第12話 日本語文法(12):テンス

 過去に起きたことを書くか、現在起きていることを書くか、これから起こることを書くか。文法では「テンス」と呼ばれます。日本語では「時制」と言います。





形容詞文・名詞文は現在を表している。

 平時の形容詞文(形容詞文・形容動詞文)と名詞文は、現在を表します。

 「今宵の望月も美しい。」は今(今宵)ですよね。

 「コンサートホールは静かだ。」も今の状態を表しています。

 「私は高橋です。」も今の状態ですよね。

 未来を表したければ同じ文型で対処します。

 例えば「今宵の望月も美しい。」なら「今宵」という時間の間は「美しい」と近未来まで言及していますよね。

 「コンサートホールは静かだ。」も当然静かな状態が近未来まで続きます。

 「私は高橋です。」も高橋さんが結婚したり改姓したりしないかぎりの未来まで続くのです。





動詞文は未来を表している

 これに対して動詞文はその動き始めをとらえたものが多いのです。

 「ご飯を食べる。」はまだ食べていないが、近未来でこれから食べようとしています。

 「砂山を壊す。」は砂山という存在がまずあり、それを近未来に壊すことになります。

 「油性マジックが消える。」はまだ油性マジックが存在しているような状態でなくなってしまうわけです。

 動詞文とは「これから動作や変化が起こりますよ/起こしますよ」という文なのです。

 現在にしたければ進行形の「食べている。」「壊している。」「消えている」と書けるわけです。

 「いる」「ある」などの存在を表す状態動詞は、過去からの継続で存在していることになります。





過去形「た」

 動詞文・形容詞文・名詞文はすべて文末に「た(だ)」を付けることで過去を表せます。

 「食べる」「食べます」は「食べた」「食べました」

 「消える」「消えます」は「消えた」「消えました」

 「美しい」「美しい(です)」は「美しかった」「美しかった(です)」

 「静かだ」「静かです」は「静かだった」「静かでした」

 「病気だ」「病気です」は「病気だった」「病気でした」

 となります。「だ」がないように見えますが、例えば「死んだ」「飛んだ」「編んだ」のように「た」が「だ」で表現されます。

 「いる」「ある」などの状態動詞は「た」である「いた」「あった」になると、存在が過去のものになります。





過去形でない「た」

 アメ横にいくと聞こえる「さあさ、買った、買った、安いよ、安いよ」の声。

 この「買った」は過去形でしょうか。

 まだ買う前の人に対して「買った」と言っているのです。

 過去形を用いることで「すでに買う」が実現している思わせることで購買を促そうとする効果を狙っています。

 「どいた、どいた。てえへんだ、てえへんだ」の「どいた」も同様です。先にこうして欲しいと思っていることを口にして、さも「どくのが当たり前」と思わせる効果があります。


 「あった、あった、こんなところに隠れていた」の「あった」は発見の「た」とされています。「買った、買った」との違いは、存在動詞の過去形であることで「(元から)今までそんな場所に存在していた」ということを表しています。


 「これから生徒会があったんだ」の「あった」はどうでしょう、想起の「た」とされています。これは生徒会は「これから」なので未来にありますが、「そういえば生徒会があったんだ」と書くと過去形になりますよね。つまり時制を変えるための言葉ひとつで単なる「過去形」にもなれるのです。


 「君は未成年だった」の「未成年だった」は過去未成年で、今は成年なのでしょうか。確認の「た」とされています。


 「お母さん、お腹が空いた」の「空いた」ですが、ここでは過去のことでなく「現在」を表していますよね。常体が未来を指しているで、過去形にして「現在」を指しているのです。





日本語学習で憶えたいポイント

(1)形容詞文・名詞文は現在を表し、動詞文は未来を表している

(2)形容詞文・名詞文は助詞「た」に付くと過去形を、動詞文は現在の完了形を表す

(3)とはいえ「た」を付けても必ずしも過去形や現在の完了形だけとはかぎらない




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