第3話 日本語文法(3):日本語文法と学校文法の違い
日本人が日本語を獲得する手段は、もちろん両親や大人の話し言葉からが主です。そして学校で「主語・述語」を習い「てにをは」を習い、近代の名作から文法の歴史を学びます。
このように学校で習う文法ということでとくに「学校文法」と呼ぶそうです。
これに対し、別の国の言葉を話す人が、後天的に日本語を修得するために習う文法が「日本語文法」と呼ばれています。
過去からの継続を重視する学校文法と、システマチックで修得しやすい日本語文法にはいくつかの相違があります。
形容詞と形容動詞の区別が異なる
学校文法では「白い」「美しい」は「形容詞」と呼びます。また「静かな」「頑なな」は「形容動詞」と呼びます。
これは活用の仕方が異なることから発生した分類です。
ですが「大きい」「小さい」「温かい」「暖かい」は「大きな」「小さな」「温かな」「暖かな」とも書くため、実はかなり曖昧な境界でもあるのです。
日本語文法では「白い」「美しい」は「イ形容詞」、「静かな」「頑なな」は「ナ形容詞」と呼びます。
これにより日本語文法では、日本語の文章は三種類あるとされます。
(1)動詞文──「色が変わる。」 動詞「変わる」が最終的に受けます。
(2)形容詞文──「雪が白い。」 イ形容詞「白い」が最終的に受けます。
「結果は確かだ。」 ナ形容詞「確かな」が最終的に受けます。
(3)名詞文──「数は力だ。」 名詞「力」が最終的に受けます。※
実は※の「数は力だ。」は形容動詞(ナ形容詞)の活用とほぼ同じ助動詞「だ」を使っているため、「学校文法」によれば正確には「名詞文」ではありません。
なぜこれを「名詞文」と呼ぶのか。たとえば「I am Japanese.」つまり「私は日本人です。」に対応する文型が欲しかったからです。
本当の名詞文は「ほとばしる力。」「白い雲。」「静かな湖畔。」「兄の嫁。」のように、文末は助動詞「だ」や助詞などを用いません。
気をつけたいのは、助動詞「だ」を省いても名詞文にならない場合があります。
それが「私は彼の妻。」のような場合です。
おかしなところはない。と思いますが、大違いです。
実は「私は」という文節は用言に付く助詞「は」を使っているのです。であれば、明記されなくても「私は彼の妻です。」のように助動詞「だ」もしくは変形である助動詞「です」のような用言を要求しているのです。
では「ほとばしる力。」「白い雲。」「静かな湖畔。」「兄の嫁。」との違いですが、「ほとばしる」「白い」「静かな」はいずれも連体形であり、体言を要求します。「兄の」の助詞「の」も体言に付きます。
ですので「助詞や活用が体言だけを要求している」場合のみ、名詞文は成立するのです。
つまり『枕草子』の「春はあけぼの。」も厳密にいえば名詞文ではありません。
この特殊さを生かしたのが「体言止め」です。
体言止めとは「体言や、体言化した用言を文末に置いて文を閉じる」表現方法です。
体言止め
体言止めは、淡々と説明するのに向いています。
連体形の動詞や形容詞、形容動詞をとりますが、体言で止まるのです。
指している事物をクローズアップする効果があるので、うまく使うと印象に残すことができます。
体言止めをうまく使うには、最終的に受ける名詞だけを書いて、文の提示順が誤っていないかを確認するとよいでしょう。
「咲き誇る花。歌う鳥。鳴り響くサイレン。散り散りの鳥たち。」という文章があれば、すべて体言で止まっています。
その中で最終的に受ける体言「花。鳥。サイレン。鳥」で読み手の意識を誘導しているのです。こう見ると「鳥」が二回出てくるので、やや不格好ですよね。
「体言止め」とは「I am」や「You are」などではなく、「Silent night, Holy night」のように「静かな夜、聖なる夜」のような構文です。
文末をなにで受けるかの流れを確認する
長い文章を書いていると、どうしても文章が怪しくなります。
そんなときは文末を抜き出して並べると、文章を把握しやすくなるのです。
『平家物語』の出だしを見てみましょう。
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祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
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これは「鐘の声、響きあり。花の色、あらはす。久しからず、夢のごとし。」と見ることもできます。「体言止め、動詞文。体言止め、動詞文。イ形容詞文、体言止め。」と続いています。(「ごとし」は「ごとく」の名詞形です)。
文末の係り受けをしっかりと認識することで、正しい日本語の構文に近づきます。
日本語学習で憶えたいポイント
(1)日本人が学校で習熟する「学校文法」、外国人が修得する「日本語文法」
(2)学校文法「形容詞」「形容動詞」は、日本語文法で「イ形容詞」「ナ形容詞」
(3)日本語文法では「動詞文」「形容詞文」「名詞文」を三つを基本形とする
(4)「だ・です」をとる「名詞文」と、連体形や「の」でのみつながる「体言止め」は異なる
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