第30話 失陥と接収

「も―――もう一度言ってみてくれ……」


「「―――……。」」


元・ニュクスなる者の眷属であり、「奴らアンゴルモア」の事をあまり良くは思っていない、いわゆる不穏分子に、『黒キ魔女』と『闇司祭ダーク・プリースト』は「ある話し」を持ちかけてきたのです。

その「ある話し」こそは、『砦の失陥』でした。


「砦」と言うからには、攻められた際の防衛機能は備わっていました。

それに、「数人単位」では攻略不可能である事は目に見えて分かっていた……だからいつも、眼の端で睨んでいるしか外はなかった……。


所詮、自分達では適わなかったことを、このどこの誰とも知れない女達の勢力が何とかしてくれそうだ……けれど、「ロハただ」で何かをしてもらう事など、うまい話しもあったモノではない―――そう、支払うモノは支払わなければならない。


「あなた方は、堅く閉じられた門の外で“わぁワア”と言って下されるだけで充分―――」

「それを都合3日、続けてもらうだけで結構―――私達からの提案は以上になります。」


「た、たったそれだけ……? 他には、何か―――」


「けれどもあなた方は、どう見ても10人にも満たないではありませんか。 それをどうしろと?」

「それに無駄な抵抗だと判っていたからこそ、黙って指をくわえているしかなかったのですよね。」


「支払う」様に求められたのは、門の外で騒ぐだけ―――たったそれだけの、簡単な事に不穏分子の代表は意表を衝かれたものでした。

それに彼女達が申し出て来ている事は、真剣そのものだった……だから―――こそ。


「(……)判った―――言われた事はやってみようとは思う。 しかし判らないのは、あんた達はこれからあの砦を攻めると言うのだろう? なのに、なぜ……侵入経路である「門」を、わざわざ閉じさせる必要が?」


そう、まさに不穏分子の疑念はそこにありました。

ラプラス共の砦の一つを失陥させると言うのなら、侵入経路である門をわざわざ堅く閉じさせる必要はないはず。

だがしかし―――その真逆の事を彼女達が所属する勢力はしようとしている……


「ウ・フ・フ・フ。 「必要」―――ですか?ええ必要ですよ? それにあの砦を占拠するのに際し、戦闘によって内部を崩壊させてはその意味がありません。」

「私共は彼の砦を接収した後、当面の間「拠点」として活用するつもりなのです。  ですから砦の機能はそのままにしておくのが最善の一手と言うもの。」


「フ・フ・フ・フ、それに今頃は砦内部に侵入した私達の同志が、「流言」を以てもって拡散しているはずです。」

「そこへ、私達が提じた案をあなた方が為してもらえれば……」(クスクス)



何を言っているんだ―――この女達は……そんなことをすれば、益々門は堅く閉じられ……



そう、そんな事をしてしまえば、逆に門は堅く閉ざされ、外から攻め入ることはほぼ不可能になって来る。

だから不穏分子の代表の疑問も当然と言えば当然―――なのですが……ただ、やはり提言された事はやってやれない事だっただけに、指示通りに3日に亘って騒ぎを起こしただけだったのです。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そして、砦失陥当日―――


「緊急―――緊急! 砦内部に水が浸入!!」

「なに?水だと。 いやしかしまた……なぜ?」


「判りません―――依然、原因は不明!」

「ええい―――ならば門を……(ハッ!)」


「門は……ッ!不穏分子共の騒ぎによって……!」


そう―――堅く閉じられてしまっている……しかも、折からの不意による水攻めにより衛将が詰める階層にも水が届こうとしていたのです。

そしてその水から顕現したるのは―――


{フフフ―――いかがじゃ、の水の味は。}


「お―――お前は……?!」


{これから滅び逝く者に“”乗りをして何になろう、だがまあ良い余興じゃ冥府に旅立つ通行税代わりとするがよい。

が“”は竜吉公主―――が故郷、魔界に於いて知らぬ者はおらぬ……そう言った“”を持つ者よ。}


「(ヒッ!)ま……魔界!魔界の者がこの世界に~~~」


“水”の神仙「竜吉公主」―――この四方を高い壁で囲まれた、優れた防衛機能を備えた施設は、この“水”の神仙の権能によって立ち待ちの内に水で満たされる処となりました。

しかも前日、3日に亘っての“騒ぎ”により、堅く門を閉じてしまった事が完全な裏目に出てしまった。

いやそれも、そうなるべくの悪辣なまでに知恵が回る者によって、そうせざるを得なくさせられた……


        * * * * * * * * * *

「まあ―――ただ普通に武力で以てもって向こうさんの砦の一つを陥落させるのは簡単だ。 ウリエルさんやら我が主マイ・マスターでも投入なげいれときゃ陥落おちる事でしょう……が、それじゃあまりにも能がないものと思いません?」

「そうねえ、まず2人に任せといたらまず間違いなく砦自体が使い物にならなくなっちゃうしね。」


「その通ぉ~り☆さすがは公主サン。」

「てかオイ、ちょっと待てやくらぁ! いつから私達2人が「解体屋デストロイヤー」みたいにいわれてんダヨ!」

「そぉ~ですぞ!?大体私は見境なく破壊して暴れ回る―――そこのぉ……」(チラぁ)


「いま私の方を見て何を言おうとしたんじゃい! 言いたいことあるんならハッキリ言えやコラ、聞いたろやないか―――あ゛あ゛?!」


「あの~~~私、先行き不安なのですけど―――」

「シェラさんも適度にストレス発散させていないクシナダさんいなくなってから、変に辺りに当り散らすところが出て来てしまっているのですよねえ~~」(ムヒィ……)

「まあ今回は「核弾頭」打ち込みませんので―――それより公主サン、この砦の接収の如何はあんたにかかってる……そう思って下さいよ。」


―――こうしたやり取りが、あったかまでは定かではありませんが、現に彼の砦は優れた防衛機能を残したままキレイなままで魔界軍の手に失陥おち、彼らに接収されたのち今回の攻城戦の見返りにと、協力者達をこの砦に呼び戻し、営みを再開させるようにしたのです。




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