エルフの「王女様」だって、英雄に憧憬れてもイイじゃない！ ２

第28話 ファイナル・カウント・ダウン

ある格言では、『害虫を一匹見たら数百匹はいるものと思え』―――というのがありますが…度々魔界を襲い来るラプラス共を「害虫」に例えた事で“ドヤァ満足気な”顔をするエルフの女性に。

「（今の一言で『上手いことを言った』と言う顔になれるとは……。）」（イタイ目）

「（ある意味幸せですよね～～～★）」（アワレミの目）

「（～てより、私の事『りゅうきち』って呼ぶなってえ！）」（白い目）

「（ウフッ……ウフフフフフ）」（魚が死んだような目）

「―――てえ？！あんたら……そーゆー目で私を見るなぁあ！　特にクローディア！死んだ魚のような目で、表情も死んだような顔で、私に微笑みかけんなあああ！」

「いえいえ、私はそれでもエニグマ様の思召しには従うつもりですよ～～～。」

「しかしーーーですな、意外にもクシナダとか言う者の外にも、シェラザードに対抗できる者が出て来ようとは。」

「それよりも……待って？一体エニグマって何者なの？」

「心当たりならありますよ―――。」

「心当たり……？」

「かつて私達はＰＴを組み、数々のクエストを解いてきました。　「赫キ衣の戦士」「森の癒し手」「千殺」「黒キ魔女」……そして「鬼道巫女」。」

「まさか……クシナダが？！」

「可能性としては無くはりません。　何よりクシナダさんは、ある折にラプラスの一人であるニュクスの手に堕ち、存在毎取り込まれた経緯があるのですよ。」

「そう言えばニュクスの存在性も、ここの処観測されなくなりましたな。」

「では―――魂を同一化させたとでも？」

「そんな有り得ない……「漫画」のような出来事が実際起こってしまったのでしょう。　そしてクシナダさんがされた事と同じ様に、今度はラプラスの一人である彼女クローディアに狙いを定めた……と言うのも、ある意味では肯（うなず）ける話です。　まあ尤（もっと）も、こちらにとっては“好い”動きではあるようですけれどね。」（ムヒヒヒ……）

仲間であり味方であるはずの者達より意趣に反したモノを受け取ってしまい、精神的なダメージを負わされてしまったシェラザードは半分ココロが折れかけているようですが、やはりここで気になったのは、闇司祭（ダーク・プリースト）であるクローディアが慕っていると言う『エニグマ』なる存在でした。

その存在の一つの見解をササラは述べてみたのです。　その一つの見解こそが、以前ラプラスの脅威として魔界を侵略してきた『夜の世界を統べし女王』―――ニュクスによって囚われ、その存在毎（ごと）侵蝕凌辱されてしまった、ある一人の冒険者の末路だった……。

けれどその存在を弄玩（もてあそ）ばれてしまった彼女は、またどう言った理由からか、ニュクスの手に堕ちてしまった後もクシナダとして振舞えていたし、ルキフグスを討伐（たお）す際にも多大な貢献をしてきた―――けれど……「彼女」はそんな自分が、“悪友（よきとも）”達と共に讃えられるべき存在ではない事に気付いていた。

……から、かつての仲間達と別離（わか）れた―――世間からも別離（わか）れた。

そうした中、“悪友（よきとも）”の国が滅ぼされ、“悪友（よきとも）”自身が虜囚（とらわれのみ）―――果ては奴隷にまで成りさらばえた時、「黒キ魔女」の伝手（つて）を頼りにして、どうにか取り戻すことが出来たのです。

その後「彼女」の中の闇の部分が一気に爆発し、かつて自分を取り込んだニュクスをも取り込み返した……

そう、そこにはもう―――「クシナダ」なる存在も「ニュクス」なる存在も、在りはしない。

その「どちらでもない者」―――「誰でもない者」―――『エニグマ』こそが彼女達の定義となったのです。

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閑話休題―――だとて、シェラザードが皆からのツベタイ視線に晒されたからとて、ラプラスからの侵略は止むことはない……。

「もおぉぉ～～許っさあ～～ん！　私がこんな目に遭うのも、全部おまいらがわるいんじゃ～い！！　　　〖弓引く者よ　限りなく引き絞られる弓勢よ　我が願いわが想いに応え万獄の矢の嵐を降らせよ〗――〖アニヒレイション・レイ〗」

「（……というより、完全なとばっちりの様な気もしないでもないが―――）

だがまあ良いか、これ以上奴らに情けをかけ思うがままの蹂躙を赦す事こそ罪！　そして獣人の子よ、天使本来の力を見るがいい！　　　≪律式鏖殺獄戒隠滅衝波（ファイナル・フェビュラス・ディステニー）≫」

「さぁすがはウリエル様☆　私の様に詠唱を必要とせず、即座に天使言語術（エンジェル・ロア）を展開できるなんてッ☆　ここは私も負けていられませんねッ☆（ムヒムヒ☆）　　　〖“五芒”“六芒”の星々に充つる力よ　“地”に眠りし龍脈よ　“天”に揺蕩う河の光の力を以て　“人”である我が言の葉に耳を傾けよ　さすれば主の御名に於いて今日の我らの糧を得られるだろう〗――〖スター・ゲイザー〗」

「（なんだかもう～遠慮が無くなってきちゃってる―――と言うか）

けれどもうこのまま看過すわけにはいかないと言うのは自明の理と言うものよね。　　　≪我が権能の源たる霧露乾坤網よ　我が意により顕現せよ≫――≪水禍大瀑布≫」

しかしながら魔界側もやられ放しと言うわけにも行かない―――とし、各々が持てる力の限りを解放させたのです。

『千殺（アラフミャンガ）』であるシェラザードによる「殲滅の矢」。

『“地”の熾天使』ウリエルによる「天使言語術（エンジェル・ロア）」の解放。

『黒キ魔女』ササラによる「古代語魔法（ハイ・エイシェント）」。

『“水”の神仙』竜吉公主による巨大な水柱を竜に見立てた「圧殺の神仙術」。

…と、これまで苦戦していたのが“虚”であったかのように、ラプラス共は一様にして動揺してしまうのです。

またこうして動揺を隠すことが出来ず浮足立った時こそ、崩れ去る時は非常に脆くなる。

これまでにもシェラザード達が相手にしてきたどのラプラス共よりも手強い者達が『千殺』の―――『“地”の熾天使』の―――『黒キ魔女』の―――『“水”の神仙』の反撃を受け、散って逝く……

けれどこれで終わりではない、いや寧（むし）ろここからが本番―――

「どうやら、予定通り掃討殲滅が出来たようでなによりですな。　しかしまあここまでは“オレ”の読み通りです。」

｛ここまでは―――とはどう言う意味じゃ、ベサリウスよ。｝

「そんなことは言わなくたって判っているでしょうに。　公主サン、どうして主上があんたんとこの異能に目を付けたのか……そう言う事なんですよ、つまり愈々（いよいよ）向うへ殴り込みをかけよう……って算段です。　その為の「ツール」がたった今届いた処……なんでして、ね。」

「『その為のツール』って割には、なんかえっらい“ちんまり”としてるよねえ？」

「（！）いえ―――見かけだけで判断してはいけませんよ……これには凄まじいまでの魔力が凝縮して内包されています。」

｛太乙め……相も変わらず妾の予想を遥かに越えよるものを―――。｝

「公主様でさえそれ程の評価を……しかしこのツールでラプラス共の世界に跳べたとしても、あちら側に詳しい者など……」

「そこのご心配ならば無用です。　その「案内役」を買って出る為、エニグマ様よりこの地へと遣わされたのです。」

一体なぜ、元ラプラスの司祭であったクローディアなる者が、シェラザード達の扶助手（たすけて）となる為にこの場所へ現れていたのか。

それはまたラプラス共の破滅への時計の針を早める為に―――そしていずれは……