第2話 ノーマルキャラ

 胸糞が悪い一週間だった。

 

 バイト先の店長からネチネチと説教を受けた月曜から始まり、水曜日には夜勤中に地元の不良グループが集団ご来店、明らか未成年であろう少年たちに酒やタバコを自分達に売るように脅され、しぶしぶ販売をしてしまった、自分より十歳以上年下であろう相手にだ。


 木曜の朝には再度店長からの説教、ストレス値がマックスの状態で迎えた金曜だったが、この日はソシャゲの重要なイベントがあったため辛うじてモチベーションを保てていたのだが、そんな時に限っての回線工事。


 たまりにたまった怒りを母親とモノにぶつけた、最低だ。


 どうして自分でも良くないと分かっていることをやるのか、自分でも分からない、人間って不思議だ。


 おまけに最近体の調子が良くない、胸の奥がじんわりと痛むことや、咳が多いのだ

タバコの吸いすぎだろうか、なんにせよちょっと怖いので数駅先の大きな市立病院へ行くことにした。

 

 いつ終わってもいいと考える人生ではあるが、実際に死が訪れるのは非常に怖い、俺には生きる勇気も死ぬ勇気もない、普段の生活とて生きてるか死んでるか分からないような生活を送っている。

 

 土曜の昼だというのにこんな卑屈なことを考えながら支度をしているのはきっとこの世で俺くらいだ、いや現代はストレス社会だ、似た境遇など探せばいくらでも出てくるだろう、俺なんてノーマル以下、糞雑魚キャラだ。


 心の中のもう一人の自分と対話しながら年季が入ってくすんだベージュ色のドアに手をかける、ドアを開けると光の粒が束になって俺を覆いつくした。


「まっぶし……」

 

 惰性で出た言葉と同時にあまりの眩しさに顔を太陽から背けた、俺のはるか上から見下ろしてくるヤツはまるで外に出るなと言わんばかりに容赦なく光の雨を浴びせてくる、まもなく八月も終わりだというのに外ではセミたちが自身の存在していた証を残そうと躍起になっているのかひたすらにうるさい、往来する人々の声や車の音でさえかき消されるほどに。


 今日は最高気温が三十度を超えるそうだ、そんな夏真っ盛りの日は家に籠ってクーラーの効いた部屋でアイスでも食べながらソシャゲのランク上げに精を出す、これに限る。

 

 だが今日は違う、病院に行け、そう俺の勘が告げている。

 

 俺はスピリチュアル的なものとか、オカルトの類は一切信じたりしないが、自分の勘には素直に従う、自分の中のモットーみたいなもんだ。


 まあ自分の勘がすべて正しいとはもちろん思わない、でなきゃこんな人生送ってるはずないからだ、しかし今日は行かなきゃいけない、なんとなくそんな気がする。


 慣れた手つきで玄関のカギを閉め、むかいの道路へ一歩踏み出す、灼熱の太陽の光を存分に吸収した真っ黒いアスファルトは靴の上からでも感じる程の熱気をはらんでいた、立っているだけで汗が噴き出してくる、今すぐに家に戻りたくなる衝動を抑え、足早に駅へと向かった。


 

 


 

 





 

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