9話 第一号


 うざい。うざすぎる。


 暖かくなってくると現れるコバエども、なんで行きにも邪魔してくるんだよ。


 口に入るわ、目に入るわ、白シャツの胸ポケットにも入るわでまじベルゼブブ。


 下手に払おうとすると虫がつぶれて汚れがつく可能性もあるし。


 とりあえず、とりあえず一句読もう。



 虫けらの

 

 命燃やして


 すぷら〇ぅーん



 悪くはないけど、偉い人に怒られそうな予感がある一句と成ったな。


 虫の居所の悪さを感じながらも、今日もなんとか学校に到着。


 はやいとこ自分の席について、全くプレイしないソシャゲたちのログボもらってガチャ引いて脳汁出す作業してたい。


「よっ沙星さとし


 しけた顔でロッカーのある中央出口まで向かっているところに、後ろから声がかかる。


「おぉ菊原。いつもよりくるの早いな」


 クラスメイトの菊原潤きくはらじゅん。高一の時も同じクラスで適当に仲良くしてたやつだ。


 まじで友達と言えるやつはこいつぐらいかもな…


 なんとも塩顔で好青年って感じの顔つき。口数が少ない俺でも打ち解けることができた人あたりのいいオールラウンダーでもある。


 意図せずに話しかけんなオーラが出ている俺とは真っ反対だ。


「いやぁ今日までの英語の課題出し忘れそうだから、朝から先生のいるC棟までな。浅岡はもう?」


「おぉ、昨日の英語の授業の時に渡した」


「抜けてそうなのにそういうとこはきっちりしてるよな、現金というか」


「確かにいつも自分勝手だよなー俺って」


「どうした?いつもなら言われても現金万歳!万歳!万歳っ!!って感じの反応なのに」


「当選確実野郎の脳内かよ」


「あっはは、また鋭いこと言うなぁ浅岡は!」


 菊原は口を大きくあけながら俺の背中をバンバンと叩く。


「そういえば2日くらい前、坂本先生に呼び出されてたよな」


「なんか入部の件でな。面倒だけど入ることにしたわ」


「へーまぁバイトも禁止になってやることないよな。んでなんの部活よ」


「人だす」


「マジで?!うそ?!あの浅岡が?!木こりの泉にでも落ちたのか?!」


 菊原は心底驚いたように、俺から距離を取って声を張り上げる。


「まだ言い切ってねぇよ!!なんか田舎弁みたいになったし!」


「ごめん。はちゃめちゃが押しよせてきたって感じで」


 くっそなんで俺が慈善活動始めるだけで、どいつも爆炎神龍セットが当たったみたいな反応すんだよ。


 よく考えたら、人助け一つで妹泣かせてんだからとんでもない穀潰しだなおい。


 本当にやってけんのか俺…?


「よっす潤~!今日も一限から現国とかまじ眠なんね~」


 二人で道中話しているところに一人の見知らぬ男子生徒が菊原の横に並んできた。


「よぉ隆斗りゅうとか」



 ででででたーーーーこのくそみたいな状況っ!!!



 一緒にいる友達Aとの蜜月になんも考えずに割り込んでくる友達の友達B乱入イベント!


 こういう空気読めない友達Bって、友達Aがマンタインとするとテッポウオみたいな存在なんだよな、もうずっっっと粘着してる。


「ん?浅岡君…だよね、おはよっすぅい!」



 何なかったことにしてんだこのコバンザメ



 あぁやってやるよ…



 もうこれで 終わってもいい



 だから ありったけを…!!!



「ぁぁあっっす、おはぁっっっす…」


「俺、三井隆斗みついりゅうとな、って同じクラスだし知ってるか!」


 いや誰だよ知らねぇよ、でも知らねぇのは俺が悪ぃよ。


「んじゃ沙星、俺ら課題だしにいくからまた教室でな」


「あぁ…」


 なんかもう…朝からお腹いっぱいって感じだ。


 ◇◇◇


 やっとこさ放課後…。今すぐにでも帰りたいけど、今日からお助け部だったな。


 遠いんだよあの部室…


 重い足取りで最果てにあるC棟四階の部室まで向かう。


 部室のドアを開けるも、多花栗はまだ来ていなかった。


「にしてもなんもねぇな~ここ…」


 とりあえず奥においやられた机と椅子を運び、机を6つ使って長方形を作った。


 そして椅子を奥側に俺と多花栗で二つ。手前側に三つ並べる。


 即席でいつ客が来てもいいように配置し終えたところに、多花栗が声を上げながら部室に入ってきた。


「おぉやってるね。なんか面談みたいでウケるけど」


「いいだろとりあえずは。俺も放課後にまでこの木造の椅子に縛られんの嫌だし、また考えとく」


 多花栗は奥側の右の席に腰を下ろす。俺はその席からひとつあけた左側の席に座った。


 部室には俺と多花栗の二人だけ。


 時計の音が微かにチクタクと聞こえる。


 まぁー気まずいんだこれが


 耐えきれず多花栗におずおずと声をかける。


「なぁ」


「ん?」


「これ来んのか?」


「なんか一人来るって先生が」


「別にここの部活、予約制とかじゃないよな?どういことだよ」


「あたしもわかんない。三日ぐらい前に今日一人来るからって言われ…」


 ガタッと入口のドアの引手に触れる音が響く。


 バッと視線を向けると、部室のドアはゆっくりと開かれて。


 お助け部一号。


 俺は一人の女子高生を目にする。

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