13話 げんじょういじ

 

 ぼっち飯。


 定義は単純明快、一人で昼飯を食すること。


 このぼっち飯を行う人間は大きく分けて三種類、存在する。


 一 友達がいない

 二 友達はいるが、その友達は違う友達と昼食を共にしている

 三 昼飯は一人で黙々と食べたい


 俺の場合、三に該当するといえる。


 なので友達がいないだとか、友達の内輪に混ざる勇気が出ないとかでは断じてない。


 俺はいつも教室でスマホをいじりながら食べているが、これは一人で箸を進めているだけではぼっち飯オーラが尋常じゃなく発せられるため周りから不憫ふびんに思われないようにするための保身でもない。


 自己紹介終わり。本題に入ろう。


 ここまでの解説からわかる通り、ぼっち飯は『周りの生徒の存在』があって初めて完成するのである。


 逆説的にいえば、ぼっち飯は他者の存在なくして成立はしない。


 家で一人夜ご飯を食べていても、それをぼっち飯だと揶揄する者はいないだろう。


 つまり、大衆に晒されていなければ抑止力が働くことはないのだ。


 さしずめ、シュレディンガーのぼっち飯と言ったところか(言ってみたかっただけで意味はよくわかっていない)。


 そしてだ。ついに、ついに俺は手に入れた…


 誰にも邪魔されず、見られることのない部室エデンを!


 最果てに位置するお助け部のドアを勢いよく開く。


 バン!1カメ バン!2カメ バン!3カメ



「…えっと、彩芽あやめ…?」



「ん、さほひ」


 そこには頬張った口に手のひらをあてた先客がいた。



◇◇◇



「まさか彩芽もここにくるとはな」


「私も、びっくりした」


 俺は彩芽から横にひとつ開けた席に座っている。


 昼食も終えて互いに五限までやることもないし、どうせならこの機会に彩芽がどんな奴なのか知っておきたい。


「彩芽は友達とは一緒に食べないのか?」


「そういうこと、ストレートに聞くんだ」


「うっ、ごめん…」


 こうやって女子と話す機会があまりないから、デリカシーの無さがあらわになる。


「冗談。一緒に食べる友達がいないわけじゃないけど、こうやって一人で食べるのってなんだか落ち着く」


「そうなのか、お邪魔ならここを離れるけど…」


「ううん。なんでだろうね、友莉ゆりねぇと近いような…沙星さとしからはそんな感じがする」


 よかっだぁぁぁぁぁあの真顔で


「うん、超邪魔」


 とか言われたら間違いなく白目むいて気を失ってた。


 てか俺と友莉の共通点とか、人を寄せ付けないような雰囲気ぐらいしかないだろ。


「そういや、その友莉とは食ってねぇんだな」


「うん。友莉姉は自分から誰かと食べようとはしないけど、友達の方からよくお誘いがくるから。それに姉妹そろって食べるって、世間的にもあんまりないと思う」


「言われてみればそうか。あいつが誰かに誘われるってあるもんなんだな」


 なにこのすげぇ負けた気分。


「最初はみんな警戒するけど、話してみると良い子だって気づくんだと思う」


 彩芽はいつも無表情で声の抑揚もなく、おっとりとしている。


 でも友莉について語る表情や声色は、どこか嬉しそうに映る。


 はず…なのに、それはどこか自嘲してるようにも見えて


「私にとって沙星が、そうだったよ?」


「おっ、なかなかお目が高いなー彩芽」


 俺が冗談で返してみても、彩芽は真っすぐな目でこちらを見つめている。


 …なんか騙してるみたいで気が引けるなこれ。


「悪い、やっぱなし。そんな出来た人間じゃねぇよ俺」


「そっか…それじゃあ、似た者同士だね」


「俺と彩芽が?」


「うん。私、悪い子だから」


「…なんでそう思…」


 言いかけたところで、予鈴のチャイムが鳴る。


「もうこんな時間…教室までちょっと遠いから、早く戻ろっか」


 そう言うと彩芽は弁当を片して、席を立つ。


「だな、いくか」


 結局、彩芽のことはよくはわからないままだ。


 聞きそびれたな…


 いや、なんでかわからないけど


 聞かない方がよかった、そんな気がする。

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