第6話

 フロランとレインニールが揃って現れて、聖女王ミラは手を叩いて喜んだ。

「フロラン、偉いわ。レインニールのドレス姿なんて滅多にないのよ」

「この日のために、準備いたしましたから。ほら、皆、喜んでいるでしょ?」

 片目を瞑り意味ありげな視線を送るフロランにレインニールは何の反論も出来なかった。


 リボンとともに銀髪はまとめられ花の飾りで留められている。紫色と淡い青色のグラデーションのドレスはレインニールの白い肌を際立たせている。


 聖域に着いたと同時にフロランの館へ連れていかれ、身体を磨かれ、香油を塗りたくられ、髪の毛をあちこちと引っ張られた。

 ふらふらする意識を何とか繋ぎ止めつつ、ドレスを着せられ就任式に参加した。

 精神的にぐったりしているのは勿論、ここ数日寝ていないことも原因だ。

 正直、式の内容は覚えていない。


 式終了後にお茶会が開かれた。

 夜には晩餐会が行われる。それまでの時間を埋めるために聖女王ミラ主催として行われた。


 規模も縮小しているので、どこかのんびりと落ち着いた様子がある。

「私たちも制服姿しかお見掛けしませんでしたので、感動しています」

「制服姿も勿論、素敵でした」

 聖女王となったポレットとその補佐に就くことになったエメリーヌはお互いに顔を合わせると頷き合った。

 ともに試験を受け二人は友情で結ばれている。

 その絆を感じて周りの者も本当に良かったと胸を撫でおろした。


「さぁ、ケーキを焼きましたのでお召し上がりくださいな」

 アデライドがメイドたちを従えて、デザートと軽食を持って現れた。

 どうやら彼女のお手製もあるらしい。


 果物や花で飾られた皿がテーブルに次々と並べられる。

 一気に華やいだテーブルに皆が思い思いについた。


 レインニールも引き寄せられるようにテーブルに向かうと、フロランに腕を強くつかまれた。

「こっちに来て。私が作ったショートケーキ、食べてくれる?取り寄せたイチゴが最高なの!」

 誘われるままテーブルに向かえば、そこには真っ赤になるほどイチゴに埋め尽くされたケーキが置かれていた。他には野菜とともにベーコンやチキンを挟んだクラブハウスサンドイッチ、ポテトや魚を揚げたもの、サラダ、具だくさんのスープが所狭しと並んでいる。


 どうやらこのテーブルはアデライドとは別にフロラン自身が考えて、揃えたもののようだ。

「良い?まずはこのスープから飲んで。それからサラダが先よ?偏った食生活ばかりしていると身体に悪いわ」

 どうやら栄養を考えたメニューであるらしい。

「こっちのスムージーも飲んでね。肉も野菜も食べるのよ」


「いったいお前は何なんだよ」

 近くで聞いていたコルネイルが堪りかねて呟いた。

 レインニールも密かに思っていたので驚きはしなかった。

「何がいけないの?レインニールが倒れてしまったらみんな困るでしょ?」

 そんなことも分からないの?

 腰に手をあてて、フロランがコルネイルに詰め寄る。


「巻き込まれるこっちも堪らないんだよ。試作品だとか言って執務室にスムージー持ち込んで味見を強要するわ、食材をあちこちに発注かけて倉庫を溢れ返させるわ、厨房を混乱させるわ」

「最初は珍しいものが食べられるって喜んでいたじゃない」

「何日も続くと飽きるだろうが」


 にらみ合う二人にレインニールが手を挙げて止める。

「コルネイル様、ご迷惑をおかけしたようで申し訳ございません」

 フロランには顔を覗き込み、優しく語り掛ける。

「フロラン様。心を砕いてくださって感謝しております。次回からわたくしの支部で引き取りますのでご相談ください。厨房も解放いたしますから心置きなくいらっしゃってください」


 コルネイルは腕を組んでそっぽを向いたが、一応納得の様子を見せた。

 一方、フロランはやや瞳を潤ませてレインニールの手を取る。

「レインニールはいつも無理をするから心配なの。私にはこのくらいしかできないの。なんでも言ってね?」

「ご心配をおかけして申し訳ございません。こちらのものは全て頂きますから安心してください」


 その言葉にぎょっとしてコルネイルが振り返る。

 どう見てもテーブルの上にある量は一人分ではない。勿論、フロランも一緒に食べるだろう。だが、普段の食事の量を知っているので限度が分かる。

 一緒に食事をしたこともあるがそれでもレインニールの腹具合が気になって、思わず上から下まで見てしまった。


「コルネイル様もご一緒に如何ですか?」

 レインニールの提案にぎこちなく了承する。

 味見も付き合わされたので飽きているのが本音だが、一人にするには非常に忍びなくなった。

 フロランから心なしか責める視線を浴びたのだが、レインニールの申し出を断ることはできなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る