第4話

 フロランが慌てて来たのはレインニールを就任式へ引っ張り出すためだった。

 試験が終わって、後処理などこなしている間にレインニールの姿は聖域から消えていた。

 神官や研究員たちが青ざめながら探していたのをフロランが迎えに行ってくると言って安心させたのだ。


「さ、ドレスは私が用意したからそれを着てもらうわよ?いつものように研究員は制服が正装だってのは今回はなしね」

「一研究員がドレスを着るのは如何なものかと言われるに決まっています」

「言わせない!私が着せるんだから誰にも邪魔はさせないわ」

 自信たっぷりにフロランは笑う。

 それを見てレインニールの顔が凍り付く。

 聖域の混乱を収めて迎えに来たフロランに対して、異議は唱えられない。

 フロランに腕を絡めとられ連行されるかのようにレインニールが引きずられていく。


 リウはご愁傷様です。と頭を下げ、レインニールからの指示に応えるべく、机に向かう。

 その傍にはまだクレマンが立っていた。

「席に戻るように」

 声をかけられ、ようやく彼は現実に帰ってきたようだった。

「すみません、レインニール様とフロラン様が並ぶと、なんか、良いですよねぇ」


 感慨深げにつぶやく様子にリウは頭が痛くなってきた。

 ここは支部の中でも重要な場所であり、歴史は浅いもののそれなりに格式高いとされている。ここに来る研究員たちも優秀で、前評判の良い者たちである。

 それがどうしてこんなのが紛れ込んだのか、それとも押し付けられたのか、クレマンがここに異動してきた経緯を確認する必要がありそうだとリウは密かに決意する。


「リウ補佐、申し訳ありません」

 ヒューゴが堪りかねて頭を下げる。

「いや、私は構わないのだが」

 何より怖いのが、これをレインニールが知った時である。


「美女二人を褒めて何が悪いんですか?特にフロラン様、ふわふわして女性らしくていいじゃないですか」

 クレマンが不服をむき出しにする。

「あの二人を間近で見て何も感じないんですか?良いなぁ、俺もお世話されたい」

 心を奪われたように気が抜けた顔をリウは直視できなかった。


 その時、研究員の一人が派手に息を飲み込む。

 全員が扉を見ると、レインニールとフロランが立っている。

 分かりやすいほどに、レインニールの表情が硬い。


「リウ、言い忘れたのだが」

 やや声が震えているように感じた。

「明日、休みを貰いたい。構わないだろうか?」

「大丈夫です。ゆっくり休んでください」

 どうやらそれを言い忘れていたらしく、戻って来たようだ。


「それから、マナーのなっていないものはカリキュラムの申請を…」

「分かっています。再履修は自費となりますが、経費で処理も可能です」

「給料から天引き、それ以外は認めない」

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