第27話 援軍到来

ヴァーミリオン達がラプラス共による侵略第二波である「オレイア北西の森林部」で侵略軍を殲滅させた頃。

同じく『昂魔』の副都心「ヴェリサ」の南西部にある湖沼地帯では……。


「うっひょ~こりゃ数も多いけど、その質たるや―――。」

「これまでの倍以上、それだけにラプラス奴らの意気込みの程が伺われるわね。」

「まあそいつも裏を返せば、向こうさんも相当切羽詰まってるって事でしょうよ。」

「予めガブリエルやラファエルにも、こちらに参戦するように伝えておいて正解でしたね。」


「(……)―――どうしたの。」

「欲を言えば……こちらにもう一人ずつ、「火力」と「回復」担当が欲しい……とは言え、そいつは所詮、無いものねだりですかな。」


こちら方面に現れてきたのは『重装戦士』『魔獣騎兵』『宿曜師』『祈祷師』『守護騎士』『暗殺者』『剣闘士』……と、様々な局面で柔軟な対応が出来るように編成された、バラエティ豊かな布陣と言えました。

それは魔王軍でも、優っているとも劣らない……と、言いたかったのですが、総参謀が言ったように火力と回復の不足は否めなかった……。

こちらが強力な魔法やスキルでラプラスの前衛にダメージを与えたとしても、後衛から「癒しの術」や「防御増強」「ダメージ軽減」などの支援でカバーする。

その一方で、ラプラスも負けじと強力な魔術やスキルを繰り出してくる。

確かに魔王軍も十分な回復役や補助魔法付与役を用意しているとは言っても、現状ではラプラスに抑え込まれている―――と言わざるを得なかったのです。


そうした戦況の中、圧倒的な術やスキルの性能差の前に“じりじり”と後退を余儀なくされる魔王軍。

そんな中、一人の戦士の声援が戦場に飛び交ったのです。


「皆―――諦めるんじゃないよ! 諦めたらそこで終わりだ……今ここで私達が諦めてしまったら、奴らを防ぐ事を止めてしまったら、あなた達の家族が―――友人が―――大切な人や愛しい人たちが犠牲になるんだ! それに、そんなことは私の国で止めさせないと……奴らの所為で滅んでしまった、エルフの王国「エヴァグリム」で終わりにさせないと!!」


一人のエルフの女性の声援を受け、傷ついた将兵達は再び立ち上がる。

その一人のエルフの女性こそ、ラプラスの侵攻によって国を滅ぼされてしまった亡国の王女でした。

そしてその亡国の王女こそ、臥薪嘗胆し魔族全体の国家を樹立させた、スゥイルヴァン女王シェラザード。

しかし侵略しているラプラスにとっては、一人のエルフの女性がしたことが、余計な事―――目障りな事に映ったものとみえ、その「目視線」が「手攻撃」が集中してしまう……


「〖慈悲深き至高なる主よ、大いなる禍いを掃い除けたまえ〗――〖グレイテスト・ウオール〗」


「(“壁”……?けれどウオール級の防壁魔法を扱えるのは、この軍中にはいなかったハズ―――……)」


しかし、いずこから唱えられた防壁魔法により、遠隔からの攻撃や近接による攻撃は防がれたのです。

けれども竜吉公主は、現在編成されている魔王軍の中には、これほどの防壁魔法を行使できる術師がいない事を把握していました。


しかも―――


「〖いと気高きなる癒しの主よ、その慈悲深き御心により奇蹟をお与えください〗――〖アメイジング・グレイス〗」


明らかに“系統”の違う「癒しの魔法」、けれどもそれによって傷ついた将兵達が見る見るうちに回復させられていく。

『明らかに違う“系統”』と言う事は、この魔界に於いての魔法体系の流れを組まない―――と言う事。

そしてつまり、その魔法の系統とは―――ラプラス達のモノだった……しかしそのラプラスの魔術を受け、魔族の兵士達が復活していく……?


「今のは……あなた?」


「はい―――あなたが、私がお慕い申し上げているあの方……エニグマ様の唯一にして無二のご友人、シェラザード様ですね。

私はかつてラプラスの「司祭」の地位にあり、至高神『アンゴルモア』に仕える者の一人でした。  けれど謂れなき罪過に問われ、身分も剥奪された上にこの上ない恥辱を与えられてきました。  そんな私―――『クローディア』をお救い下さったのがエニグマ様なのです。」


漆黒の法衣を身に纏い、闇に仕える事を決めた「闇司祭ダーク・プリースト」クローディア。

窮地に陥りそうだった魔王軍を救ったのは、元は敵であったはずのラプラスの一人でした。

けれど皮肉な事にクローディアは味方からも迫害され、本来であれば獄中でその生を終えたものを、彼女の“運命”でもあるエニグマなる者からの勧誘により堕落せしめられてしまったのです。

しかもクローディアがこれまでに修得していた、高位の治癒の魔術は失っておらず、この日この時よりラプラス共はまた一人厄介な者を相手せざるを得なくなってしまったのです。

それに……ラプラスの災厄は、クローディアの離反だけに留まらず―――


「おや、そちらの方が先程の防壁魔法を行使された方なのですかぁ?」(ムヒ☆)

「ササラ―――あんたこんな処に来て大丈夫なの?」


「この魔界全土で起こっている状況の把握は、使い魔によって総て掌握しております。 その一端でこちらの戦況が思わしくないとの判断により、急遽援軍として駆けつけたのですが……どうやら余計だったようですねッ★」(ムヒョゥ~)

「まあそんな事は言わないで、丁度ベサリウスが火力の方でも不足していると言っていたから。」

「てことは、これでようやく5分と5分てわけね。 ここから押し返さないと!」


「黒キ魔女」ササラと「闇司祭ダーク・プリースト」クローディアの参戦により、ここにきてようやく戦力的に5分と5分にまでまったこの戦場。

いやしかし、5分と5分のままではお互いが大きく傷つき合い、しんば勝てたとしても次の闘争に間に合わなくなってしまうのです。


だから―――こそ……


「シェラさん―――だからとて5分と5分とでは、私達の勝利ではないのですよ。  ならばこそ圧倒的な力の差を見せつけなければなりませんでしょう。」

「フ・フッ―――言う様になったではないか、我等天使の血を持ちし獣人の子よ。  ああ、そうだとも、ここで我等の結束の力、見せつける時ぞ!」

「全く―――ウリエルもササラも……そう張り切るのは判るけど、あまりやり過ぎてしまってはダメよ。」

「なぁに言ってんだよ―――りゅうきちぃ……奴らに遠慮してどうするってさ。  こう言った害虫共は見つけ次第駆除、見敵必殺が倣いだろうによ!」



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