第17話 旅へ ④

 オリーの力は有り余っていた。枝を切るだけで彼が疲れるはずもない。本来後方の重量級部隊に任せるような倒木を持ち上げたりして、頑張って疲労するように努めた。疲れなければ仕事をした気にならないし、とにかく疲れることで、暴走が出てくる暇を与えない狙いもあった。今出てこられたら、味方を敵と勘違いして殴り殺すことも十分にあり得る。

 オリーは実直な男である。与えられた仕事は責任持って最後まで行う。どれだけ戦いたくなっても、この任務を途中で逃げ出す選択肢はない。

 ロチカの力は有り余っていなかった。無論、彼の身体能力は人間のそれを超えているので、多少熱があろうと、この程度の仕事で動けなくなることはない。彼の場合、心の疲弊が力を奪っていた。

 体験したこともない感情がロチカの心で暴れていた。葛藤の言語化は相変わらず難しかったが、それが彼にとって苦痛であることは確実だった。

 弱者。ふと脳内にこの言葉が浮かぶことがある。そのときが一番辛い。熱が一気に上がり、炎が出ることもある。

 逆に、戦いに出て活躍する自分を想像できたときには、体の重さが和らぐこともロチカは知っていた。

 しかし、戦争の影は何処にもない。

 夜になって横になっても熱が上がった。自然に出るうめき声に心配し、オリーやキャチュー、カスイなどの心優しき軽量部隊の兵士は彼をよく看病してくれた。

 だが、看病されればされるほど、弱者、の言葉が重く彼にのしかかるのだった。ベットの上にいた方がまだよかった、痛切にそう思うこともあった。

 バンカーヒルの戦いによって、魔法使いの噂はあらゆる人に広まっていた。周りの人々が期待しないわけがなかった。朦朧とする意識の中で、今日もテントの外から喋り声が聞こえる。

「あいつは本当に魔法使いなのか? 料理当番も見張り当番もやらないでいつも夜は寝てばっかりだ」

「病気だ。看病してるからわかるが、凄い熱だ」

「なおさら疑い深い。病気くらいその魔法とやらで何とかなるだろう」

「何が言いたい?」

「自分が病気だと嘘をついているか、自分が魔法使いだと嘘をついているかだ」

「そんなことしてどうする」

「名声を頼りに優雅に暮らすんだよ。まさに今みたいに。弱者がよくやる手法なんだ。強い奴の肩書きをさも自分のもののように使って他の人々から親切心を奪う最低な行為だ」

「落ち着けよ。魔法使いかどうかはともかく、病気は確かだ。何なら見てこればいい。あの熱で動けるのが凄いくらいだ」

「人間以下の動きしかしていない」

「まぁ、そりゃ俺も期待はしてたがな……」

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