17話 超鈍感

 

「俺はよくある可愛い痴話げんか程度だとは思ってるんだけど…」


「ほーん。んでどの程度だよ」


 曇った表情で彼女との今について語りだす菊原に、興味なさげに質問を返す。


 当人が可愛い痴話げんかって言うくらいだし、そこまで干渉する必要はなさそうだな。


「それが…全く口をきいてくれない」


「…SNS上でもか…?」


「あぁ…」


 断じて可愛くはない。


「いつからそんな事態になったんだよ」


「どうも先週の日曜日にデートしたあたりから、もう…」


「絶対そのデートの途中になんかしでかしてるだろ」


「それが身に覚えがないんだよほんとに」


「ほんとかよ…」


 でも菊原は鈍感ではあるが、人を傷つけるようなことは絶対にしないやつだ…となると彼女の方になにかしら問題があるとしか。


 作った飯に醤油かけられて発狂死するぐらい気が短かったりとか?


 でもこれは明らかにセオリーじゃないよな。


 もう彼女さんが事故に遭って死ぬ直前にタイムリープするも、自分が死ぬ未来を変えることは出来ないと知って、せめて彼氏である菊原に自分の死を悲しんで欲しくないから、あえてそのエックスデーまで最愛の人の言葉を自分の心を殺しながら無視し続けているという状況しか思い浮かばねぇぞ。


 お助け部、めちゃくちゃ野暮なことしようとしてんじゃねぇか…


「んじゃ菊原はその彼女とよりを戻したいってことでいいわけ?」


「あ、あぁ、そうなる。えっと多花栗…姉でよかったよな」


「二人が双子ってこと知ってんのか?!」


 あまりの衝撃に俺は机に手をついて身を乗り出す。


「そりゃまぁ。学年に双子がいたら知っててもおかしくないと思うけどな…」


「うんそれな。生憎、菊原と違って俺にはコネがなくてな」


 学校生活で人と関わらずにいるとこういうことに成りうる。


 そもそも金と飯以外に興味がないってのもあったかもだが。


 一つせき込んでから俺は左手を上げて。


「すまん、話を戻そう。菊原に一つ提案したいことがある」


「おぉ!なんでも言ってくれ!」


「お前と彼女が一緒にいるのを尾行してもいいか」


 ド直球な提案を見かねたのか、友莉が俺にひっそりと耳打ちする。


「流石にそれはまずいんじゃない…その、色々と」


「あぁ頼むっ!!!」


「頼んじゃったよ…」


 菊原の即答に呆れて声を漏らす友莉。


 俺自身もここまでの快諾が返ってきたことに少し取り乱すも話を続ける。


「んまぁ、一応なんでか説明させてもらうぞ。菊原の失敗談から、解決案を出し合った上で本人に実践してもらい、大成功に終わる。ってのが一番きれいな形だったわけだ。だが、当の本人は身に覚えがないときた」


「いやぁ面目ない…」


「こうなったらカレカノである二人を観察して菊原の何がだめだったのかを追求するしかないだろ」


 俺としては彼女の方になにかしら問題があると睨んでいるが、あえて菊原の前ではそのことを伏せる。


 善良なオールラウンダー菊原にここまでの仕打ちとなると、そうとしか考えられない。


「なことしなくても菊原が彼女から自分の何が悪かったのか吐かせればいいんじゃん」


 頬杖をついて、めんどくさいと言わんばかりの顔で異議を申し立てる友莉に、俺は肩をすくめる。


「あのなぁ…なんかやっちゃったやつに『僕、なんかやっちゃいました?』ってとぼけ顔で聞かれるモブの気持ちも考えてやれよ」


「うっ、意味わかんないけど言えてるかも…そこんとこ気ぃ利くの以外だわ」


 経験者は語る、ってな…


 友莉を納得させ終えたところで、菊原に視線を戻す。


「んなわけで菊原、なんか彼女と二人でいる時間とかって作れそうか。できれば今週中に」


「あぁ、実は木曜日は互いに部活がオフでさ。毎週そこで放課後デートしてるから、そこでどうだ?」


 なんなんこのカップル


 俺はため息交じりに頷きながら。


「あぁ問題ねぇよ。って明日か木曜」


「そうだな。もしかしたらドタキャンされるかも…」


「そん時はまた考えよう。んじゃあ、いけそうか…?二人とも」


 主に彩芽への確認のため二人に問いかける。無理をしていないかだけが心配だが…


「んー」 「大…丈夫」


「お願いしまっす!!お助け部の皆さん!!」


 なんつーか濃い放課後になりそうだ。

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