第33話33
翌日、土曜日。
明人は退院は出来たが、やはり学校を休んだ。
朝食だけ病院で食べ、すぐに身支度を整え、医者や看護師達が明人の容姿を見ながらザワザワする中…
自宅へ帰る為に、病院玄関の車寄せで母の迎えの高級車の後部座席に乗り込む。
発進し、暫く明人は無言で窓越しに外の風景を眺めながら、昨日、恒輝に抱き締められていた時間を思い出す。
そして、胸の鼓動を早めながらも穏やかな表情を浮かべる。
だが、突然母が、運転しながら言ってきた。
「明人…母さん、謝らなくちゃ。西島君の事、母さん誤解してたわ…西島君見た目が荒っぽいし、それなのにアルファとしての力が全く無いって思ってたけど…実際に話すと、普通に優しい所あるししっかりしてる所もある子なのね…」
明人は驚いたが、恒輝のフェロモン不完全症や見た目でそう言う人間は周りに沢山いるので珍しくもなくて、逆に溜め息を漏らした後返した。
「勿論そうだよ。優しい所一杯あるし
、しっかりしてる所もあるよ。ただ、ただ、西島君は…自分に自信が無いだけなんだ」
恒輝がああなった原因の一つは、昨日初めて見た恒輝の父で間違いないないだろう。
多分、いや…確実に…と、明人は思う。
世間では人格者と噂されている恒輝の父だったが…
明人が実際に見たイメージは、かなり違っていた。
「大河ちゃんが、西島君の事あまりにも良く言わないし、能力の高いオメガの方が能力の低いアルファを支えるなんておかしいって言うから…お母さん心配しすぎだったわ…」
車のバッグミラーに、母の苦笑いが映る
。
(大河の奴、一回…締めてやるか…)
幼馴染だと佐々木に慈悲をかけてきたが…
明人は本当は、ただ笑っているだけの生優しい男でも、か弱いだけの普通のオメガでも無い。
そして、佐々木が明人の母に、他に恒輝の事をなんと言っていたのか聞こうとした時…
たまたま以前、初めて明人が恒輝と会った同じファミレスの前で、又、あの時と同じ信号待ちになった。
あの時明人は、逆らえない引力のようなもので恒輝と目が合った。
今のファミレスの中は、モーニングもあり客がチラホラいたが、恒輝のいた席には誰もいなくて…
でも、明人には、そこにまるで恒輝がいるように姿が浮かぶ。
(俺のたった一人のアルファ…俺だけは
、俺だけは…どんな事があっても君の側にいて、君の力になる存在になりたいんだ…)
明人は暫く、幻の恒輝と深く見詰め合っていたが…
例え幻でも、ずっとずっと見詰め合いたかったが…
車は、青信号で発車した。
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