第28話 帰投

 翌朝、天候晴れ。なにもなし……なわけがない。

 朝から森の中に入ったパステルとラパトが、なぜか大量のキラービーを倒して持ち帰ってきたので、私は始末に困っていた。

 キラービーとは、深い森で希に見かける巨大な魔物で、接近すると即死性の毒針をばら撒く厄介者である。

 一匹でも見かけたら逃げろというキワモノだったが、この島にこんなクソッタレが生息しているとは思わなかった。

「さて、これどうしようかな……」

 私は無線を取り、ジャージオジサンのチャンネルに合わせた?」

「聞こえる。この蜂の始末出来る?」

『うむ、可能だが焼夷弾が必要だ。だが、手持ちにない。ネット弾ならあるが、意味がないだろう。つまり、今は不可能ということだ』

 私はむせんを切って、呪文を唱えた。

「……穴ぼこ」

 ……しかし、なにも起きなかった。

「そうだよね。私はこれ使えないし……アホンだら!!」

 ヤケクソで放った光の矢は、空中に停止したまま止まり、矛先を私に向けて飛んできて爆発した。

「……痛い」

 ボロ屑になった私は、ゆっくり立ち上がってミニミを構えた。

「この野郎!!」

 持っている全弾を放たが穴が開く開くだけで、当然ながら意味もなく。射撃練習の標的の役にも立たなかった。

「よし、ストレス発散完了!!」

 私は笑みを浮かべた。

「さてと、真面目に考えなきゃね。これじゃ、循環バスが通れないし、いっそイージス艦からトマホークでも撃ってもらおうかな」

 私が考えていると、ビスコッティが目を擦りながら家から出てきて、家の壁に寄りかかって座り、クシャミをした。

「なんか変なの見えるし、風邪かな……」

 ……ダメだこれ。そう思った。

「焼くしかない。この道はもうダメじゃ」

 私は呪文を唱え暴風を吹きちらさせ、キラービーのしがいの山がバラバラに吹き飛んだ。

「……しまった。魔法を間違えた。滅多に使わないからな」

 キラービーには追随性があり、例え死骸でも追っ手が来る可能性があった。

 私は無線を取り、ノートパソコンを開くと、海兵隊の宿舎にある衛星電話をハッキングして、近くにいるはずの『ボムキャット』小隊長を呼び出した。

 ちなみに、ボムキャット部隊とは、制空専門だったトムキャット戦闘機を爆装も出来るように改修した機体で編成され、変な連中の集まりだった。

「火急に付き平文で。全機上空で待機せよ。空戦用意。ターゲットはキラービー」

『了解した。直ちに全機発艦する』

 私は回線を切り、ログを消去してノートパソコンを地面に置いて、小さく嘆息した。

「あーあ、私ってなに?」

 結局、私は私なので立ち直った。

「まあ、いいや。穴ぼこ……」

 座っているビスコッティが浮き上がり、そのまま家の屋根に乗った。

「あれ、本当に風邪かも。医者の不養生ってこれ?」

 屋根のビスコッティが呟いた。

「ダメだ、まだ寝てる。ってか、変な魔法出来たような……」

 私は小首を傾げた。

「ん、おは……なんじゃこりゃ!?」

 犬姉が出てこようとして、慌てて家に戻っていった。

「……また一つ。希望が消えた」

 私はため息を吐き、真面目にトマホーク計画を立案しようとして、ノートパソコンに触ろうとしてやめた。

「あんなもん撃たれたらシャレにならないな。私はトマホークを信用していない」

 小さく笑いまたノートパソコンに触り、海兵隊の通信網をハッキングしてジジイに、トマホーク即時全廃の提案書を送りつけてやった。

「さてと、こっちの仕事は終わったけど、いっそ粉々にしてやるかな」

 私は呪文を唱え、結界魔法でドバババと壁を作って死骸を叩き切り、再び暴風でまき散らした。

「これがベストエフォートだな。みんなにはバレないようにしないと……って、パステルとラパトに黙っておけっていうか」

 私は笑みを浮かべ、下ろし方が分からないので、ベストエフォートでビスコッティを屋根に乗せたまま家に入った。


 家に入ると、犬姉がフル武装で変な目付きをしながら、丁寧にナイフを研いでいた。

「あっ、終わった。状況終了」

「あっそ、なんだ……」

 犬姉は装備を解いて、平服の繋ぎに着替えはじめた。

「うん、大体寝てるね。ってか、こんな時間に起きちゃった人って、あまりいないよね」

 私は笑った。

「ぎょおぉぉ!!」

 変な夢でもみたのか、スコーンが飛び上がって起きた。

 ベッドから飛び下りると、いきなり凄まじい勢いでプッシュアップをはじめ、しばらくするとプッシュアップをやめて目を擦った。

「おはよう、眠い……」

 スコーンはそのまま外に出て、天井に置いてきたビスコッティを回収して戻ってきた。「全く、ビスコッティはこれだから。寝ぼけてどうやって屋根に上ったんだろ……」

「さぁ、私には分からないな。なんで、ビスコッティの居場所が分かったの?」

 私は笑った。

「勘だよ。大体、上るか下りるかしてるから」

 スコーンが笑い、寝息を立てているビスコッティをお飾りで設置した暖炉に放り混んだ。「ここなら安全でしょ。さて、一仕事」

 私はテーブルに座ってノートパソコンを開き、王令として島のキラービー討伐を下した。

「よし、これで綺麗になるかな」

 私はログアウトしてパソコンをスタンバイモードで閉じ、そろそろ定期便の始発が着く時間だなと思った。

「監督が部下全員を呼ぶっていってたし、到着はこれかな。朝食でも……っていっても、嫌がるか」

 私は笑った。

「あの、おはようございます。私、なにかしましたか。背中が痛くて……」

 ビスコッティが暖炉から這い出てきて、眠そうに目を擦って声を掛けてきた。

「そりゃ、そんなところで寝たら、背中も痛くなるよ」

 私は笑った。

「はい、なんでこんな場所で……。飲み過ぎたかな……」

 ビスコッティが椅子に座り、ひたすら頭を振って目を覚まそうとしていた。

「ピルスナーの飲み過ぎじゃない。なんか、昨日はハイペースだったし」

 私は苦笑した。

「はい、控えます。ところで、エラくボロボロですが、襲撃にでも遭いましたか?」

 ビスコッティが心配そうに聞いてきた。

「失敗しただけだよ。魔法なんて、滅多に使わないから」

 私は笑った。

「そうですか。お怪我は……ああ、火傷が……擦り傷に……えっと」

 ビスコッティがハッと思い出したように呪文を唱え、回復魔法で服まで直してくれた。「ありがと!!」

「いえ……。師匠、これでいいですか?」

 ビスコッティが不安げにスコーンを見た。

「一人前の医者なら、自分で判断しなよ。ちなみに、なぜかマリーの魔力が異常に低いんだけど、そっちは私も分からないよ」

 スコーンが不思議そうな顔をした。

「うん、光の矢の真似事をしたら、暴発しちゃって」

「だ、ダメだよ。もう絶対やっちゃダメだからね。あれ、危ないからね。うんっていって!!」

 スコーンが私に飛びついた。

「分かってるから大丈夫。なんか、目の前で矢が止まって、半回転して自分に命中しちゃったんだけど、なんでかな……」

「えっ、半回転して自分に当たっちゃったの。それ、どんな呪文唱えちゃったの。まさか、表ルーンでやってないよね!?」

 スコーンが髪の毛を分けて、おでこを出した。

「なにそれ?」

「バカ、知りもしないで裏ルーンの魔法を使ったら得体の知れない現象が起きるよ。ダメだよ。よく発動したね!?」

 スコーンがオロオロしはじめた。

「師匠、ビシバシしないとダメですか?」

「うん、ビシバシして!!」

 ビスコッティが私をボコボコにぶん殴った。

「ああ、怪我!?」

「ダメだよ、ボコボコにぶん殴ったら。ビシバシ引っぱたくくらいでしょ!!」

「い、いえ、あまりに危険な事だったので……回復魔法で怪我を治しますね」

 ビスコッティの回復魔法で、ボコボコになった私の顔が治った。

「はぁ、スッキリした?」

 私は笑った。

「スッキリしないよ。とにかくダメだからね。裏ルーンは危ないんだよ。それがなんで……ああ、分からない!!」

 スコーンが鞄からノートを取り出し、なにやらブツブツ呟きはじめた。

「まあ、私に魔法は向いてないんだよね。昔から変な結界しか使えないから!!」

 私は笑みを浮かべた。


 小一時間ほどして、みんな起きだして朝食を摂っていると、家が微振動して国営虚空の一番便の747-400が四回バウンドして着陸した。

「妙にハードなランディングだね。機長の具合でも悪かったのかな」

 私は玉子サンドを囓り、コーヒーを煽った。

 新聞を読んでいると家の扉がノックされ、なぜか外側方向に倒れ、むぎゅっという声が聞こえた。

「あっ、きたな。私の弟子!!」

 扉だった板が放り出され、黒いワンピース姿の馬鹿たれが一歩部屋に入った途端、金だらいが横と上から飛んできてスマッシュヒットし、そのまま倒れた。

「いってぇ。馬鹿野郎!!」

 そこら中にコブを作った馬鹿たれが立ち上がり、私にゲンコツを落とした。

「あっ、紹介するね。コイツはリズっていって、私の魔法の先生だった馬鹿たれなんだよ。お前、女王にゲンコツを落としたぞ!!」

「はぁ、女王。そんなもんぶん殴ってみせらぁ!!」

 リズが笑った。

「魔法使いの先生だったの。ダメだよ、ちゃんと教えないと。さっき危ない事やっちゃったんだよ!!」

 スコーンがリズに近寄った。

「ん、なに。危ない事って?」

 リズが指をボキボキ鳴らした。

「逃げよ……」

 私は家から飛びでて、チャリンコに跨がって、フルスピードで走っていったら……猫の大群が道を占領していた。

「……なんだ、これ」

 私は困り果ててチャリを担ぎ、猫を踏まないように気を付けながら、変な集団を抜けた途端、光りを放つロープが腰に巻き付き、そのまま吹っ飛ばされるように家に戻された。「こら、逃げるな。聞いたぞ、このクソッタレ。またやりやがったな!!」

 リズが私の顔面に拳をめり込ませた。

「うん、やったけどね。必要に迫られてなんだよ。分かる!!」

「わかんねぇよ、このボケチンが。師匠として情けないわ!!」

 リズは大笑いして、魔法書を放り投げてきた。

「闇魔法。好きでしょ?」

「うん、よくあったね!!」

 私は魔法書をスコーンに手渡した。

「えっ?」

 スコーンが不思議そうな声を上げた。

「お土産って事。私じゃ使えないから」

 私は笑みを浮かべた。

「あとは『改訂版 世界の秘密』ってあるけど、これ胡散臭いから捨てるか」

 リズは呪文を唱え、本を燃やした。

「本ばかりなんだよんぇ。マキシムメロンとはあるけど、デカすぎて置く場所があるかな……」

 リズは空間ポケットから凄まじく巨大なメロンを取り出し、床に転がした。

「なにこれ、浮くの?」

 スコーンが飛びついた。

「浮くヤツは甘いよ。沈むと大根メロンだよ。普通は逆なんだけど、なぜかこれは逆なんだよね。学者の間でも研究されてるけど、分からんという結論になりかけてる」

 リズが笑った。

 外からバスが走っていく音が聞こえ、爆音とと共にチヌークが何機も飛んでいった。

「なんだ……熱い演習でもやるのかな。まあいいや、みんなリズは基本的に人見知りで大人しいから、安心していいよ」

 私は笑みを浮かべた。

「いきなり派手な入り方しちゃったけど、バカ弟子のせいだから忘れて。私はリズ・ウィンド。よろしく!!」

 リズが被っていたベレー帽を脱いだ。

「はい、初めまして」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「みんな、お腹空くとうるさいから、昼食ご一緒でいい?」

 私は笑みを浮かべた。


 昼食の玉子サンドがなくなると、リナが魔法書を取り出した。

「これ、あたしが書いたんだけど、間違ってるかどうか自信ないから、見て欲しいんだけど」

「うん、いいよ。えっと……」

 リズが本を読み始め、赤ペンで校正をはじめた。

「……しゅごい」

 スコーンがビスコッティをぶん殴った。

「まあ、リズはこう見えても、それなりに認められた魔法使いだからね。私には、金だらいを落とす魔法しか教えてくれなかったけど」

 私は笑った。

「……こんなところか。基礎からもうちょっと深くやり直した方がいいよ!!」

 私はリナに本を返した。

「そっか、基礎苦手なんだよなぁ。単純で!!」

「甘い。その単純作業の裏を読め!!」

 リナとリズが笑った。

「失礼します。お茶が入りましたよ」

 CAさんが紅茶とケーキを運んできた。

 ほぼ同時に無線ががなった。

『こちら、カク○スチャーター便001。E・T・Aファイブミニッツ』

「……来たか。大量のお酒を積んでるぞ」

 私は小さく笑みを浮かべた。

「お酒!?」

 小声だったのに、ビスコッティの耳に入ってしまったようで、異常な勢いで反応した。

「ああ、お酒ってコードネームのプロが、海兵隊をシゴキにくる予定なんだよ。まあ、ケーキ食べよう!!」

 私は笑って、茶をシバきはじめた。

「師匠、イチゴショートのイチゴは後です。なんで先に食べちゃうんですか」

「いいじゃん、酸っぱいし」

 スコーンが丁寧な手つきでケーキを食べ、ズズズーとお茶を吸い込んだ。

「……あえてなにもいいません。さて、私も食べましょうか」

「みんな、なに固くなってるの。私なんて、作法はメチャクチャだよ!!」

 私は笑った。

『こちらばら積み貨物船、カクヤス72。ケント水道を通過中。ベタ凪につき、到着二十五分遅れの見込み』

 いきなりインカムに無線に声が飛び込んだ。

「了解。気を付けて」

 私は少し息を吐いた。

 のんびりした時間は流れ、ティータイムを終えると、私はノートパソコンを開いてログインし、飛行機と船の位置を表示させた。

「サンセットまでには揃うか……。さて……」

 私はノートパソコンのウィンドウを変え、スモークを抱えたボムキャット部隊の位置を確認した。

「……空母がぶっ壊れて航行不能って。こりゃダメだな。発艦出来ない」

 私は予定表からスモークを外した。

「あとは、家は出来てるみたいだし、飲み物とご飯だけか……」

 私は無線のトークボタンを押した。

「おーい、ミカ。どのくらい掛かる?」

『バカ、お酒が多すぎる!!』

 私は苦笑した。

「そういえばGさんは?」

『ご機嫌でギターをジャカジャカやってるわよ。手伝えっての!!』

「そりゃまた……。ああ、まだお酒くるよ」

『馬鹿たれ……』

 私は無線を切った。

「ん、バカ弟子。どうしたの?」

 ジャムで口の周りをベタベタにしたリズが、ニヤッと笑みを浮かべた。

「国家予算の余った分を使っただけ!!」

 私は笑った。

「なに、面白いの?」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「あっ、いけね。面白い事ですか?」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「のんべぇにはいいかもね。もう勝手に盛り上がってるみたいだけど、お酒がエラい事になっちゃったみたいで……発注ミスした!!」

 私は笑った。

「お、お酒~」

 ビスコッティが指を咥えた。

「まだ待ってね。ちなみに、リズはウワバミだから!!」

 私の言葉に、ビスコッティが勝ち気な笑みを浮かべた。

「ウワバミいうな。嗜み程度だっての!!」

 リズが笑った。

「ところで、自己紹介してくれると助かるな。名前だけでいいから!!」

 リズが笑った。

「あっ、忘れてた……」

 私は苦笑した。

 みんなが自己紹介を終えると、メモっていたリズがまた巨大メロンを出した。

「お近づきの印に。さっきのも合わせると六人くらいしか食べられないから、分け合って食べてね。その前に、冷やさないといけないけど、この部屋のヒヤシンス……じゃなかった冷蔵庫じゃ無理だね。海に漬けておくかな……」

 リズが笑った。

「あの、凍らせましょうか?」

 ビスコッティが呪文を唱えた。

 巨大メロンが凍り付き、すぐに溶けてなくなった。

「おっ、いいねぇ。そっちの一個もやっておいて!!」

 リズは呪文を唱え、冷え冷えのメロンジュースが三十杯出来上がった。

「……しゅごい。スケッチする」

 スコーンがもう一個のメロンをスケッチし、サイズを測りはじめた。

「これ食うと不味いんだけど、冷やしてジュースにすると、なぜか美味くなるんだよね」

「こんなに飲めませんよ。どうしたら……」

 パステルが困った顔をした。

「飲むんです。気合いで」

 ラパトが上半身裸になり、指をバキバキ鳴らした。

「アハハ、その気合いいいねぇ!!」

 リズが笑った。

「はい、これが持ち味なので」

 ラパトが笑みを浮かべた。

「師匠、いつまで穴あけてるんですか。飲まないとなくなっちゃいますよ!!」

「うん、もうちょっとかっぽじって……出た。種!!」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「種なんて蒔いたらバカスカ出来ちゃうよ。腐ると臭いし、観察だけにしていた方がいいよ!!」

 リズが笑った。

「違うよ、切って中を観察するんだよ。こんな変なメロンないよ」

 スコーンがナイフを抜き……指を切った。

「ぎゃあ!?」

 スコーンが指をフーフーしながら、ナイフを放り出した。

「甘いね!!」

 犬姉が代わってナイフで種を切ろうとすると、種に羽根が生えて飛び回りはじめた。

「な、なんじゃこりゃ!?」

 犬姉がビビって身を下げた。

「なにやってるの!!」

 私は拳銃を抜き、ひたすら撃った。

 一発が掠ってバランスを崩し、床に落ちたところをマルシルが踏み潰した。

 瞬間、部屋に閃光が走り、小爆発が起きてマルシルが吹っ飛び、部屋の隅でお汁粉を食べていたマンドラに激突し惨事になった。

「バカ、爆発するから撃つなっていっただろ。ボコいてまうぞ、コラ!!」

 リズのパンチが私の顔面にめり込んだ。

「いいじゃん。あっ、犬姉。リズってブッシュ戦メチャメチャ強いよ!!」

「……やる?」

 犬姉が笑みを浮かべた。

「暇だからいいよ。そこら中ブッシュだらけだし。ナイフ?」

「へぇ……いこうか」

 犬姉とリズが出ていくと、どこかにいたらしく、芋ジャージオジサンもついていった。

「おーい、もう夕方だぞ。明日に……行っちゃった」

 私が苦笑した時、玄関の扉が外れて倒れた。

「あれ、ゴーストかな……」

 私は扉を直しに行ったが、倒れた扉が重すぎて持ち上がらなかった。

「おーい、誰か手伝って!!」

 ……しかし、動ける人が誰もいなかった。

「まあ、いいや。いっそ、なくしちゃおうかな」

 私は呪文を唱え、扉を燃やして灰にした。

「みんなまともに開けないから、これでいいや」

 半ばやけくそで呟くと、監督がすっ飛んできて、灰になった扉を元に戻して手早く直してどこかに飛んでいった。

「早いねぇ。助かった」

 私は笑みを浮かべ、テーブルに戻って出涸らしのお茶を自分で淹れて飲んだ。

「はぁ、いい日だねぇ」

 私はボンヤリ呟いた。

「暇!!」

 スコーンが私に近寄ってきた。

「私も暇。お出かけする?」

「する!!」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「それじゃ、新スポットいくかねぇ。他のみんなは忙しそうだし」

 私は札束をテーブルに置き、入ってきた芋ジャージオジサンたちとすれ違っていった。「またなにか勝手に作ったの?」

 スコーンが不安そうに聞いた。

「大丈夫、海兵隊が使ってるエリアにお店を出しただけだから」

 私たちは、出迎えに来ていたM-2ブラッドレーの砲塔によじ登り、ガタガタと走りはじめた。

「な、なにも、これじゃなくても……」

 ……ドン引きしているスコーン。

「これしか空いてなかったんだよ。バスはもう終わっちゃったし、これで我慢して」

 私は笑った。

 ガタガタと進むブラッドレーは、道に展開していた猫の集団と対峙した。

「……あれ、猫が戦闘モードになってる。臭かったかな」

 私は小首を傾げた。

「また猫だ……。しかも怖いよ、どうしよう」

 スコーンが私にしがみつくと同時に、車長用スポイラーに落ちた。

「あれ、大丈夫?」

「イテテ、平気!!」

 スコーンが苦労して砲塔に上ってきた。

 しばらくすると、多数の猫が一斉に襲いかかってきた。

 ブラッドレーが発煙弾を発射したが、そんなの知るかとなだれ込んできた猫に私たちはボロクソにやられ、猫の大群はそのままどこかに行ってしまった」

「な、なんだったのかな……」

 私は顔中の引っかき傷に持参のアルコールを塗って……凄まじく染みた。

「あれ、それエタノールだよ。ダメだよ。せめて消エタじゃないと……」

 スコーンが私の手からエタノールの瓶を取り上げ、一気に飲み干すとそのままぶっ倒れてスポイラに落ちた。

「あれ……まいったな」

 私は慣れない回復魔法を使った。

 瞬間、エンジンが爆発し、黒煙を吐いて止まってしまった。

「あ……なんか間違えたかな」

 とりあえず、私はスコーンを砲塔上に引っ張り出し、無線のトークボタンを押した。

『なんだ?』

 コマンダーの声が返ってきた。

「メディック!!」

『分かった。座標を知らせろ』

「知らん。M-2が黒煙吹いてるから、まだ分かるでしょ!!」

『それじゃ無理だ。しかも、今日はバカンスで全員放蕩としている。まず、俺がダメだ』

 ……明らかに酔っ払っているコマンダー。

「ダメだこりゃ。シルフィはどこだっけ……」

 私はシルフィを無線で呼んだ。

「シルフィ、緊急冷却システム作動。すぐそこまで!!」

『はい、分かりました。ハイブリッド原チャリの充電がまだなので、車でいきます』

 しばらくすると、『JOF』と書かれた青色のジャイロキャノピーで、シルフィがやってきて、ヘルメットを脱いだ。

「ああ、急性アルコール中毒ですね。はい!!」

 シルフィが手を叩くと、地面に寝かせておいたスコーンがむくりと起き上がった。

「おしっこ!!」

 いきなり飛び起き、スコーンは茂みに突っ込んでいった。

「さすが、効くね」

 私は笑った。

「はい、昔はバーの勤務医をやっていったので。では、生け花の途中なので……」

 シルフィが青ナンバーの車? に乗って颯爽と去っていった。

「それにしても、長いおしっこだね。様子を見にいってみるか」

 私は拳銃を抜いて、マガジンを引き抜き、残弾を確認してからセーフティを外し、無造作に茂みに近寄って行くと、途中から匍匐前進に切り替えて、ゆっくり近寄って行った。

 茂みの陰の水たまりに突っ込んで越えしばらく進むと、スコーンがゴブリンに囲まれていた。

「……三十か」

 私は伏せたまま拳銃を構え、まずは一体撃ち倒した。

 それで気が付いたようで、私の方を向いたゴブリンたちに向かってナイフを抜き、私は突っ込んでいって……ボロクソに蹴られまくって泣いた。

「ダメだよ!!」

 スコーンが剣を構えたが、重さで転けた。

 結局、私だけボロカスにやられ、スコーンは無事でゴブリンたちは去ってった・

「……私は自分、よし、直った」

 私はボロボロになった服を叩き、乱れた髪型を適当に纏めてたこ糸で縛った。

「よし、これでいい。スコーン、大丈夫?」

「私は平気だけど、どうみてもマリーの方が重症なんだけど。

 スコーンが心配そうに私をみた。

「ああ、大丈夫」

 私は呪文をとなえ、一瞬で服が直った。

「……しゅごい。あっ、おでこ出さなきゃ」

 スコーンが空間ポケットからドレッサーを引っ張り出し、髪の毛を整えはじめた。

「あっ、枝毛」

 スコーンがつぶやき、挟みで丁寧に切って、ささっと身なりを整え、空間ポケットにドレッサーを押し込んで、小さく笑みを浮かべた。

「準備終わった? 行くよ。もう夜になっちゃうから、歩き出し急ごう!!」

 私は笑った。


 たまたま通りかかったクランペットの馬をパクり、私たちは二人乗りで海兵隊宿舎の方に向かって、推定時速七十八キロで爆走した。

 ゲートの前で待機していたクランペットに馬を返し、敬礼した衛兵に小さく頷き、私はスコーンを連れて、宿舎が立ち並ぶ中を歩き、広場のような場所に海の家のような建物が建っていて、海兵隊の皆さんがガンガンお酒を飲んで、騒いでいた。

「おっ、やってるやってる」

 私は笑った。

「ねぇ、ここってなに?」

「砂漠の中に咲く一輪の花って感じかな。友人に声を掛けて、バーを作ってもらったんだ」

 私は笑った。

「そうなんだ。バーってお酒飲むところだよね?」

「うん、『オレンジジュース』はダメだよ。一杯飲んでからね!!」

 私は笑った。

「うん、なんか分からないけど、お酒飲めばいいんだよね。モヒートとか」

 スコーンがニヤッと笑みを浮かべた。

「おっ、夏にいいね。私はガス入りならなんでもいいや」

 私たちは、横並びになってバーの方向に向かって、楽しそうにギターを弾いているお兄さんが一瞬チラッと真顔でこちらを確認したのを見て、小さく頭を下げて店内に入った。

 カウンター席しかない店内に入ると、熱心にタリフを読んでいるミカがいた。

「なにしてるの。ガス入り!!」

「うん、モヒート!!」

 私とスコーンは隣同士に座り、おつまみのバターピーナッツをポリポリはじめた。

 しばらくすると、私にはジンフィズ、スコーンにはモヒートが供された。

「よし、乾杯はなしだよ」

「分かってるよ、飲もう!!」

 私はジンフィズを一口飲んで、小さく笑みを浮かべた。

「……変わってない」

「わーい、本物のモヒートだ!!」

 スコーンが笑った。

 しばらくすると、ボロボロになったビスコッティと犬姉、リズ、芋ジャージオジサンがやってきた。

 一つ開けてビスコッティが座るとその左隣に座った。

 四人が適当にと注文すると、ミカが狂ったようにシェーカーを振り始めた。

「そんなに気合い……入るよね。あと二名と二名くるはずだから」

「そんなに座れないわよ!!」

 シェーキングマシンと化したミカが怒鳴った。

「ん、増築か?」

 葉巻を咥えた監督が呪文を唱え、お店が倍のサイズになった。

 しばらくすると、バカでかいVツインエンジンを積んだバイクが排気音を轟かせながらやってきた。

 二人乗ったバイクを操縦してきたシルフィがメットを脱ぎ、後ろに乗っていたマルシルがメットを脱ぐと、顔色が真っ青だった。

「はい、あげます」

 シルフィが空高くキーを投げると、海兵隊員が群がった。

 二人はバイクを降り、ヘルメットを被り直すと店内のゴミ箱に放り込んだ。

 カウンターに座ると、シルフィとマルシルがカルーアミルクを注文した。

「テキーラサンセット!!」

 一杯目のモヒートを飲み終え、バターピーナッツをポリポリ囓り、スコーンが上機嫌で注文した。

「また、渋いねぇ。私は瓶ビールでいいよ」

「あんたは、ド○ペでも飲んでなさい!!」

 ミカは栓抜きごと私の前にド○ペの瓶を置き、グラスは……なかった。

「はぁ、これ好きだけど、まだ瓶のド○ペってあるんだねぇ」

 私は栓を開け、ラッパ飲みで飲み干した。

「うん、これだよ。チェイサーにはちょうどいい」

 私は空き瓶をそっと置き、現金を一束置いた。

「バカ、そんなにいらないわよ!!」

「いけね、癖で……」

 私は札束をしまい、さっき撃った空薬莢を一つ置いて椅子から立ち上がった。

「それにしても、イテテ。アイツら手加減しないから……」

 私は自分に回復魔法を掛け、空に飛び上がって天井に頭が突き刺さった。

「……なんで、いつもこうなの?」

 私は頭を引っこ抜き、そのまま下に落ちた。

「バカ、だから許可しない限り魔法を使うな!!」

 リズが中指をおっ立てた。

「知らん。それより、残り二人が遅いな……」

 私は無線でパステルを呼び出した。

「迎えがいったと思うけど、どこにいる?」

『はい、家の前でヘリコプタから降りました。これから向かいます』

 パステルの声が返ってきた。

「また遺跡探索?」

『はい、変な石像があったので、回してみたら穴が……』

「こら、地図作りといったはずだよ。どうせ、やるとは思ったけどね」

 私は笑った。


 しばらく経つと、凄まじい音を立てて一台のスーパーカーが入ってきた。

「あっ、私のチゼタ……」

 私は小さく息を吐いた。

「うむ、ご馳走様」

 芋ジャージオジサンがいつの間にかスーツに着替え、シガリロを口に咥えながら去っていった。

「さて、私たちも行こうか。馬の代行なんてないから、バスでね!!」

「うん!!」

 スコーンが笑った。

「あっ、師匠。もう変えるんですか?」

 ビスコッティがスコーンに声を掛けた。

「うん、満足したし、晩ご飯食べないと!!」

 スコーンが笑った。


 バーで楽しく飲んだ私は、ド○ペの瓶をずっと片手にギターを弾いているお兄さんの前に置き、私とスコーンはバスがくるのを待ったが、全然くる気配がなかった。

「マリー、終バス終わってるよ!!」

 バス停の時刻表を見ていたスコーンが、困り顔で行った。

「あっ、もうこんな時間だもんね。ここに置き去りにされているチャリを盗もう!!」

 私は正門の前に置かれたバイクに跨がり、刺さったままのキーを捻った。

「スコーン、後ろ乗って!!」

「うん」

 スコーンは浮遊の魔法で私の後ろに座ると、腰に手を回すと両手に思い切り力を入れた……。

「……あっ、お酒飲んでた。これダメだ。スコーン降りて!!」

 スコーンが浮遊の魔法でバイクから降りると、私はバイクのキーを投げ捨て、道を歩きはじめた。

「……飛べるよ?」

 スコーンが呟いた。

「ダメです……ダメ!! お酒飲んだらダメ!! こうなったら四十分の道のりを歩くのみ!!」

『ミッドタウンA、こちらアルファワン。ヘリで送ろう。許可は取ってある』

 無線ががなった。

「……あっ、その手があった」

 私はスコーンの手を掴み、基地内に戻った。

「ど、どうしたの!?」

「ヘリで帰るんだよ。久々で忘れてた。ヘリポートまで距離があるから、ブーツホットドッグに注意して」

 私は笑った。

「なにそれ?」

「うん、魔物の一種。見た目は地面に落ちたブーツなんだけど、接近すると飛び上がってケチャップをばら撒く、それだけの変な魔物なんだ。だから、話しておきたかったんだ」

 私は笑って、ヘリポートに向かった。

 チヌークヘリポートの周りはブーツで覆われていて、異常発生したブーツホットドッグの群れがいた。

「あーあー、しょうがないな」

 私は空間ポケットからM-2重機関銃を取りだし、バイポットをセットして弾帯をセットした。

「それ、行くぞ!!」

 私はハンドルを握ると、トリガーレバーを一杯まで下に下げた。

 スドドド……と発射された弾丸は、居並ぶブーツを破壊し、チヌークヘリのボディやガラスが粉々になって吹き飛び、私は射撃をスコーンと変わると、四十ミリ二連装機関砲をせっせと組み立て、ドガガガと発射し、チヌークヘリが爆発炎上して果てても、ひたすらバカスカ撃ちまくった。

 綺麗に裏返ったブーツだけ残ると、私は四十ミリとM-2重機関銃を片付けた。

「なにこれ、研究しゅる!!」

 私が止める前に、ひっくり返ったブーツに触れたスコーンの顔に大量の腐ったケッチャップが放出された。

「……フレッシュ」

 スコーンは私を困ったように見つめた。

「あーあ、触っちゃった。死体に触ると、死ぬほど臭い腐ったケチャップを吐き出すんだよ。今、掃除してもらうから」

 私は無線でコマンダに連絡し、防護服をきたお掃除部隊が、せっせと死体を片付けたが、凄まじい悪臭が漂った。

「くっさいなぁ……。まあ、でもこれでいいや。ヘリを一機燃やしちゃったから、もう一機に移動しよう。

 私はスコーンの汚れをなるべく拭いて、駐機していたもう一機に向かった。

 開けっぱなしの後部ランプから機内に入り、壁際の固い椅子に座っていると、バーで飲んでいたみんなも三々五々乗ってきて、全員が乗ったところで離陸となった。

 十数分で家の前にヘリが着陸し、私たちは家に入った。


 家の中ではCAさん二人が料理をしていて、美味しそうな夕食の匂いが漂っていた。

「さて、スコーンはお風呂入った方がいいよ。モロに臭いケチャップ被っちゃったから」

「うん、そうする」

 スコーンが着替えを持って、風呂に向かっていった。

「さてと……」

 夕食が出来る間の間、私はノートパソコンをを立ち上げ、ログインしてメッセージを確認した。

「……なにもないか」

 たまったメッセージは、宰相への愚痴ばかりなので、私も『このモッコリ野郎!!』と書き、データを送信した。

 ついでに、ファン王家をぶっ潰すという計画があり、議会で承認も通って決済待ちなので、私はステータス承認に変え。小さく息を吐いてその時を待って、ホットビスケットを囓った。

 片手で黒封筒を二枚鞄から取り出し、鍵付き鞄から便せんと燭台、封印を取り出して、ついでに低温蝋燭(六十五度)を取り出して、犬姉に手招きした。

「なぁに~」

 犬姉は繋ぎを脱いで、素っ裸で私の元にやってきた。

「暇つぶし!!」

 私は低温蝋燭に火を付け、黒い封筒を差し出し、犬姉の体に蝋燭の蝋を垂らした。

「馬鹿野郎、こっちの黒い方が先だろ!!」

 犬姉は苦労封筒をひっつかみ、私の手にあったら低温蝋燭の火を消して持ち帰っていった。

「あとは、ビスコッティとリズ、スコーンもちょっときて」

 三人が近寄ってくると、私はそれぞれに黒い封筒を手渡した。

 三人が無言で立ち去ると、荷物を纏めはじめた。

「はぁ、空挺だな……」

 私は苦笑した

 私は無線でコマンダを呼び出した。

「出撃命令。これで分かるでしょ」

『うむ、分かった。遅すぎるぞ』

 私は苦笑して、ホットドッグを囓った。

 ……ケチャップは見たくなかった。

「あとは、ベイロンでも乗って、気晴らししてこようかな。どこに駐めたかな……」

 私は笑った。


 犬姉、ビスコッティ、スコーンの三名が出ていき、無線で港での積み下ろしが終わったと連絡が入り、最後の輸送機がもう間もなく着陸すると連絡が入った。

「よし、これだけお酒があれば満足でしょ」

 私は冷めたホットコーヒーを一気に飲み干し、柿ピーをポリポリ囓った。

「さてと、お酒でも飲むかな」

 私は温い瓶ビールを取りだし、歯で栓を開けて吹き出し、その場で一気飲みして空き瓶を容器に投げ込んだ。

「はぁ、寝るか……」

 私は笑った。


 私は葉巻を咥えながら、ノートパソコンで関係各所と調整を進めていた。

「あのジジイ、また屁をこきやがったな。正しくはこうだろ!!」

 私はジジイの間違った暗号化された文を訂正して送信した。

『こちらカ○ヤス109、無事を祈る』

「そっちもね。ちょっと忙しい!!」

 無線の周波数を変え、私はマルシルを呼んだ。

「これ持って『イレース』って叫んで!!」

「えっと、イレースって高度な消去魔法ですよ。どこに?」

「座標は設定しておいた。叫ぶだけ!!」

「はい、『イレース!!』

 マルシルが叫ぶと、飛び回ってる戦術偵察機からの写真で、邪魔な砲塔が消えた事を確認した。

「ありがと、これ……」

 私はずんだ餅を乗せたお皿を、マルシルに手渡した。

「はい、ありがとうございます。黄緑色?」

 なんだかしっくりこないようで、小首を傾げながらテーブルの向かいに座り、熱い緑茶を飲んだ。

「……パステル、あの沢庵が食べたい」

「はい!!」

 パステルが冷蔵庫から、臭い沢庵を持ってきた。

「ありがと。これ……」

 私はずんだ餅を二つお皿に載せ、パステルに手渡した。

 パステルはラパトを呼び、二人でずんだ餅を食べはじめた。

「リナ、ナーガ!!」

 私は近寄ってきた二人に、ずんだ餅と黒封筒を手渡した。

「マンドラは待機。ずんだ餅取りにきて!!」

 リナとナーガは黒い封筒を不思議そうに眺め、マンドラにずんだ餅を渡した。

 私は最後のずんだ餅を食べ、汚れた手をテーブル拭きで拭いた。

「ええ!?」

「あら……」

 黒い封筒を開けたリナが声を上げ、ナーガが平然と笑みを浮かべた。

 扉が開いて。海兵隊の兵士たちが現れ、リナとナーガを担いで持っていった。

「さて、これでどうなるか。こういうの、嫌いなんだけどね……」

 私は苦笑した。


 暇といえば暇なので、私はジャンパンチという新技の開発研究をしていたが、どう考えてもジャブしか撃てなかった。

「どうしても、重力が……」

 どうやってもジャンプパンチになってしまい、役に立たないので開発は困難を極めていた。

「しょうがない、魔法書でも読むか……」

 私は鍵付きの鞄から新品同様の魔法書を読み始め、パステルに向かって光りの刃を放ったが、自分の顔が切れた。

「あれ、また自分にきた。変なの」

 私は魔法書を読みながら、うろ覚えのオメガブラストを放った……ように見せかけて、光りの球を無数に放って床に転がした。

「これは自分にこない。変なの」

 やはり、魔法というものは不思議だった。

 私は頭にきて、リズお得意の攻撃魔法、オメガブラストの間違いの検証をはじめた。

「ここの引数、素因数分解二回してない。元に戻っちゃうよ」

 私は苦笑して、一から呪文を組み立てはじめた。

「……なんだこれ。よし、ポインタで直そう」

 私はノートパソコンのエディタにコードを記述していった。

「それで、このモジュールをメインにくっつけて、後はだーっと書いてコンパイル」

 長い時間待たされて、コンパイルが完了すると、私はエグゼを叩いた。

 瞬間、ノートパソコンが光り輝き、窓ガラスをぶち破って極太の光線が発射され、どこかで爆音が轟いた。

「うん、後で師匠にみせよう」

 私は笑みを浮かべた。

「あとは……」

 私はテーブルを二回叩き、呪文を唱えた。

 空間に空いた穴から、そっとクランペットがのぞき込み、石を落として身を引っ込めた。

 石が爆発し、私は水をぶっかけて消火した。

「こら、さっさと出てこい!!」

「はいな!!」

 クランペットが穴から出てくると、私は黒い封筒と一個乗せた。

「そうですか……」

 クランペットがハシゴを掛けて穴に入り、私は穴を閉じた。

「さて、これで破壊工作はバッチリだね。順番間違えたけど……」

 私は自分で肩を揉み、腰からナイフを抜いて手のひらを切り、血を一滴垂らした。

 キーボードに次元の歪みが発生し、バハムートが目を覗かせた。

「よろしく!!」

『また貴様か。よかろう』

 空間のひずみが消え私はキーを叩き、ポインタでバハムートに攻撃指示モジュールをくっつけ、コンパイルした。

 シンタックスエラーが大量に出力されたが、もう一度コンパイルを掛けるとエラーが消えた。

「毎度思うけど、変なの……」

 吐き出されたエグゼを蹴飛ばし、私は笑みを浮かべた。

「あとは……逆穴ぼこだね。どうやったんだか……」

 私は穴ぼこの呪文をコーディングし……ポインタで1.6とか2,8など、打ち込んで調べてみた。

「うーん、どう考えても穴ぼこしか空かないな。絶対、今頃必要としているはずなのに……しかも、深度三千メートルって、これはやり過ぎだな」

 私は発想を変えて、『あの危険な関数』を分解して、適当にコンパイルした。

 エグゼを拾ってメイン関数にくっつけ、コンパイルを掛けると、エグゼが吐き出された。 それを叩くと、家が二ミリくらい浮いた。

「この家が二ミリ浮くなら、使えるな。さっそく送ろう」

 私は衛星電話を使って、呪文を送った。

「これでよし。ちょい穴ぼこ!!」

 浮いた家が元に戻り、『初めてのC言語 初級』を閉じた。

 外で工事の音が聞こえ、私は訝った。

「なんだろ……まあ、いいや。空耳でしょ。疲れたし」

 私はホットパンツで……間違いに気付き、ホットココアを飲んで大あくびをした。

「さて、暇になったし、中古車価格を調べるか。あのフェ○ーリ、乗らないし邪魔なんだよね」

 マウスをカチカチやっていると、パジェロ幌がいい感じの値段で売っていた。

「うん、これいいな。ここ悪路がたまにあるし、マニュアルだし、前後ウインチ付いてるし、二インチアップ程度ならまともだね」

 私は即決して購入ボタンを叩き、お金を振り込んだ。

「あとは、邪魔な○ェラーリ売らないと……」

 次は買い取り専門店のサイトで買い取り希望をクリックし、タイプと年式を叩き込んだ。

「えっと、○○○……。うん、二千五百万以上か。ジジイに送って処分してもらおう」

 私は海兵隊定期便のC-17に予約を入れ、引き取り依頼も出した。

 すぐに海兵隊員がやってきて、私がキーを渡すとバケツを叩いたような爆音を立てて、フ○ラーリはドナドナされていった。

「さて、もう直ぐ夕食だね。人数が寂しくなっちゃってるけど、ゆっくりしますか」

 私は笑みを浮かべた。


 夜半になって、お茶漬けを啜っていると、ボロボロのクランペット一味が帰ってきた。」

「はいな。終わりました。ヘリをパクって逃げてきました」

「お疲れ。温泉でも入ってゆっくりして!!」

 私は笑みを浮かべた。

「では、お風呂入ってきます」

 クランペットたちが、お風呂に向かって歩いていった。

「そろそろ、やるか……」

 私はノートパソコンを操作して、衛星電話を接続した状態で、さっき作った魔法のデータを流しはじめた。

「犬姉はこれでいいか……」

 私は『グランドスラム』の呪文を送った。

「リナもいたな。あの不安定なドラグスレイブをどうにかしないと……」

 私は魔法解析アプリケーションを起動し、呪文を一から洗った。

「……ルーン文字じゃない。オリジナルだ。どうやって?」

 私は代わりにルーン文字版のドラグスレイブを作り、ついでに穴ぼこの魔法を組み込んだ。

「撃つと目立つから、こうしておかないとね」

 私は首をコキコキ鳴らした。

「さてと、ビスコッティにもプレゼントしておくか。回復魔法なんざ役にたたないから、穴でも開けてやるか」

 私は押し入れにしまってある業務用掃除機を取りだし、背負い紐をつけてパソコンのUSB端子に接続した。

「七万ギガワットくらいでいいか。いや、三十万にするか……」

 私はエディタを立ち上げ、コードをバカスカ入力してコンパイルした。

 掃除機が変な色に光り、窓に向けて光線を発射した。

 光線は窓を貫き、どこかで遠雷のような音が聞こえた。

「うん、いいね。よし」

 私は掃除機を背負い、ノズルを窓に向けて、電源スイッチをオンにした。

 ノズルの先端から放たれた荷電粒子が窓を一瞬で消滅させ、後には静けさが残った。

「よし、これなら……」

 私は外に出ると、衛星電話で犬姉宛にメッセージを送り、パステルとラパトを呼んだ。「二人とも、ここから旧ファン王城のある場所が分かる?」

「えっ、はい……」

 ラパトが地図を開いて方向を示した。

「ありがとう、大体の方角が分かれば……」

 私はハシゴを掛けて屋根に上り、衛星電話で犬宛てにメッセージを送った。

「……ロックオン」

 私は掃除機のノズルを渾身の力で支え、スイッチをオンにした。

「これで良し。これで平気かな」

 私はちょうどいた監督に掃除機もどきを渡し、ハシゴを下り……途中で折れて顔面から着地したが、受け身はバッチリだった。

 私は腰にさしておいた衛星電話で、犬にメッセージを送った。

「返信はないね……。忙しいか」

 私は苦笑して、家に入った。


 先に帰ってきたクランペット一味に、私は赤い封筒を手渡した。

 迎えのバスがクラクションを鳴らし、三人は家から出ていった。

「マンドラ、ちょっときて」

 マンドラが近寄ってくると、私は『算数ドリル一年生』を手渡した。

 なんか、妙にやさぐれている感のあるマンドラがページを開くと表情が変わり、装備も持たずに家から飛び出していった。

「パステル、ラパト。ちょっといってくれる?」

「はい!!」

 パステルがラパトの手を引き、家から出ていった。

 しばらくして、国籍とナンバーを隠したアイランダーが飛び立ち、窓の向こうに軽く敬礼を放った。

「だから、丁寧に扱ってぶっ壊すなっていったのに。さて、後はリナとナーガに仕上げてもらうか」

 私は衛星電話でリナとナーガに『完全に消滅させろ』とメッセージを送ると、私はコンロでお湯を沸かし、砂糖を溶かして飲んだ。

「本当は納豆ともずく酢があればよかったんだけどね。風呂でも入ろう」

 私は笑った。


 明け方になると、何往復もしたアイランダーがついにぶっ壊れ、ギリギリ全員揃った。

「アメリア、シルフィ。回復!!」

 二人が回復作業に入ると、ちょうど朝食を作りにきたCAさん五人が大量の料理を作りはじめた。

「芋煮!!」

 そこら中穴だらけのスコーンが声を上げた。

「まだ、甘いね」

 穴だらけの犬姉が笑った。

「師匠には辛かったかもしれません」

 変な場所が陥没したビスコッティが笑った。

 手当に追われる中、私はジジイにガンヘッド大隊ミッション完了と、適当にメッセージを送り、家の外に出て監督が持っていた掃除機を受け取り、C-4を仕掛けて起爆させた。

 窓ガラスが全て割れ、吹っ飛んだ私は危うく気絶しそうになった。

「こりゃ怖いね……」

 どこからともなく芋ジャージオジサンたちが現れ、全員で私の顔に往復ビンタをビシバシ叩き込んで去っていった。

「あれ、なんか折れたかな。そこら中が痛い気がする……」

 とりあえず、地面に倒れていると、犬姉が蹴りを入れて上に座った。

「どうだ、痛いだろ。素人がC-4なんか使うからだ!!」

 犬姉は満足して、煙草を吸いはじめた。

「だって、格好いいもん。犬姉……」

 私は小さく息を吐いて……痛かった。

「バカ、素人が真似するな!!」

 犬姉が大笑いした。

「……四個あげる」

「いらんわ、バカ!!」

 ……結局、ほぼ全身が折れていたが、内臓にダメージはなかった……らしい。


 朝食の芋煮が出来ると、ビスコッティがスコーンを連れて、ぶっ壊れたアイランダーの修理をはじめた。

「こら、そうじゃない!!」

 犬姉が慌てて駆け寄り、エンジンから小爆発が起きた。

「……早く直せるようになりたいな」

 スコーンが小さなため息を吐いた。

「なにやってるの?」

 私はエンジンのプラグを変えている、犬姉に声を掛けた。

「みりゃ分かるでしょ。どうすればこんな壊せるの!!」

 犬姉がオイル塗れになりながら、レンチを落とし、スコーンの頭にめり込んだ。

「あれ……大丈夫?」

 私は作業台から降りた犬姉に苦笑した。

 しばらく作業を眺めていると、塗装で王族専用機と分かる飛行機が降りてきた。

 駐機場に入ってくると、スコーンデザインの王家専用機の隣に開き、前扉の一つが開くと、国王が滑って降りてきて、コンクリ地面に着地すると、そのまま転けて転がっていった。

「……なにやってんだ、ジジイ」

 私は白けた目で見ていると、顔面から血を流しながら、宰相が接近してきた。

「相変わらずバカそうだな。早く来いというとるのに……」

 ジジイは私の王冠を外し、ティアラをつけた。

「はぁ、いよいよ正式な女王か」

「そういう事じゃ。ちゃんと仕事しろよ」

 ジジイは笑みを残し、ドラッグシュートが外された前扉から垂らされた縄梯子を機用に上り、あっという間に離陸敷いていってしまった。

「みんなに行っておくけど、ただの旅人だからね。それは、忘れて欲しくないな」

 私は苦笑した。

「まあね、女王らしくないしね。ところで、あたしのオメガブラスト弄ったでしょ?」

「弄ってない。改善しただけ」

「同じじゃ!!」

 リズが私をぶん殴った。

「てめぇ、リズのくせに!!」

 私は食べていたバナナを、リズの顔面に押しつけ、思い切り塗りたくった。

「みなさん、手を休めて朝食にしましょう」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「……早く直したいな」

 スコーンが小さなため息を吐いた。

「すぐには直らないよ。朝食後でも時間はあるから」

 私はビスコッティを促し、家に戻った。


 朝食を済ませると、私はバスに乗り、海兵隊基地に向かった。

 中に入ると、ミカの店に寄ってオレンジジュースを頼んだ。

「今日で帰ると思うけど、大丈夫?」

「平気平気、儲かってるんだか損してるんだかわからないけど」

 ミカが笑った。

「まあ、いいヤツらばかりのはずだから、よきに計らえって感じでいんんじゃない。遅れたけど、これ開店祝い。そこのギタリストにもよろしく」

 私は二十個置いてオレンジジュースを飲み干し、カウンターから立ち上がった。

「さて、帰りますか」

 私はバスで家に戻った。


 家に帰ると、私が持ち込んだドローンでリナが遊んでいた。

「みんな、そろそろ帰らないと島焼けしちゃうよ。問題なければ帰ろう」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、問題ないです」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「じゃあ、準備はじめちゃうよ」

 私は部屋の片隅で円陣を組んでいたCAのチーフパーサに声をかけ、帰りの機の準備がはじまった。

 片付けといっても大したものはなく、私は大事なノートパソコンと衛星電話を手に持ち、あとは空間ポケットに放り込んだ。

 あとはある事はないので、みんなが支度を終えるのを待った。

「……よし、おでこ出た。ビスコッティ、これでいいよ!!」

 スコーンが準備を進めるビスコッティに声を掛けた。

「はい、師匠。私はもうちょっと……」

 ビスコッティが笑った。

 結局、三時間くらい掛かって準備を終え、私たちは空港行きの直通バスに乗った。

 空港の柵を越え、ターミナルに入ると、私たちは団体専用窓口からボーディングブリッジを通ってピンク地に白水玉の専用機に乗った。

 全員が乗ると、しばらくして飛行機がプッシュバックされ、巨大なジャンボ機は駐機場を離れ滑走路に出た。

「はぁ、疲れたな。でも、これでファン王国の残党も処理出来たし、後は問題ないでしょ」

 私は離陸滑走して空に舞い上がった。

 こうして、島にいたからこそ出来た作業を終え、私たちは帰途についたのだった。

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