12話 多花栗彩芽は望む
双子…?えうそうそ、双子?双子ってそーせーじとかのあれだよな
「まじ…?」
「まじ」
間髪入れず
信じられないが確かにある、彩芽の顔を見た瞬間に何となく既視感を感じていたあれだ。
改めて見てみるとこの端整な顔立ちもどことなく似てるような。
いーやだとしても…
「雰囲気が全然違ぇだろ、てか逆じゃねぇか。彩芽の方が断然、柔らかいオーラ出てるし。友莉はもっとこう威嚇するような…」
「あ?」
「先生、どうか話の続きを」
こちらを睨む多花栗から逃げるように、光の速度で話を戻す。
というか、この人はなにニヤニヤと楽しんでんだ。
「はいはい、といってもさっき言った通りなんやけどな。双子の多花栗姉妹にはここで頑張ってもらう、んで毎週金曜日にはどんな活動をしたか報告書にまとめるようにな。ってことでこれが食券使い放題券、これ見せて何の弁当にするか伝えればええわ」
坂本先生はポケットから取り出した三枚の食券使い放題券を机の上に並べた。
右下にはお助け部と記されている。
「おおぉぉ!ありがとうございます!!!」
券の使い放題券ってなんだァァァァァ?!?!?!?!
俺は一人テンションぶち上げで食券使い放題券を手に取り空に掲げる。
横の二人は礼を言いながらもスッとそれを財布にしまった。
にしても双子か…なんか凄いな、何が凄いのかわからんけど。
「使い放題といっても一日二回までやけどな。昼に一回、持ち帰る形で一回、使えばええわ。浅岡は身内さんの分も含めて計四回いけるからな。てことで話も終わったし私は職員室に戻る。日々、慈善活動がんばるように」
ほんと淡々としてんなーこの人。
坂本先生は席を立って、部室から出ようとしたところで不意に足を止める。
もう嫌な予感しかしない。
「あ、そうや浅岡。苗字やと、
言いながらスタスタと教室を後にする。
「……」
きっちり爪痕残していきやがった
女子を名前で呼ぶとかハードル高すぎるだろ。
小学生の頃、男女問わず名前で呼び合っていた
「確かにこの部員でやってく以上、名前で呼ぶ方がいいだろうね」
どこか気まずい空気の中、多花栗が口を開く。
「いや、でもなぁ…」
「うん、いいと思うよ…?」
二人はこちらの決まりの悪さを察してくれたのか、先だって賛同してくれている。
「今までもどっちかわかんないって理由で、名前で呼ばれることあったし。まぁ彩芽とはクラスも部活も違ったから、こういったの意識したことあんまなかったけど」
「そうなる、のか…?」
「ならあだ名で呼ぶ、っていうのはどう…かな?」
俺が眉をひそめて悩んでいるところに、おずおずと彩芽が提案する。
「おぉナイスアイデアだなそれ」
「あたしは今まで『りつ』とか『りっちゃん』とか呼ばれることあったけど」
「私は『あや』…とかかな」
「どっちもボツだな」
「えぇ…もう他にあだ名とかないんだけど」
『あや』はかえってそういった関係みたいな感じが際立つし、『りつ』と『りっちゃん』はドラムやってるしで既存だ。
「じゃあ…その、
「いや、それもできれば…」
ニーナとアレキサンダーどっかにやった研究家じゃねぇか。
「だよね…」
やんわりと否定したつもりが、彩芽はシュンとしてしまう。
「いやぁ良いとは思う、うん、でもだなあの…」
俺があたふたしているところに多花栗は口をはさんだ。
「いっそのことあんたが好きに決めたら」
「俺が?!」
落ち着けここで変な提案したら即刻、お助け部は解散の危機だ。
ここは無難かつ遠回しに判断をゆだねるような形で…
「そう、だな。英語表記にするとか」
「あぁ、
「だっせぇぇぇぇ言われててむずがゆいわ」
「うっさいな、ちょっと例えてみただけじゃん」
言うと多花栗も恥ずかしくなったのか、少し顔を赤くして口元に手の甲をあてる。
「私たち多花栗の栗って漢字からとって…マロンとか?」
「愛犬かっ。あとマロンって英語だったっけ?」
漫才のようなやりとりに辟易したのか、友莉は小さくため息をついて
「もう名前でいいんじゃん?あたしらほんと気にしないしそういうの」
確かにこれ以上付き合わせるのも悪いか…
「もう手詰まり感もあるしな…それでもいい感じか?友莉、彩芽」
「はいはい」 「うん、いい感じ」
今回は二人が気を回してくれたのに素直に助けられたな。
「私たちも、名前で呼んだほうがいい?これでフェアっぽいというか…」
彩芽は覗き込むように訪ねてくる。
「んん?あー…俺は別に何でも」
某主人公とのギャップがコンプレックスで息も絶え絶えになるけど。
「んじゃ仕込みとはいえ彩芽の依頼も達成したし、日が暮れる前に帰りますか」
そう言って友莉が鞄をもって席を立ち、それに俺と彩芽も続く。
雰囲気ヤンキーにおっとり片目に全体的に不愛想な俺
明るい要素が皆無のこのメンバーで、やっていけるかだけが懸念される。
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