11話 ビッグバンインパクト


 二人を連れて部室のドアを開けると、手前側に並ぶ三つの席の真ん中に座る坂本先生の姿があった。


 俺は手前側に並ぶ椅子を一つ引っ張って、奥側の真ん中の席に配置する。


「あんがと」


 言うと多花栗は真ん中に座る。


 そして俺はその左、彩芽が右に座った。


「どういうことっすか先生、なんで彩芽がここに」


 全員席に着いたところで、早々に多花栗たかりつが問いかける。


 やはり多花栗は彩芽に思うところがあるようだった。


「彩芽は、人よりちょっと猜疑心さいぎしんが強くてな。浅岡あさおかがどういう人間か知ってもらうためにも、このお助け部に相談するよう仕向けてん」


「え、俺?」


 いきなり自分の名前が出てきたものだから、ぎょっとして先生に訊き返す。


「そうや。そこで浅岡が危ない人間じゃないってことを、彩芽に依頼させた落とし物探しを通して知ってもらおうと思ってん」


「猛獣扱いすか…。というより、言い方からして先生が依頼内容をでっちあげて、それを彩芽に相談させたように聞こえるんですけど…」


「その通りや、二人とも申し訳なかったな嘘の依頼を受けさせてしまって。彩芽も嘘つくのは心苦かったやろ」


 無駄働きってことか…


 でもまぁ、何も起こってないのなら、それはそれでよかった。


 今更ながら考えてみればわかることだ…


 多花栗は坂本先生から彩芽が部室に来る日付を知らされていた。その彩芽がその日にたまたま自転車の鍵を落として、相談にくるなんて都合がよすぎる。


 彩芽が俺の質問にどこか動揺していたのも、そういうことだったわけだ。


 俺が一人納得していると、彩芽は頭を振って。


「いいえ私は大丈夫です。私の方から浅岡くんがどういった人か知っておきたいって頼みましたから。…だから二人とも、ごめんなさい」


 言うと、彩芽は俺たちに向けて頭を下げる。


「先生、まだどういうことかって質問に答えてもらってないんすけど」


 多花栗はそんな彩芽を気にも留めず、坂本先生の方に視線を戻す。


 まだわかってねぇのかこいつ。


「あぁそうやったな。多花栗も、というか彩芽もこのお助け部に入部することになったから」


「はぁ?!」


 至極聡明であるこの俺は、隣りで驚く多花栗の反応をただ眺めていた。


 「初対面の俺のことを知っておきたかった」という内容からしてなんとなく勘づいてはいた。


 たった一回、相談するだけの相手の性格を図る必要なんか無いしな。


 トーシロは察しが悪くて困るぜ全く。


「そりゃ、多花栗友莉をお助け部に勧誘して妹の彩芽を勧誘せんわけにはいかんやろ」


「ごめん、でも私も友莉姉ゆりねぇの力になりたくて…」


「はぁぁぁァ゛ァ゛?!?!」


 思わず声を上げて驚くと、多花栗は顔をしかめながら。


「なんなの浅岡、いきなり叫んで」


「いやだって、多花栗って…おまえ…」


「あぁ言ってなかったっけ。私たち、双子だから」

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