日本ってのは…」
「あっ、来たよ」
ここからではあまり聞こえないが、二人は何か話し合っているようだ。
「ん?どんな感じだあれ」
「悪い空気ではなさそうに見えなくも…あっ正門の方に歩いてく、二人ともはよっ…!」
友莉は立ち上がって、早々に菊原カップルの尾行を始める。
「なんか気が早ぇなぁあいつ。菊原の言ってたデートプラン通り、最寄り駅の方に向かってるっぽいか」
俺も重い腰を上げて、その場でぐっと伸びをする。
「行くか~俺たちも」
「―――――」
「彩芽…?」
まだ横でしゃがんだままでいる彩芽はというと。
「…なんか……ワクワクだね」
「思ったより、というかちゃんと双子だよお前ら…」
どっかの気が早い姉と同じような表情を浮かべる彩芽に、俺は苦笑交じりにそう返した。
◇◇◇
彩芽と二人で駅前に着いたところで、こじゃれた喫茶店の中に入っていく友莉を発見。
それを見てなんか焦った俺たちも、つられて入店してしまった。
「今のとこ変わった様子はなさそう…だな。てかなんでお前も入店すんだよ」
「外からじゃ通行人に怪しまれるし、二人が何話してるかも聞こえないじゃん」
「
「ふふん、でしょ」
称賛の目を向ける彩芽と、自慢げな笑みを浮かべる友莉。
「っんとこいつら…」
菊原カップルは三つテーブルを空けた先にいる。
彼女さんは特にこちらを気にしてる様子もないし、俺たちで適当に会話をしながら聞き耳を立ててる分には怪しまれないだろう。
「まぁいつまで居座ることになるかもわからねぇし、とりあえずなんか頼んだらどうだ?」
「そうだね。んじゃあたしはカフェラテとパンケーキにしよっと」
「飯も食う気かよ」
「飯じゃなくてデザートだから。それに偵察といったらこの二つが定番っしょ」
「それ牛乳とあんぱんだろ、やだわそんなマリーアントワネットの生まれ変わりみたいな刑事。なんで意識高いものに昇華すんだよ」
「はいはい、ちょっとしたボケにそんな長いツッコミ返さないでよ」
落ち着け
「彩芽は何にすんの?」
友莉はメニューを彩芽に向けながら問いかける。
「私も、カフェラテにしようかな…」
「そっか。んでおは朝は?」
落ち着け
「えっと、俺はアイスコー…って高いな。隠し味にキャビアでも入れてんのか?水で」
「ちょいちょい、ここはあんたも何か頼みなって。後でお互い気まずくなって箸が進まなくなるから」
「洋食店だから箸はないが…まぁ一理あるな。そうだなアイスコーヒーにするか」
俺は店員を呼んで、まとめて注文内容を伝える。
店内の客数が比較的少ないこともあって、菊原カップルを視察する間もなく商品が運び込まれる。
そして間髪入れずパンケーキに手をつける友莉。
「うん、適度な甘さでほんとおいしいわこのパンケーキ。彩芽も食べる?」
「ううん、私はいい。友莉姉が食べて」
「そんなこと言わずにさ、一口だけでも。ほら」
友莉はほどよくバターがかかっている部分をフォークにのせ、彩芽の顔の前に差し出す。
「じゃあ…いただきます…」
「はい、どーぞ」
彩芽はおどけつつも「んむっ」と言って、差し出されたパンケーキを口に運ぶ。
こいつら完全に趣旨を忘れてないか…?
って今すぐにでも口をはさみたくなるが、なんなんだろうなこの気持ち。
俺は全身緑のタイツを身に着けてグリーンバックの中に消えた方がいいような…ここに俺という男がいていいのかという背徳感がある。
「おいしいっしょ?」
「うん、すごくおいしい。私も何かあげれたらよかったけど、友莉姉と同じカフェラテしかなくて…」
「んなこといいの、あたしの自己満足なんだから」
二人が仲睦まじく話している間に、俺は菊原カップルの方にそれとなく目を向ける。
「嘘…だろ……」
くわえていたストローが口からホロリと落ちる。
「どうしたの浅岡」
「菊…原が…」
「あぁ、あっちも注文が来たみたいだね」
「頼んでんだよ…」
「へー、あんたと一緒のアイスコーヒーだったり?」
「――――水を」
「「えっ……」」
のどが渇く
幸か不幸か
アイスコーヒーの氷はなおも 正六面体の形を保ったまま
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