第48話 援軍の到来

ヒヒイロカネが一難を逃れていた頃、ヴァーミリオン達と行動を共にしていたヘレナ(ベサリウス)が、本来の主であるカルブンクリスの下に戻ってきました。

そう、カルブンクリスの旧き友人達の身に起きようとしている非常事態を伝える為に。


「ベサリウス、どうしたのだ。」

主上リアル・マスター非常事態です……ヴァーミリオン率いるご友人達の行方が、不明との事―――恐らく遭難したものと……。」

「ええっ?ヴァーミリオン様達が??」


「(……)ベサリウス、言葉は飾らなくていい―――死んだのだな、全員。」


自分の主からの質問を受けた……けれども、配下の者は答えを返しませんでした、いえ返せませんでした。

それにしても信じられなかった、自分達の世界で英雄として語り継がれている方達が、こうも簡単に死んでしまうものなのか。


信じられない―――信じたくもない―――    だから、こそ。


「こんな時に冗談はやめて! あの人達がそんなに簡単に死んだなんて信じられないよ!」

「そいつは、“オレ”だって同じなんですよ! 何であの人達が……ルベリウスの旦那を倒した程の実力者が、この“オレ”が主上リアル・マスターや我がマイ・マスターや『黒キ魔女』に伝えに行くまでに死んじまうなんて!!」


「もういい、止めなさい二人とも。」

「魔王様?だって哀しくならないんですか?? あの方たちはあなた様の……」


『ご友人―――』そう言いかけようとしたところ、シェラザードの口からはその言葉は出ませんでした。

出るはずも、ない。 なにしろ直視してしまったのだから……憤怒に震える魔族の王の表情を。

ここにいる中で、いや魔族全体でもその死をいたみ、胸を締め付けるような思いをしているのは、他ならぬ彼の4人達と長い時間交流してきた彼女でしかないのだろうから。

だとて私情ははさめない、今の彼女は『魔王』なのだから……。


だが―――?


「フゥ……これは私の独り言だ。

私は、ずるいヤツだ。 それは今回の事でよく判ったよ。 私はね、知っていたんだ、彼女達の運命を。 だけどね、彼女達の運命―――死のその先に、シェラザード……君の死を臭わされてしまったんだ。

旧き絆―――ヴァーミリオン達を取るか、未来ある可能性―――シェラザードを取るか……私は相当迷った。 けれども結論こたえはすぐにでも出さないといけない、私の選択は―――シェラザード、君だ。

こんな事を今更言った処で、彼女達は赦してはくれないだろうね……。 だって私は、彼女達に迫る死の危険性を知りながら、『見棄てて』しまったんだから!!」


衝撃的な独白をもって、衝撃の事実を知らされるシェラザードとヘレナ(ベサリウス)。

しかし判らない事も当然噴出してきました。 そう、ならばカルブンクリスは一体どのようにしてその事実を知ってしまったのか……


「あの―――ひとつ聞いていいです……?」

「なにかな。」


「なら魔王様は、どうしてその事を知ったんです?」

「『口にしてはいけない』そう言われた……だからその事に関しては、私は答える訳にはいかない。」


「なぜ?どうしてなんですか??」

「これはラプラスにも言えた事なのだが、この者達も認識をされるまでは「不明瞭」「不明確」な存在達だったんだ。 それが今は「ラプラス」とづけ、認識する事によって「不明瞭」「不明確」までにはなっていない。

ところが……だ、私に盟友達の死の未来を教えてくれた者は、ラプラス以上に「不明瞭」であり「不明確」な存在達だったのだ。」


「そんっ……な?それじゃあ私達は、ラプラスとヤツら以上に手強くて危険なヤツらを同時に相手にしなくちゃならないんですか?」

「(……)いや、あながち敵とも限らない。」

「どう言う事なんです?主上リアル・マスター。」


「シェラザード……君が今身に着けている「装飾具それ」だ。」

「え??『エヴァグリムの誇り』??? これが―――……」


「ああ、私にその事を知らせてくれた御仁が、何故か君の『エヴァグリムの誇り』を身に着けていた。 だから暫定的に言えば、彼の御仁とその仲間達は、私達の敵ではない……そう感じたのだ。」


不可解―――と言えば不可解……でした。 それは、魔王が自身の友人達の死の未来をあらかじめ知っていた事。 それもそうなのですが、知ったきっかけというのがラプラス達よりも厄介な相手にもなり得る者達からの“漏洩リーク”。

そして……滅多な事では委譲ゆずられない「装飾具」を、その厄介な相手にもなり得る者も、所有していた??


そこでシェラザードは、改めての委譲の経歴を思い起こしていました。

一つ目は、自分の“悪友よきとも”「クシナダ」に。 一つはこのほど自分の親衛隊の長に収まった「ガラドリエル」に。



けど……あれ?だったら「もうひとつ」誰かに委譲ゆずってないと数が合わないよね??



しかし―――残念ながら、記憶は彼女に残されてはいない……


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なああーーーおい、これで良かったのかあ?」

「ええ、好かったのよ、これで。 それでよぉうくご覧なさい……たわんでいるでしょう?ゆがんでいるでしょう?」

「やれやれ、また悪い癖が出たようですぞ?」

「仕様がないですよねえ~~だってこの人のヤラカシは今に始まった事じゃないし、『混沌』の“あの人”も匙投げたりするくらいですからねえ。」


「まあっ!失礼しちゃうわね。 私が、私に『誇り』をくれたこの世界の友人に恩返しをすると言うのが、どこがいけないと言うの?!」

「問題は、そこではありませんよ。 いわば私達はこの世界には必要とされていないのに、あなたの一存だけでこの世界へと来訪した。 それによってこの世界の歴史がゆがまされてしまう―――そう言う事を言っているのです。」

「仕方のない人達ですね……けれど結果としてはオーライ、そう言う事なのですよね。 旦那様♡」


「まあ、そう言う事だわな。 「たわみ」?「ゆがみ」?上等じゃねえか……それに“熟成”をさせれば更なる旨味を醸造させやがる。 まあここからはしばらく「高みの見物」を洒落込もうじゃねえか。」


        * * * * * * * * * * *

それはそれとして、いにしえの英雄達は欠いてしまったものの、体勢を立て直した魔王軍は。


「この期間、幾分かラプラス側も体制を立て直した事でしょう。 ですが―――ここです!ここで攻勢の手を緩めてはなりません。」



「それに、向こうさんにしてみりゃ、長年目の上のタンコブだったヴァーミリオン達がいなくなった、そこを衝いて一気呵成に反撃をかけてくるでしょうなあ?

そこでです。 この際ヤツらの思惑の裏側を衝いてみませんか?」



「そこは判ったけれど、どうするの? ちょっと今のままじゃこっちの“手”が足りないわよ。」

「そこはご心配なく。(ムヒ) こう言う事もあろうかとミカエル様に応援の要請を出しておきました♪」



「成る程、つまり無傷のエンジェルが率いる軍が、この機会に参戦か。」

「しかも、指揮官は誰だと思います?」



「ふむ、ガブリエルとラファエルか。 気の毒としか言いようがないな。」

「しかも、です。 ミカエル様ご自身も後詰として参戦の意思表明をされていることですし、ね。」(ムヒヒ)


この期に及んで「敵に同情なさけをかける」と言うのは、もはや皮肉の何者でもありませんでした。

それにそう、なにしろ「四大熾天使」揃い踏み―――また新たなる脅威をラプラスは相手としなければならないのですから。


そして事実、そうなった。


災害級を越して天変地異級の魔術を行使し、反撃をしてきたラプラス軍とともに、周辺の都市の5・6つを廃墟に変えた『黒キ魔女』


大地を割き、大岩を隆起させ、地形を変形させるのも思いのまま、昨日までは湿潤だった地帯が今日は砂漠と化し、飲み水の確保もままならぬままに枯渇してしまう、大地の顕現を有した『“地”の熾天使』。


河川の氾濫や急激な豪雨で大洪水を起こし、水中に沈めた集落は数知れず、しかも神出鬼没で現れる沼沢の所為で行軍も儘にならず、右往左往している間にも一軍が沼沢に呑み込まれてしまう始末……水を自身の手足の様に操る『“水”の神仙』。


この三者でも相当手を焼かされたのに、まだこの上―――


大人でも立っていられないような強烈な突風が吹きすさび、それによって建物にも甚大な被害が出る始末。 そこへ、『“水”の神仙』と似た能力を持つ者により、局地的な災害級の豪雨が集中して降り続け、強烈な風雨によって倒壊した建物や施設は数知れず、またそれに伴い水や風にさらわれて行方が不明となってしまった住人も万単位では聴かなかったと言う。 大気と水の権限を有した『“風”と“水”の熾天使』。


そう、これは軍と軍とのぶつかり合いではない。 人間と自然とのぶつかり合い。 しかしどうしてか人間如きが大自然の相手と為れるか―――いわんや、である。

それにいくら能力にけた、恵まれた『勇者』の様な者でも、大自然が相手では無力―――救える者を、救えなかった無念さは如何いかばかりであろうか。 けれどしかし、その光景は過去に自分達が別の世界で起こした“結果”と似たようなもの。


あの時の……エルフの国を陥落した際にみた、王族の一人と見られる者のセリフが、今にして甦る。


『フッ……フフフ、私もこれまでか。 お前から見て私はどの様に映っているのだろうな。

伯爵共に踊らされ、実の娘にまでも疑いの目を向けられなかった愚かなる王―――それが私だ。 なあ、お前の眼には私がどんな風に映っている? さぞかし滑稽だろう?憐れだろう?? だが……それが未来のお前自身の姿―――だよ。』


あの時は、単なる戯れ言と切って捨て、不遜な言葉を紡ぐその王国の国王らしき者のくびを落とした。

その運命が今や流転し、あの時眼前に捉えたみすぼらしい男の影と、自分の姿が重なる……気に入らない事だ―――と、剣を薙ぎ払うも、所詮は幻。 掻き消えては現れ、現れては掻き消える。


        * * * * * * * * * *

こうした、まるで呪いの様な事の次第はやがて、『賢者』の耳にも入り―――。


「なんですって?『勇者』様が―――?!」


例の異変を聞き、「はっ」とするも、その心の内では……


(なんたること……過去にしてしまった自分の行為を悔い、それにさいなむとは……所詮は“人の子”か。

それにしも惜しいものよ、能力の発育などはこれまでのどの『勇者』よりも抜きん出ていたが、所詮は“人の子”……精神が弱かったか。

まあ替えはいくらでもある。 今のがダメになっても、また新しく選定し直し成長させれば問題ではない……だが、今我々が抱えている問題はそこではない。

目障りないにしえの英雄共をほふったものの、形勢が一向に好転しないではないか。

いや……それどころか―――この感覚は……このグリザイヤが攻撃されている?? そんな、まさか……)


自分達の最大の障害、『魔王』とそれに次ぐ『グリマー』、その者達の次に危険視していた『いにしえの4人の英雄達』。 この4人を排除出来た事は『賢者』にとっては僥倖ぎょうこうでした。

けれども、危険視まではしていなかった者達、『黒キ魔女』『竜吉公主』『四大熾天使』『魔王軍総参謀』なる者達が、この機会をして噴出してきた。

それらもまた『賢者』の頭痛の種ではありましたが……ある意味『未知なるいまだしられざるもの』と言う括りでは、魔王軍もラプラスの首脳も把握できていない者の方が数倍も厄介なのです。


なぜなら……かつてのラプラスもだったのだから。



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