15話 すこしの変化
クラブ紹介当日。
体育館は、観客である生徒たちが発する騒然な声で、いっぱいに満たされている。
今年のクラブ紹介も例年通りの出来栄えだ、ここまで賑わっているのも頷ける。
にしてもクラブ紹介において野球部が漫才をするのは校則で決まってんのか?
俺たち三人は体育館後方で、その時が来るのを三角座りでじっと待っていた。
クラブ紹介もいよいよ大詰めだ。
「彩芽、ちゃんと持ってきたな?」
「うん。ばっちり」
「おい、友莉…その…大丈夫か…?」
魂が抜けたような形相でぼそぼそと何か呟く友莉。
「大丈夫…?大丈夫なわけないじゃん!いっとくけど貸しだからね。ほんと、もう…やだ…」
「はいはい焼きそばパンでもアクエリでも買ってくるから頼むぞ」
こいつ意外と緊張しやすい
ここまで
かく言う俺も正直ビビってるが…
だが、金と飯のことを思うと自然と力が湧き出てくる!!!
「よし、そろそろだな。いくぞ、二人とも!」
「うん」 「はぁ…」
クラブ紹介も終わり、生徒会長が締めの挨拶をする。
「新一年生の皆さん。本校の生徒たちがお送りする様々なクラブ紹介、いかがだったでしょうか。気になる部活があれば、ぜひ足を運んでみてください。それでは自由解散といたしますので、後ろの扉からお帰りください」
「いやー!今年のも傑作たらけだったな!!」
「私、軽音部よさげだと思うんだけどどう?!」
「去年も水泳部のクオリティ高かったよなぁ」
興奮しながら友達と語らう生徒、やっと終わったとあくびをしながら帰ろうとする生徒。
各々が
「あ、アー!どこかに財布落としちゃっター!ど、ど、ど、ドウシヨー!」
帰ろうとしていた一部の周りの生徒たちが足を止め、ざわつく声が体育館を包み込む。
演技へっっったこいつ?!
「どうかされましたか…?」
互いにひきつった顔になっていることを自覚しつつ、そのまま猿芝居を続行。
「え、ええっと。財布がどこかいっちゃったみたいデ」
「それは大変!よろしければ、放課後お助け部まで来ていただけませんか?」
「なんですカ、ゴマダレ油っテ?」
「お助け部です」
そうはならんやろ
「えっと、お助け部では様々な奉仕活動をしており、生徒の失くし物の捜索やお悩み相談、なにか人手が必要なことなど多方面での人助けを行っております」
「ヘー!それはとても助かりますネ!」
「はい!なのでお困りのことがあればC棟四階に上がって右端にあるお助け部まで!みなさんのご利用お待ちしております!!」
パ ン ッ ッ ッ
隣でクラッカーを鳴らす彩芽。
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「よし、撤収」
俺たちは、ぽかんと動けずに放心している生徒たちをよそにそそくさとその場を後にする。
◇◇◇
「だぁぁ!!!もうなんなんあのシュールさ?!?!」
友莉が抱えていた羞恥心が、喚き声となって渡り廊下に響く。
「そう思わせるのが目的だからな。あと友莉さん大根役者すぎ」
「はぁ?!あんたもなにあの胡散臭い演技!見てるこっちが恥ずかしくなるわ」
「彩芽もお疲れ。いきなり人前に立たして悪かったな、大丈夫だったか?」
憤る友莉をよそに、卑屈そうな顔で足元を見つめる彩芽に声をかける。
「大勢の前で話すのはちょっと疲れるけど、あれくらいなら全然だったよ。むしろこんなことしかできなくて、その…ごめん…」
本当にいい仕事をしてくれたから、自分を責め立てる必要なんかないんだけどな…どう言ってやるべきか難しい。
「…いいや、彩芽は」
「彩芽は自分にできることを最大限した。だからそれでいいの。浅岡もこれしかないと思ってやったんでしょ」
「あ、あぁ。もちろん」
「ほら、バカなこいつがそうだって言ってんだから。彩芽は本当によくやったよ」
友莉は彩芽にそう言って、
「そっか、そうだよね…
友莉の言葉を一身に受け、彩芽はこくりと頷いた。
結局、友莉のやつがフォローいれるのか。
いや、こいつら双子にとっては助けるとか助けないとか、そういう話じゃないのかもしれない。
「てか浅岡。貸しの件、何にしとくか考えとくから」
友莉は目つきを鋭くさせてマジトーンで俺に言い放つ。
あ、泣く
俺はその眼光から逃げるように、遠くに広がる青い空に目をやった。
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