第49話 “元”『女司祭』の身に迫りくる長い手(災禍)

ラプラス達に於いての『勇者』と言う存在は、我々も認知している通り、『正義の使徒』『神に祝福されし者』―――と、そう大差はありませんが、また一つには『魔を滅する者』として知られていました。

そう……『魔を滅する』―――それも、『魔』という意味を正しく理解しているなら良かったのですが、『魔』=『悪』……「魔なる者は須らく悪」と言う誤った認識を刷り込まれ、「教会」と言うラプラスの世界の「神」や「聖」に属する組織・機関の伝えるがまま、『魔界と言う場所に住まう住人は総て悪』という名の下に、度々魔界侵攻を繰り返していました。


そう、「神」―――ラプラスの世界の教会で崇められているのは、紛れなくも「神」。  それも、“邪”「神」と言う名の―――


ただ、その事実を知るのは少数で良い……限られた数だけで、良い。

それが教会の中枢で絶大な権力を握っている、『大司教』『聖女』『賢者』でした。

中でも『賢者』は『勇者』との繋がりも深く、また自身が崇める“邪”「神」との繋がりも深かったため、この3人の中では発言力も強かったのです。


そんな中、一部の教会で異変が起こりました。 それがグリザイヤにある教会に務める『女司祭』(クローディア)の件。

未明の“闇”の存在に襲われ、彼女一人を残して全滅してしまった……自分達の本拠をむべもなく襲われてしまった―――生き残ったのはクローディアのみ。

『賢者』は深く考える事もなく彼女一人に罪を負わせ、筆舌しがたい苦痛「拷問」にかけ、牢獄に繋いだ……そこを、グリザイヤの教会を襲った張本人『“闇”の化身』―――エニグマ(クシナダ)の勧誘により、『女司祭』改め「クローディア」は魔界側に寝返ったものでした。


その彼女は今―――……


        * * * * * * * * * * *

「はい、これで大丈夫ですよ。」

「ありがとうございます、クローディア様。 しかし、クローディア様が元ラプラスだなんて……信じられませんや。」


「それは、残念ですが事実です。 けれども私はラプラスではいられなくなった……何もしていないのに冤罪えんざいにかけられ、人としての尊厳も奪われてしまったのです。 そんなところにどうしてか忠義を尽くせましょう。 けれどエニグマ様は違いました。 あの方は……あの方だけは私を必要としてくれた。 必要とはしてくれていないラプラスにはもう未練など有りません。

それに、魔界がこうも聞かされていたものと違わされていては、あの世界の「神」の託宣言っている事も疑わしい限りです。」


クローディアは今、魔界に残り魔界に住む人達の為にしてあげられる事をしていました。

「傷の治癒」や「病の治療」、「呪われた物質の解除」から「薬剤の処方」まで。 けれどそれは、ラプラスの世界で彼女がしていた事と何一つ変わらなかった。

ただ、変わったと言えば、施しを行う対象が「ラプラスの住人」か「魔族」だけの違い。

けれどクローディアは、魔界に住むようになってからは、かつて自らが仕えていた“邪”「神」が吹聴していた「『魔』=『悪』」はどこか違うと思う様になりました。



この世界に住む人達でも与えるものを与えれば感謝はするし、お礼もする。 それはあの世界であった事と何一つ変わらない。

ただ私は崇める対象が間違っていました。 今ならばはっきりと判ります。 「ラプラスの世界」と「魔界」の両方を見てきた私には、正確に比較して判断する事が出来るのです。



しかしそのクローディアの考え方そのものは、「ラプラス」の教会にしてみれば「異端」そのもの。

そして間もなく、クローディアを罰する者達が、目の前に立つ……


         * * * * * * * * * *

「あ、あ―――あなた達は、『異端審問官』に『執行人』……それに『聖女』!!」

「『女司祭』……いえ、今はクローディアと、そう呼ぶべきでしょうか。 あなたが私達と袂を分かって随分な月日が経ちましたが、随分とまたこの穢れた世界の空気に馴染んでしまったものですね。」


「異端審問」とは、ある宗教の教義にそぐわない者を弾圧し、しんばその教義に取り込もうとするもの、また度が過ぎるようならば徹底的な排除も視野に入れた役目。

「異端審問官」とは、その役目に従事する者で、『執行人』は教義に従わない者に対し、処罰の執行を実行するいわば“処刑人”。

そして『聖女』とは、『大司教』『賢者』と並ぶラプラスの教会の三本柱にして、「異端審問官」達の長……


クローディアも、元は『女司祭』だった者も、所属していた機関が同じだったからか、その恐ろしさは知っている。

知っているから―――無理だとは分かっていても彼女達の目の前から逃走を図りました。


けれども……所詮は無・駄―――?


        * * * * * * * * * * *

「すみません、そこを通してください―――!」

「あらあら、どうなされたのです?」


「あの……今、追われていまして―――」


その“邂逅”運命だったのか―――それとも、その“邂逅”運命だったのか。

クローディアが逃走する先にいたのは、彼女達と同じ服飾をした「聖職者」??

しかも自分(クローディア)と似たような顔立ち……とは言え、中身は全然違うのですが。


「それは難儀なことですね。」


「おい―――そこの女! 我々と同じ聖職者としての服飾をしている様だが、なるほどな……この穢れた世界にも私達の真似事をしている輩もいるようだ。」

「よいか、その者は大罪人だ、大人しく引き渡せば今はこのまま退いてやろう。 だから言う通りにした方が身のためだぞ。」


それにしても、一体どうして“彼女”がこんな処にいるのか。 不思議な事もあるようですが……この三者三様は似ているようでいて、全くの“別物”。

「(元は)ラプラスの『女司祭』だったクローディア」、「その彼女を「異端審問」にかけに来た『異端審問官』と『聖女』」、そして……「女の『聖職者』者」。

ただし―――このに関しては、上から目線の態度に、物言いをしてはならない。

「物言いをしてはならない」―――から、その者の怒りを買い、『聖女』共々殲滅させられてしまった……。



この方は……一体何者? この私をお救い下さったからには、少なくとも敵ではない―――そう感じるのですが……



そう―――ただ、しかし、それは少し間違い。 一見するとクローディアを救ったかの様にも見えるその女の聖職者も、その元をただして見れば自分の身に災いが降りかかってきそうだから振り払ったまで。

ただ、この彼女は自分と同じ聖職者に就いている様には見えるものの、彼女自身で災いを払えるほどの実力を要する者……


「あ、あの―――」

「どうしたのです。」


「この度はどうもありがとうございました。 それにしてもお強いのですね、あの『聖女』を相手に一歩も退くことなく撃退してしまうのですから。」

「わたくしは、別に仲間内でもそう強い方ではありませんよ? ただ、わたくしの夫に迷惑がかからないようしているだけ。 あなたも大切な者を護りたいというのであれば自分を鍛える事です。 それにわたくし達の様な後衛職は真っ先に狙われるのが常。 そこを、一発ぶちかましてやるなどして度胆を抜いてご覧なさいな。 思いも寄らない行動を取られた時、魔物であろうが人間であろうが、数秒間思考は停止してしまうものなのです。 そ・こ・を、えぐる様に正確に肝臓の位置を殴る!しくは眉間と鼻っ柱の間―――烏兎うとを打ち抜ぬく! まあこれで大概は戦意を挫かれますから後はお好きなように料理して差し上げるがいいですわぁ♪」


為になるような―――ならないような……そんな実践的な講義をクローディアは受けたのでしたが、この当時はそんな心得のない彼女ではありましたが、この数年後―――後衛の回復役であるクローディア自身が前衛に出て来る……その意味を実感するようになるとは―――


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


後衛である回復役の私が前衛に立つ―――と言う事は、この私こそが前衛……あの時偶然出会った彼女の助言が無ければ、私を狙い撃ちする者に常に怯えていなければなりませんでしたが……

「だけど今は違う―――『移動要塞』と讃えられし私がいる限りは、後退はないものと思いなさい!!」


これは、現在より年月の経った頃合いのクローディア、過去の様に魔界に取り残されていた彼女ではなく、未来に於いては不動であり不退転として知られる、『移動要塞』として知られた彼女の有り様なのです。


      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


それにしても―――「なぜ?」“彼女”が魔界こんなところにいるかなのですが。



そぉーれにしても、“時”がくるまで「待機なにもしてはいけない」と言うのは、性に合いませんわあ? けれど、いとおしい夫からそう言われたら「言う事を聞く」のが妻としての役目……。

その暇をつぶす為に『段蔵』の調査任務に随行して魔界にまかり越しましたが……。

「そぉーれにしても、ラプラスって結構野蛮ですのね。 この平和主義者であるわたくしが「非戦」の意志を表明しているのに、眼を血走らせて飛びかかって来るんですものぉ。

まあ、「待機なにもしてはいけない」しているとはいえ、売られた喧嘩は買うのがわたくしとわたくしが所属する一党の主義主張。

それにこれは、向うの方から拳を振り上げてきたのですから、「正当防衛成立」ですよねえ~♡」


「おー待たせぇ~っと、うわ、なんかやけに血生臭くありません?」

「ああ、聞いて頂戴な『段蔵』、こぉんなたおやかな、まるで野に咲く花の様なこのわたくしを、どうにかしてやろうって連中に絡まれてしまってですね。」


「あ゛ーーーそぉーれで「見敵必殺サーチ・アンド・デストロイ」やっちゃったんですか……言っちゃあなんですけど、相手も相手ですが、よく考えてやらないと……。」

「ダメ、なのですぅ?」


「いあ……ダメ~~~ってワケじゃあ……。 まあ兄ちゃんはどうにかなりますけどさあ。」

「あの女DEATHか……」(イラぁ~)



まぁったくどうして『静御前』と『破界王ジャグワー・ノート』って、こうも相性悪いんですかねえ? 年がら年中しょっちゅう顔を合わせちゃ火花“バチバチ”とばしますしぃ……今後の事もあるんだから「待機大人しくしてろ」って言われているのに、話題性作っちゃうんだもんなあ~~~。

はあーーーーーーーーー“この報告”どうしよ?



主に「情報収集」「諜報」担当するのは忍の役目。 その役目にて、今回魔界に目立ったことはないかを調査をするのが『加藤段蔵』の役目でした。

そんな彼女に乗じ、退屈を紛らわせる形で随行したのが『破界王ジャグワー・ノート』だった。

そこで、なら結果オーライなのでしたが、では終わらなかった……。

しかも、起こった事を正直に報告すべきかも『加藤段蔵』の頭の痛い事でした。


そう、彼女達が所属している一党には、劇的と言ったまでに「馬が合わない」「水と油」な存在2人がいる。 それが『静御前』と『破界王ジャグワー・ノート』なのですが……果たして?


       * * * * * * * * * * *

「『破界王ジャグワー・ノート』、話しがあります。 そこに座りなさい。」

「あの、わたくしも忙しい身ですので拒否権を発動してもよいです?」


「ダメです、なりません。 いいからそこに座りなさい……言って聞かせる事があります。」

「イ・ヤ・デ・ス。」


「…………いいから、そこに座れと言っている。 三度目ですよ。」(イッッッラァ~~~)

「………フン。」


「あなたねえ~~団長様から言われた事を早速破って来るなんて、どうかしてるんじゃないの?」

「はあ?わたしくが??一体何をしたと……」


「今日『段蔵』ちゃんと一緒に魔界へ行って、ひと騒動起こしたんでしょうがああ!」

「…………ねえ、『段蔵』?」

「言わんでおこうと思っといたんですが、あちらさん……ラプラスっての?その対応が意外に早くってーーーすんません。」


「『段蔵』ちゃんは悪くないの、団長様からあれだけ「待機なにもするな」と言われていたのに、なぜあなたと言う人は!!」

「まあ、落ち着きなさいな『静御前』。 わたくしが為したと言うのもこれからの長期展望を見据えての事。」


「ほおお~~~是非とも聞かせて頂きたいですわね、その『長期展望』とやらを。」

「…………あっ、そぉーいへば、今日のお食事当番わたくしでしたわぁ~~」(逃走)


「待てやあぁぁぁ! 『破界王ジャグワー・ノート』ぉおおお゜!!」



こうして……静かな夜更けは………訪れるのである。(どこがやねん)



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