第6話 日本語文法(6):助詞「に」「へ」「を」

 格助詞には到達点を表す「に」と、方向を表す「へ」があります。

 ある条件が揃ったときのみ、格助詞「に」を格助詞「へ」に置き換えることが可能です。

 この条件をしっかり把握していないと、おかしな格助詞「へ」が増えてしまいますので、ご注意くださいませ。

 また動詞の目的語を指す格助詞「を」も重要です。基本的には動詞しか要求してこないので、考えやすいともいえますね。





格助詞「に」

 場所や時や到達点を表す格助詞「に」は動詞文、形容詞文では述語が要求する場合があります。

動詞文「犬が獲物に噛みつく」「父が結婚に反対する」

形容詞文「父がPCに詳しい」「私が政治に疎い」「母が金銭に乏しい」

形容詞文「兄がゲームに熱心だ」「彼が君にぴったりだ」「この部材は半導体生産に不可欠だ」

 のように用います。


 動詞文の格助詞「に」は行き着く先を表します。

 たとえば「東京から大阪に行く」という文の場合、スタート地点は東京で、終着地点が大阪になります。

 途中経過は関係なく、出発地と到着地だけが書かれているのです。

 もし「大阪の方向に行く」場合は「東京から大阪に向かう」と、方向を表す動詞「向かう」を使います。

 ですが、これ助詞を変えるだけで「行く」という動詞でも表現できるんです。


 考えなければならないのは、格助詞「へ」の存在です。





助詞「へ」

 動詞文の格助詞「へ」は赴く方向を表します。

 たとえば「東京から大阪へ行く」という文の場合、スタート地点は東京で、方向は大阪になります。つまり東京から大阪にたどり着くまでの通過点を意識させるのです。

 「東京から静岡、名古屋、京都を経て大阪に行く」

 これを「東京から大阪へ行く」で表現できるのです。

 たとえ最短距離になくても、方向さえ合っていれば含められます。


 格助詞「に」は到達点、格助詞「へ」は方向を表すため、似通っていますが、すべての格助詞「に」が格助詞「へ」に置き換えられるわけではありません。

動詞文○「犬が獲物へ噛みつく」、△「父が結婚へ反対する」

形容詞文×「父がPCへ詳しい」、×「私が政治へ疎い」、×「母が金銭へ乏しい」

形容詞文×「兄がゲームへ熱心だ」、×「彼は君へぴったりだ」、×「この部材は半導体生産へ不可欠だ」

 とこのように、動きで方向を指す場合のみ格助詞「へ」に置き換えが可能です。





格助詞「に」を格助詞「へ」に置き換えられるのは

 基本的に到着地が定まっていて、寄り道せずにたどり着くのなら格助詞「に」を使います。

 ただし格助詞「に」は範囲が広い助詞のひとつで、「子どもを幼稚園に預けて電車で会社に行く」という文の場合、「幼稚園に」「会社に」と一文で助詞「に」がふたつ出てきます。

 これはそれほど構文が難しいわけではありません。

 「幼稚園に」は直後の「預けて」に係り受けし、「会社に」は直後の「行く」に係り受けするためです。

 「幼稚園に」が「行く」に係り受けしていないことを確認してください。

 ですが、一文に格助詞「に」が複数あると、うまく係り受けの距離を狭めてもわかりづらくなります。


 そこで片方を格助詞「へ」に置き換えられないかを検討します。

 もちろん対象は動詞文に付く格助詞「に」です。


 まず「子どもを幼稚園に預けて」は「幼稚園に」だと「その場まて赴いて子どもを預ける」という意味合いになります。もし「幼稚園へ」だと通過地点を意味して、実際はどこを目指していたのかはわかりませんが「幼稚園に立ち寄った」ことはわかります。

 では「会社に行く」はどうでしょうか。

 「会社に」だと「会社まで赴いて行った」という意味合いになります。もし「会社へ」だと方向を意味して、実際に会社までたどり着いているのかはわかりません。


 そこで意味合いを精査すると「子どもを幼稚園へ預けて電車で会社に行く」と書くのが最も書き手の意図どおりであり、読み手もすんなり納得する一文になります。





助詞「へ」の注意点

 助詞「へ」には「方向」の意味があります。

 端的に言えば、「大阪へ行った」は「大阪の方へ行った」「大阪へ向かった」とは書けません。「〜の方」も「〜向かう」も「方向」を指す言葉ですので、厳密にいえば「重ね表現」です。

 もちろんすべての「重ね表現」が悪ではありません。

 ただ文章のレベルが下がることだけは確かです。それでもわかりやすさを得たいのであれば、「重ね表現」だとわかったうえで意図的に使ってください。

 慌てていたりミスリードを誘ったりする場合、あえて「重ね表現」になってもそこに意図が籠もります。つまり焦燥や伏線に使えるということです。

 もちろん意図せずに伏線となってしまいますので、回収忘れで凡ミスをすることがあります。

 ですので、しっかり計算ができる方なら、「大阪の方へ行った」「大阪へ向かった」と書いてもかまいません。

 意図しない平文の場合は避けましょう。





助詞「を」

 動詞文では助詞「を」をとる述語が存在します。

動詞文「犬がご飯を食べる。」「上司が酒を飲む。」「彼が横を見る。」「侍が賊を斬る。」

動詞文「家庭教師が私に参考書を紹介する。」「兄がお年寄りに道を教える。」「妹が猫にご飯を与える。」「父が保育園に子どもを預ける。」

 とこのように「〜を」動詞文と「〜に〜を」動詞文があります。

 私たち日本人は、長年の蓄積でどの動詞が格助詞「を」を要求するのかを理解しています。

 日本語学習者の外国人はそういう積み重ねがないので、動詞を習うたびに「この動詞はどの助詞を必要とするのか」を憶えなければならないのです。

 ここが日本語の難しいところですが、逆にいえばそれさえわかっていたら日本語をかなり操れることを意味します。





日本語学習で憶えたいポイント

(1)動詞文、形容詞文では格助詞「に」を求める述語がある

(2)格助詞「に」は場所や時や到着点、格助詞「へ」は方向を表す

(3)動詞文の場合、到達点を意味する格助詞「に」は、方向を意味する格助詞「へ」へ置き換えられる場合がある

(4)すべての格助詞「に」が格助詞「へ」にできるわけではない

(5)動詞文では目的語を意味する格助詞「を」を求めるものがある




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