第26話 旅へ ⑬

 オリーは再び叫んだ。

 暴走とは何だろう。そう思う夜が今までに何回もあった。感情と連鎖して動く、不思議な力。

 ボストンで茶箱を海に投げたとき、感情がこれでもかと高ぶった。暴走も呼応しているような感覚を抱いた。いい気分だった。

 そのときオリーは感じた。暴走は、自分の感情に素直になれる素敵なものだ、と。

 だが、戦争が始まってからだ。同時に怖くなったのは。

 自由のために戦争をする。人を殺すことはしたくないが、自由のためには仕方がない。いつかそういう理性が暴走によって消え、人を殺すことに喜びを感じるような日が来てしまうのではないか。自分は、暴走に支配されてしまうのではないか。

 バンカーヒルの戦いで人を初めて殺した。そのはずなのに、体中に懐かしい感触が残っていた。微かな、高揚感も。

 オリーには両親がいない。

 居酒屋のマスターがオリーを育てたのだ。マスターはオリーを拾った、と言っていた。

 もしかしたら、暴走の根源とは、殺しの快楽を求めることではないのか。

 それは嫌だ。だが、暴走は止められない。高ぶる感情に目を背けることもできない。

 暴走だけでなく、自分というもの自体が、殺しを求めているのではないか。

 違う、と言いたかった。だが、言えなかった。そんなような悶々とした気持ちがずっとオリーにはあった。

 火を囲みながら皆が騒ぐ中、オリーはしきりに叫んだ。

 違う、と言われたような気がしたのだ。実際誰もそんなことは言っていないが、感じた。この部隊に、ここにいる皆に。

 キャチューの思いだろうか。ファンの熱弁だろうか。ジェイ&アールの改心だろうか。

 叫びは嬉しさだ。叫びは、希望だ。

 この仲間たちと共に戦いたい。それが、暴走という現象に答えを与えてくれるような気がしたのだ。

 

 盛り上がる宴会の音を聞きつけて、後方からダイクが怒ってやってきた。怒鳴る。

「うるせぇ!」

 しかし皆は笑い転げた。ダイクの容貌からどうしてこんなに高い声が出てくるのか。

 いつの間にか、ダイクも笑っていた。

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