第27話 アイツらの始末

 翌早朝、私はいつも通り早起きして、ワインクーラーから一本取りだし、まだ寝ているビスコッティのベッドに座って、一本やっつけていた。

 たくさんいるので交代制なのか、CAさん二人がキッチンで何か作り、それをテーブルにおいたので、私はテーブルの椅子についた。

「うん、きんぴらゴボウか。ありがと」

 私はお酒を飲み干し、同時に出てきたスモークサーモンをみて笑みを浮かべた。

「また通だね。さて、もう一本。こういう安物には癖が強いつまみが合うんだよね……」

 私はワインクーラーから逸品を取りだし、ラベルの名前を確認した。

「これ間違ったら、スコーンにぶっ殺されるからね。唯一飲めるお酒だからって」

 私はいわゆるポン酒を取りだし、ラベルをみてニヤッとした。

「白州か。綺麗な水で仕上げましたってか」

 私はナイフを使って栓を開け、テーブルに戻って置いてあったグラスに透明のお酒を注ぎ、ビスコッティのベッドにいって香りを嗅がせ、再びテーブルに戻って黙って飲みはじめた。

 適当にお酒も進み、私はノートパソコンを開いて衛星電話を接続し、パソコン再起動した。

「ミスったな。忙しかったから……」

 私は苦笑した。

 パソコンが立ち上がりログインしてロックを外すと、衛星電話を操作して城の通信室に接続を試みた。

 コネクテッドと衛星電話の液晶画面に表示され、私は再びパスワードを入力し、なんでないようなファイルが並ぶ画面を開くと、さらにコントロール&デリートを押した。

 いきなりノートパソコンの画面にパスワード入力画面が表示され、私は八桁のパスワードを入力した」

「……もっと、覚えられる桁数を増やしたいな」

 私は小さく息を吐いた。

 まあ、それはともかく、ここが私だけが知るデータベースだった。

 検索キーワードをいれると、ファイル名がメチャメチャのデータがずらっと並んだ。

 その中に紛れて、日付だけのファイルが四つ並んでいた。

「うん、入ってるね。確認完了」

 私はデータベースからログオフして、ついでに議会を通過した案件から、最優先のデータを洗い出した。

「……やっぱりサロメテか。あのエルフ王家が、素直にいうこと聞くはずがないか。私兵を集めてまで、なんかやる気だね。早く潰さないと」

 私は小さくため息を吐いた。

「最新情報だと、私兵の数は百五十前後か。叩くのは今だな」

 私はため息を吐き、こればはビスコッティと犬姉には荷が重いと判断したが、フィン王国海兵隊では目立ち過ぎるし、こんな時のためにある特殊部隊を動員しようか考えはじめた頃、ビスコッティが起きだしてグラスを持ち出し、私の脇にあった酒瓶の中身を注いだ。

「朝から浮かない顔ですが、どうしました?」

「うん……。また仕事をお願いしようと思ったんだけど、今回はヘビーだからね。さすがにこれは辛いと思って」

 極秘事項だったが、私はビスコッティに画面をみせた。

 真剣にそれを読んだ様子のビスコッティが、小さく笑みを浮かべた。

「私兵の数は関係ありません。頭の首を取れば勝ちです」

 ビスコッティが私の肩を叩いた。

「そっか、そういうことだったか……」

 いきなり背後で声が聞こえ、青色に白の水玉模様の入った繋ぎを著た犬姉が笑った。

「い、いつの間に……」

「私に気付かないなんて、マリーもまだ甘いね。ビスコッティのいう通り、こんなの頭だけ狙えば簡単だし、私はあそこの元第三王女だよ。地図は頭に入ってる」

 犬姉が笑った。

「そういうなら、正式に命令書を書くよ。二人の事は信じてるし」

 私は鞄から便せんを取りだし、命令書を取り出して角印を押し、二人に手渡した。

 データベースの情報を『未処理』から『対応中』にステータス変更し、私はデータベースからログアウトして衛星電話の電源を切り、ノートパソコンを閉じた。

「へぇ、噂のフィン王国データベースか。あとで侵入しよう」

 犬姉が笑った。

「まあ、そうなんだけど、失敗するとこっちのパソコンがぶっ壊れるようになってるから、やらない方がいいよ」

 私は笑った。

 鍵付き鞄を開けて、衛星電話を二台取り出すと、私はビスコッティと犬姉に手渡した。

「連絡用ね。あまり多用すると、いいことはないから気を付けて」

「分かってる。さて、私も食前酒を飲むかな」

 犬姉が笑った。


 CAチームの当番が作ってくれた朝食を取って、ビスコッティと犬姉は仕事に向かうべく装備の点検をして、早々に家を出て、空港行きのバスに乗っていった。

「ビスコッティと犬姉は、また仕事なの」

 スコーンが不思議そうに聞いてきた。

「うん、ちょっと急ぎでね。私たちは船を見に行こうかと思っているんだけど、どう?」

 私は笑みを浮かべた。

「うん、いく!!」

 スコーンが即答した。

「みんなも興味あったら……」

 私が声をかけると、興味があったようで、残っていた全員が手を上げた。

「よし、いこうか。バスで二十分は掛かるから、ゆっくりね」

 私は笑った。


 家から出ると、すぐ前のバス停で島内循環バスを待ち、運良くすぐにやってきた椰子の木マークが描かれたピンクの白玉塗装の二階建てバスがやってきた。

「適当に選んで急いで配置したからバラバラだったけど、ちゃんとした巡回バスに統一したよ。カラーリングは、お約束のピンクの白玉で」

 私は笑った。

「バスまでそうなの。恥ずかしいよ!?」

 スコーンが声を上げた。

「いいじゃん、可愛くて。さて、乗るよ」

 私たちはバスに乗り、屋根がない二階席に陣取った。

 他には乗客はなく、バスは島の道をゆっくり走り、特に問題なく港に到着した。

 バスを降りると、潮の香りと大きな桟橋が四つ並んでいる姿が見えた。

「半分は海軍が使っているから立ち入り禁止だけど、半分はやっと到着した私たちのフェリーが使ってるよ。もうボロいから、まずは錆だらけの外回りをどうにかしないと……」

 私みんなを連れて、車も通れる頑丈な桟橋の一つに向かうと、二隻の年季が入った船が車を乗せるためのランプを下ろして停泊していた。

「船!!」

 スコーンが乗客用のタラップに向かって走っていった。

「あっ、そっちは……。まあ、もう入っちゃったし、いいか」

 私は苦笑した。

 先行したスコーンのあとを追って、私は中に入った。

 入ったのは客室がある第一甲板で、狭い扉は開けっぱなしにされ、通路を進むと私は妙な気配を感じ、反射的に身を深くして止まり、ハンドシグナルで後方に指示を出した。

 ビスコッティと犬姉が、ほかのみんなを壁に押しつけるようにフォーメーションを組み、準備が整うと、私は閃光手榴弾を二個客室に放り込み、凄まじい閃光と爆音が起こり、窓ガラスが全部割れた。

 すると、異常を検知して作動するマントの迷彩機能がオフになり、スコーンが床に倒れて動かなくなっていた。

「二個は多かったかな……」

 私は小さくつぶやき、アメリアとシルフィが気絶して倒れているスコーンの治療に当たった。

「まあ、航海試験は二番船からやるから、島巡りには問題ないね」

 私は笑った。

「全く、師匠は……」

 ビスコッティは手錠を取りだし、自分の手首とスコーンの手首を止めた。

「ああ、酷い目にあった……」

 床に座ったスコーンが苦笑した。

「きっと、なにかあったんだと思うよ。窓ガラス壊れちゃったし、隣の二番船に乗ろうか。

「うん、いいけど、なんで私とビスコッティが、手錠で繋がってるの?」

 スコーンが不思議そうな声を上げた。

「すぐどっか行っちゃうからです。行きますよ」

 スコーンの隣に座っていたビスコッティが、スコーンをそっと立たせて笑みを浮かべた。

「探検したかったんだけど、だめ?」

 スコーンが苦笑した。

「危ないところに入っちゃうとマズいから、落ち着いて乗ろう」

 私は笑った。

「これどうしますか。窓の外がメチャメチャですよ」

「うん、監督経由でガラス屋に頼んでもらった。さすがに、こればかりは対応出来ないって。ちなみに、一応防弾だよ」

 私は笑った。

「掃除は?」

「それは監督がやってくれるよ。もうこっそり連絡済みなんだ」

 私は笑った。

「それじゃ、もう一隻に移ろうか。同じ型の船だから、塗色を決めよう。さび取りがあるから、ちょっと手間かもしれないけど、監督がやってくれるらしい」

「分かった、行こう!!」

 スコーンが笑った。


 桟橋を挟んで反対に止まっていたボロ船をみんなで見上げ、意外と大きな船だと思った。

「小型って聞いたけど、さすがトラック満載で運んでいた船だね」

 私は笑った。

「これもピンクの白玉なの?」

 スコーンが笑った。

「うん、この島のイメージカラーにしたから。なんか愛着がでてきてね。いいと思うんだけど……」

「うん、可愛くていい。中は?」

「そうだね、いこうか。ビスコッティ、スコーンが機関室なんかに入らないようにしていて。試験前でピリピリしてるから、操舵室は機会があったらね」

 私は笑みを浮かべた。

「そっか、残念だね。客室に行こう」

 私はみんなを先導して、畳敷きのコーナーがある二階席に入った。

「へぇ、こうなってるんだ……」

 スコーンがビスコッティの奥襟を取ろうとして弾かれ、逆に一本背負いで床にスコーンを叩き付けた。

「甘いです!!」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「油断したなと思ったんだけど、ダメだった。それにしても、確かに歴史を感じる部屋だね。ここはこのままでいいと思うよ。この船らしさが欲しいから」

 スコーンが笑った。

「そっか。まあ、落ち着くね。ボロいといえばボロいけど、新しくしなきゃならないところ以外は弄らないのは大事だよ。三階行こうか」

 私は笑みを浮かべ、みんなを引っ張って三階に上った。


 船の三階には小さな食堂があり、航海試験前なのでまだ営業してないなかった。

「へぇ、食堂もあるんだ」

 スコーンが面白そうにしていた。

「師匠、うどんが美味しいらしいです」

 ビスコッティが笑った。

「食べたいな。いつ開店するの?」

「こっちは二番船だから航海試験も終わってないし、これから準備するけど、監督に頼めばすぐかな。一番船の方はもう営業してるし、航海試験前の邪魔になっちゃうから、向こうの食堂で食べようか」

「ホント!!」

 スコーンが笑った。

「よし、それじゃいこうか。みんなもいいでしょ?」

 私は笑った。


 船から下りると、開けられていたランプが閉じられていて、タラップが外された。

 しばらくして、長声一発船が桟橋を離れ、そのまま隣の島に向かって出港していった。

「……いい。これ、いい」

 スコーンが笑った。

「じゃあ、食堂経験に行きますか」

 私たちは船内に入り、三階へと移動した。

 三階フロアは美味しそうな香りが漂い、お土産屋さんがボンヤリ暇そうにしていた。

「ここが食堂だよ。作りは同じだから」

 私は笑みを浮かべ、食券販売機にお金を入れ、間違って玉子カツカレーという、謎のメニューの食券を買ってしまった。

「……返金したら、迷惑だよね」

 私はため息を吐き、もう一枚かけうどんの食券を買って、カウンターに持っていった。

 当然ながら全て空席のカウンター席に座り、謎の玉子カツカレーを口にした。

「うぐ……。せめてゆで玉子なら」

 私はそっとチリソースを取りだし、これでもかというくらいかけ、さらにもう一口いった。

「こ、今度は辛い上に生玉子が」

 私はため息を吐き、思い切って吸い込むようにカレーを食べ、水を三杯飲むと、カウンターに戻り、うどんを食べた。

 なにか温かな味が、すさんだ心を癒やしてくれたが、うどんはうどん。間違えてはいなかった。

「これを美味しいと思うか思わないかは、人それぞれだね。私は美味しいと思うけど」

 私は小さく笑みを浮かべた。

「……唐辛子がない」

 スコーンが小さく息を吐いた。

「ここは基本的に調味料持ち込みなんだけど、今度おいておくよ」

 私は苦笑した。


 食事を終えた私は、三階の様子を確認していった。

 お土産屋さんと食堂しかなく、どれもレトロというか、ぶっちゃけ古ぼけた雰囲気が私好みであった。

「スコーン、ここどうする。最新鋭メカトロニクス回転寿司とかにも出来るけど」

 私は笑った。

「二階も含めて、これでいいよ。もう一隻も同じなんでしょ?」

「うん、同じ。これでいいなら、外販の処理だけでいいかな」

「うん、今度は群青色で!!」

 スコーンが笑った。

「あれ、ピンクの白玉じゃないの」

 私は無線を手にした。

「監督、群青色だって!!」

『分かった、塗料はある。さび取りはもう終わった。試験から帰ってきたら、二番も作業を行うが、内装に変更点はあるか?』

「特に……」

「赤、赤がいい!!」

 スコーンが叫んだ。

「えっと、外装の色を赤くして角をつけて、お約束だから!!」

 私は笑った。

『了解した。但し、番号だけは六ではなく二だ。紛らわしいからな。まあ、エンジンが不調で三分一しか速度がでないがな』

「そっか、よろしく頼むよ」

 私は苦笑した。

 しばらくして、監督が二人の部下を連れてやってきた。

「うむ、準備完了だ。群青色だったな」

「うん、よろしく」

 私は笑みを浮かべ、私たちは船を下りた。

 監督が連れてきた部下が呪文を唱え、船が大きく浮き上がると、部下一が船底一杯に透明な液体を塗り、古くなった塗面や付着したトコブシなどを一気に落とし、同時にさび止めの液体をローラーで素早く塗っていた。

「次ぎ、点検!!」

 監督が声を上げると、二人が飛びながら細かく船底の検査をはじめ、時折溶接の火花を散らせた。

「終わりました」

「うむ、船を下ろせ。上部構造の点検に入る!!」

 オレンジ色の繋ぎを着た監督と緑の制服を着た部下と思しき人が、三人で魔法を唱えてさび取り諸々と群青色の塗装が完し、サイドに白い帯が巻かれた新車並の中古船が出来上がった。

「……しゅごい」

 スコーンが目を丸くした。

「これで一番船は出来たね。事前に聞いた話だと、二番船は痛みが激しいから、徹夜修理になるかもって話だよ。島巡りの遊覧船なら一隻で足りるから、二番船は本土との定期連絡用に使おうって考えてるんだけど、いいかな?」

 私はスコーンに聞いた。

「うん、いいよ。車も馬車も乗れるし、私たちの馬も運べるかもしれないから」

 スコーンが笑った。

「これで交通の便はなんとかなったかな。あとは四つに分かれた島の割り振りだね。この条件で、もう一回考えよう。多分、各島に港が作れるわけじゃないから」

 私は笑った。

『分かった、港だな。余裕だ』

 いきなり無線から声がほとばしった。

「うわ、広域モードでトークになってた……」

『聞いたからにはやるぞ。手空きの部下を連れて、セメントを取ってくる』

 監督の声が聞こえ、無線は黙った。

「……こりゃ大変だ。さすがに、予算が」

 私は衛星電話を取り、ジジイに連絡を取った。

 すると、受信していたメッセージが表示されていて、私は小さく苦笑した。

「やっぱりあのバカ共……。即刻、不敬罪で処刑だな。ビスコッティと犬姉、また仕事頼めるかな。ダメなら秘密兵器を使うけど、あまりやり方がスマートじゃないから」

 私は苦笑した。

 ビスコッティは犬姉と顔を見合わせ、二人とも笑みを浮かべた。

「いいよ、ひとっ走りしてくる」

 犬姉が笑った。

「助かるよ。みんな、ちょっと家に戻るよ。役人の調査があるから、すぐには出られないんだよ。午前一時になったら出港できるけど、なにも見えないよ」

 私は笑みを浮かべた。

「それでもいいから乗りたいな。うどん食べたい」

 スコーンが笑った。

「まあ、みんなまだ寝てる時間じゃないし、それもいいけどちょっと待ってね。とにかく、いったん家に帰らないと」

 私は苦笑した。


 循環バスは同一方向にしか進まないため、帰りは四十分以上掛かる見込みだった。

 屋根なし二階の席に陣取ってぼけら~としていると、上空を定期便の767が飛んでいった。

「そういえば便数増えたんだっけ。聞いた話だと今日から四往復だっけか……」

 私は笑った。

「ええ!? 昨日までひもじかったのに!?」

 スコーンが叫び、ビスコッティがスコーンの頭にゲンコツをぶち込んだ。

「……ごめんなさい」

「分かればいいです」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「さて、あのジジイにコンクリ発注しなきゃ……って、もうコンクリ輸送中ってメッセージがきてる。さすがに監督、仕事が早いな。どれだけ担いでくるんだろ……」

 単純に考えて、各島に港を建設するなんて、どれほどか見当も付かなかった。

「みんな、なんか各島に港が出来るらしいよ。アイランダーじゃ積めない荷物があっても運べるし、あまり天候に左右されずに航行出来るから楽だよ。まあ、ちょっとだけ時間はかかるけどね」

 私は笑みを浮かべた。

 港の方で汽笛が短声三発鳴らされ、船が動く音が聞こえた・

「あれ、船はまだじゃ……」

 スコーンが不思議そうな声を上げた。

「うん、まだだね。なにかあったのかな……」

 私は無線で監督を呼び出したが、圏外なのか応答はなかった。

「あれ? コンクリ輸送にいったのかな。まあ、なにかあったのは確かだね。緊急事態があれば、監督から連絡がくるから」

 しばらくして、短く着信音がなり、監督から文字情報が送られてきた。

『港を全港作り直す。しばらく待て』

 私は衛星電話を取り落としそうになった。

「な、なんだって!?」

 私は近くにいたスコーンを、思い切りぶん殴ってしまった。

「あ……ごめんなさい」

「いいよ、慣れてる!!」

 スコーンが笑った。

「ホント、ゴメン……。港を全部作り変えるんだって。あの速さなら、ここはあっという間に終わるかな」

 私は笑みを浮かべた。

『到着予定、0200』

 衛星電話に監督から連絡があった。

「了解っと。私は仕事しなきゃね。はぁ、こんなのばかりじゃない事を祈る」

 私は苦笑した。


 港から家に帰ると、みんなそれぞれ好き勝手にはじめた。

「ドローン出来た!!」

 スコーンが笑った。

「えっ、なんか玩具できたの?」

 犬姉が近寄っていった。

「へぇ、これで飛ぶのか。偵察用にいいかもね。もう一個作ってくれる?」

「うん、時間はかかっちゃうけど、一度作ってから大丈夫」

 スコーンが空間ポケットから色々取りだし、スムーズな手つきでドローンを組み立てはじめた。

 私はそれをみてからノートパソコンを開き、自分のデータベースを開いて昨日四人に命じた報告書を開き、精査をはじめた。

「犬姉とビスコッティは、想定外の事があったんだね……評定はAかな」

 私は小さく笑った。

「次はスコーンとマルシルだけど、木から落ちたことまで書いてる。細かすぎるよ。まあ、情報は正確にって感じかな。肝心の研究所破壊だけど、それは達成したのはいいけど、周辺被害がちょっと多いね。情報部員によると、研究所の魔道ジェネレータを直撃して、大爆発を起こしたみたいだね。やっちゃったか……」

 私は苦笑いをして、評定にCをつけた。

 先ほど着陸した様子の国営航空の飛行機が、エンジンの調子が悪いらしく、カウルを開けて中を点検していた。

 バスの音が聞こえ家の前で駐まると、部屋の扉がノックされた。

 私はログアウトし、扉を開けるとサングラスを掛けた女性が立っていた。

「あれ、王家?」

 私はその雰囲気と侍女を二人連れている事から、そう判断して問いかけた。

「はい、旧サロメテ王国第一王女です。リズ・ウィンドと申します」

 女の子は一礼した。

「さ、サロメテ……」

 私は苦笑した。

 はい、父と母を一度になくし、さらに王城まで焼かれてしまい、居場所に困っていたのですが、宰相様がここに王女がいると伺い、こうして参りました。しばしの間、身を寄せさせて頂きたいのですが……」

 リズは私に封筒を渡してきた。

「ここで失礼……」

 私は封筒を開き、中に入っていた透かし入りの紙を束ねたものを読んだ。

「……そっか。宰相公認なんだね。ならいいや、私が好例だけど堅苦くしないしないでね」

 私は笑みを浮かべ、家の中を振り返った。

「みんな、新しい仲間だよ。事情があって大っぴらじゃいえないから、自己紹介はそれぞれやってくれるかな」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、分かりました。あたしは……」

 リズは私の近くにいたリナに声を掛けた。

「みんな仲良くしてね。さて……」

 私はテーブルの上に開いたノートパソコンで、くるべき物の所在を調べた。

「えっと、ゴーグルアースによると……」

 どうやらコルポジの港を出た一行は、凄まじい速さで島に向かっていた。

「速いなぁ……。まあ、助かるけど、これは夕方には到着するかもね」

 私は笑みを浮かべた。

「さて、くるべきものがないとはじまらないな」

 私は衛星電話を取りだし、アンテナケーブルを接続した。

 すぐに短い着信音がなり、文字情報がずらずらと並びはじめた。

「あと一時間って、どんな高速貨物船を雇ったのやら」

 私は苦笑した。

「ん、なにが一時間なの?」

 スコーンが不思議そうな顔をした。

「セメント。やる気満々だよ。こりゃもう止まらないね」

 私は笑った。

「そうなんだ。早く船に乗りたいな」

 スコーンが笑みを浮かべた時、ビスコッティが声を上げた。

「全部義剤だった!?」

「……あのね、怒るよ」

 スコーンがビスコッティに回し蹴りを食らわした……が避けられた。

「テメェ!!」

 怒り心頭のスコーンが、ビスコッティに蹴りを入れようとしてたとき、その足を犬姉がそっと受け止めた。

「言い合いはいいけど、喧嘩はいかんよ~」

 ぼんやり呟きながら、犬姉はスコーンの胸を揉んだ。

「ぎゃあ!!」

「フフフ、食ったろか」

 逃げたスコーンを追いかけて、犬姉は笑った。

「元気だね。さて……」

 私はパソコンをロックして、家の扉を開けたらいきなり板が割れて真っ二つになってれた。

「……あーあ」

 私は持ったままだった取っ手を持ったまま、小さく息を吐いた。

「こういう場合、絶対監督がくる。動かないで待とう」

 しばらくして、オレンジ色の繋ぎを着た監督と部下が三名飛んできた。

「うむ、宰相殿から預かってきた書筒を渡そう。急ぐそうだ」

 監督が差し出してきた封筒を受け取り、背負っていた業務用複合機を部屋の片隅に設置してもらい、私は中に入っていたUSBメモリの中に保存されていたファイルを開いた。

「至急ってこれか……」

 保存されていた書類に目を通し、私は「ボコいてまうぞ」とつぶやき、書類を何種類も印刷して、自動的にホチキス留めされた書類の束を確認してサインを書き、角印を押していった。

「監督、お待たせ」

「うむ、抜かりはないな。いってくる」

 監督はヘルメットの衝突防止灯を点灯させて、二人を連れて空に舞い上がっていった。「さて、次はこっちだな。割れちゃった四つの島なんだけど、一つはマルシルで勝手にサルビア島って名前つけちゃったけど、いいかな?」

「はい、私は大丈夫です」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「残りだけど、犬姉がいるね。勝手にアマリリス島って名前をつけたけど、他に誰かいるかな?」

「あたしとナーガ、あとは嫌じゃなかったらリズも!!」

「分かった。急ぎだから勝手に書いちゃうよ」

 私はノートパソコンのエディタに打ち込んだ。

「はい、次ぎ!!」

 私は勝手に島を振り分けた。

「マンドラはシバザクラ島ね。ちっちゃいし、島の半分くらいは砂浜だけど、日向ぼっこにはちょうどいいよ」

 私はノートパソコンの最新の定点監視衛星の画像をみながら、小さく笑った。

 さらに近辺を探していると、この群島に連なると考えられる、小さな島が見つかった。

 私は地図アプリケーションを立ち上げ、参照してみた。

「なんか、未発見の島がもう一個あるよ。パステルとラパト、ちょっときて!!」

 パステルとラパトが急いでやってきた。

「この島なんだけど、どう思う?」

 私はノートパソコン画面を指さした。

「そうですね……広さはこの島の半分ぐらいでかなり大きいです。現地に行かないと分かりませんが、恐らく居住可能な環境だと思います」

 パステルの言葉に、ラパトが小さく頷いた。

「そっか、ありがとう。明日、日が昇ったら調査に行ってくれる? これ、一応命令書」

 私は便せんに二人に充てた命令書を直筆で書いてサインを入れ角判を押し、白い封筒に入れて二人に手渡した。

「あっ、リズも連れて行ってあげて。結界魔法が得意な事で有名だから、きっと手助けしてくれるよ。ここで暇してるよりいいよ」

 私は笑みを浮かべた。

「えっ、あたし!?」

 リズが声を上げた。

「いい空気吸ってきなよ。やっと、しがらみから開放されたんだから」

 私は笑った。

「い、いいよ。あたしは今でも満足だから」

 リズが脱いでいた麦わら帽子を被り、頭を下げた。

「甘い、早くなれろ!!」

 私は笑って、リズ宛ての命令書を書いてサインして角判を押した。

「は、はぁ……」

 リズは私が出した封筒を受け取り、ひとこと『馬鹿野郎……』と呟いて笑みを浮かべた。

「ほら、ストレス溜まってた。臭いもんね、あそこ!!」

 私は笑った。

「あたしももうまいっちゃって。好きで第一王女になったわけじゃないのに」

 リズが笑った。


 みんなが枕投げして遊んでいる間に、私は目の端でCAさんたちが困っている様子が見えた。

 そこにチーフパーサが入ってきて、テキパキと指示をはじめ、私は基本的な王族料理のメニューを印刷して、吐き出された紙に「こんなの嫌でしょ?」 と印刷されていた。

 笑ってそれをキッチンに持っていき、私はそのままテーブルに戻った。

「……これは、馬屋で暇してるクランペットかな」

 私は笑みを浮かべ、グラスの脇に置いたお皿に載った、猫缶の中身をスプーンで掬って食べた。

「うーん、デリシャス」

 私は笑みを浮かべた。

「さて、アイツはどこにいったか。サロメテをメタメタのケチョンケチョンして、ボコナイスにしてやる」

 私は笑みを浮かべ黒い封筒を二つ用意した。

 封筒の隅に角判を押し、便せんにサラサラと命令文を書いて、また角判を押し、座標軸など細かい資料を入れて、分厚い封筒を閉じ、封蝋を溶かして封印をした。

「おーい、枕投げやってるビスコッティと犬姉。ちょっときて!!」

 私が声を書けると、マウントポジションでお互いに枕でぶん殴っていた二人が、顔面ボコボコでやってきた。

「はいこれ、女王として書いたから、そのつもりでね」

 私は黒い封筒を二人に手渡した。

「……こりゃガチだな」

 犬姉が群青色の繋ぎに封筒をしまい、ビスコッティが自分の肩に下げている鞄にしまった。

「お二人の命は私が預かります。よろしくお願いします」

 私は笑みを浮かべた。

 二人が頷くと、スコーンが飛び込んできた。

「ビスコッティ、コーカサスオオカブト捕まえた!!」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、スコーンの手からでかいコーカサスオオカブトを虫かごに入れた」

「スケッチして逃がしてあげましょう」

「うん、その予定!!」

 ビスコッティがスコーンのスケッチの手伝いをはじめ、犬姉がカクテルを作りはじめた。

「ホワイトサンゼロス。オリジナルだよ」

 犬姉は笑って、タバコケースを片手に外れたままの扉を退けると、外に出ていった。

「私はノートパソコンの画面に戻り、テーブルをコンコンと叩いた。

「はいな!!」

 クランペットが、ぶっ壊れた玄関から入ってきた。

 私は命令書を書いて角印を押し、赤封筒に入れて封をした。

「超急ぎで。二人死ぬよ」

「はいな、いってきます!!」

 クランペットは外に出ていき、ちょうどよく聞こえたバスの停車音が聞こえた。

 バスの音が遠ざかり、私はノートパソコンを叩き、空軍司令本部に侵入した。

「B-2爆撃機一二機即時発進命令。搭載弾頭二千ポンド無誘導。直ちに実行と」

 私は空軍大佐を装って通達を発し、ログアウトして。海兵隊司令部のサーバに侵入した。「……PZ地点。デストロイ。即いけ」

 私はログアウトして、海軍本部のサーバに侵入した。

「……PZ12 タイフーン級へ通達。直ちに弾道ミサイルを発射せよ。なお、弾頭は魔力反転爆。W789を使用せよ。繰り返す、弾頭はW789だ。以上」

 私は命令を送り、ログアウトとしてため息を吐き、各軍から帰ってきた衛星電話の情報聞き、小さく笑みを浮かべた。

「よし、フィナーレだね」

 私は陸軍総司令部のサーバに侵入し、ただ「GO」とだけ送った。

 しばらく待つと、「オールクリア」のメッセージが帰ってきた。

「はぁ、しんどい。犬姉とビスコッティを呼ばなきゃ……」

 私があらゆるネットワークからログアウトして、なにもないフリをして私は笑みを浮かべた。

 しばらくして、ビスコッティと犬姉が家に入ってくると、私は二人が差し出した黒い封筒をシュレッダーで粉まで裁断した。

「はい、お疲れ様。依頼料は払う。プロはプロだからね」

 私は『寸志』と書いた封筒を二人に渡し、そっとあめ玉を乗せた。

「さて、美味い酒でも飲みたいな。ん、これ消毒用エタノールか。間に合わせにこれでいいや」

 犬姉がテーブルの上に乗っていたボトルの蓋を開け、美味そうに一息で飲み込んだ。

「ビスコッティのもあるよ!!」

 私は笑った。

「謹んでお断り申し上げます。夕食の時に、浴びるほど飲ませて頂きます」

 ビスコッティが笑い、ポカンとしているスコーンを連れて、枕投げをはじめた。

「さて、夕飯なにかな。いきなりポテトフライ山盛とか、ジャンキーだったら笑える!!」

 私は笑ったのだった。

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