第3話 こんにちは絶望

 土曜の昼間というだけあり、駅へ向かう道中は家族連れや学生などで道がごった返している。

 

 行きかう人たちは皆、日傘をさしていたり、片手にハンカチを持っていたり、自身ができうる暑さ対策をしていた、時折来る風も涼風とは言い難く、熱い空気を固めたような風が体に纏わりつく、信号待ちをしているときなど頭皮をガスバーナーで炙られているようだ。

 

 急ぎ足で向かったおかげか最寄りの駅には十五分もかからず到着した。


 財布から交通系ICカードを取り出し改札を通る、頭上に大澗・漆原方面と書かれた表式に従い、右手の階段を上る、数十段の階段を上り終えたころには自然と息が上がっていた。


 胸がキリキリと締め付けられるように痛い、たったこれだけの運動でここまで疲労を感じるようになってしまったのかと、不甲斐ない自分を恨めしく思う一方、年をとったなあ、としみじみと思う。


 荒い息遣いを直そうとベンチに腰を掛けた、騒がしい声に顔を上げると中学生くらいであろう少年らが日に焼けた顔で浮き輪を右手に持ち、プールバッグらしきものを背負っている。


「今日一番遅かったやつ、かき氷おごりな!」


「ええー、あの売店のかき氷高いんだよなー」


「どうせケンちゃんが一番じゃんかよーー」


 ガキ大将的立ち位置の少年が提案した賭けは周りの少年たちからは評判が良くなかったようだ。


 「うるせぇ!決まりだ!決まり!」


 ガキ大将の一言に少年たちは文句を言いたそうな顔で渋々納得をし、即座に話題は変わって流行りのアニメの話だろうか、各々が好きなシーンを笑顔で話し始めた。


 俺にもこんな時代があったっけな、鮮明に思い出そうとしても思い出すことができない、いや正確には思い出すことがない。


 小さい頃から人と関わるのが苦手で、上手くコミュニケーションをとることができなかった、自分から話しかけるのは勿論、相手から話しかけられてもうまい返しができない、冗談を冗談として受け取れない、そんでもってひねくれているときたら、友達などできるはずもない、いつしかクラスメートからは変な奴というレッテルをべたべたに貼られ、気味悪がって誰も話かけなくなった、それからは不登校を繰り返し部屋に籠りがちになった、楽な方に逃げても楽しいのは最初だけだった……

 

 今でこそバイトを始めたおかげで多少のコミュニケーションはとれるようになったものの、もう遅い、学生時代はとうの昔に過ぎ去った。


 あの時こうしていれば、最近そんな後悔が後を絶たない、友達がいる人生であれば、彼女と楽しく過ごせた人生であれば……。

 

 ホームに到着した電車に乗り込むと冷気が一気に薄着の身体を駆け巡る、冷房が効きすぎた車内はとても夏とは思えない気温だった。


 

 


 


 


 


 

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だれか僕に生き方を教えてくれ。 @amagattpa

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