第18話 報われぬ“想い”に救済を!

『魔王様にお目通りを―――!』



風雲急を告げる―――この急報を伝える為に、至急魔王城を訪れたスゥイルヴァン女王……ではありましたが。


「シェラザード様ですか、残念ですが主上にはお会いにはなれません。」


「どうして―――?!」


「すでに各地からの報は主上の耳にも入っております。

が、あの方はその報を受けると、また新たなる“設備”の開発に勤しんでおられるのです。」


侍従長サリバンの言葉により、魔王カルブンクリスはただ坐して報告を待っていただけではなかった―――この未曽有の危機をいち早く察し、これからどうすればよいか……の、模索に奔りはしり始めている事を知るのです。


……が―――


「ではどうしたら―――……」


「ご心配はご無用にございますよ。

主上は既にこうなる事を鑑みかんがみ、「権限」の一部を相応しき者に委譲しております。」


魔界の王が有している絶大な「権限」の一部の“委譲”……。

その事は長期戦略に鑑みかんがみて、敢えてそうさせることで判断の速度化を図ったものと言えました。

ならば具体的には「誰」に「何」を委譲したのか……


(ムヒ☆)「宜しくお願いしまあ~すねッ☆ 女王サマッ。」(ムヒヒ)


「ササラあ? えっ、あんたが?」


「私どもの可愛い姪っ子は、「内政」の“主”担当となっております。」


「“主”担……って、ええ~~っ??」


「そんなに驚く事ないじゃないですかあ~~(ムヒィ~)

ですがまあ、私は『昂魔』や『神人』に顔が利きパイプがありますからネッ☆」(ムヒ☆)


「なあ~るほど、でもあんた一人で大丈夫?」


「そこは心配ご無用☆ おーい、りゅうきちぃ~」(ムヒヒヒw)


意外? なのか、妥当? なのか、内政の主な担当を請け負ったのは『黒キ魔女』で知られるササラだった―――は、良かったのですが。

何とササラを補佐サポートする人材も、意外や意外……


「も~う、その名前で呼ぶの止めなさい―――って。」


「あっ、りゅうきち。 でもあんたが……なんで?」


「(~)『聖霊』との調整よっ! 全く……あなたが言い始めてから、とんだ迷惑だわッ!」


「そっか―――でもまあ“内”はひとまず安心だね。」



普段はこの方、不純な言動が多いですけれど、見るべき処はちゃんと見ている。

そこはあの「奸雄」も認めている事ですからねッ。(ムヒ☆)



全く―――大したものだわ、あなたって。

こうした“乱れ”が生じた時、内々でその“乱れ”に乗じて体制を覆そうと目論む者が現れるけど。

そうした者達が出ないよう監視の目を怠らない……私達の様な者が“内”を担えば、“外”にて対応する「あいつ」も、幾分か悪辣な策を建てられると言うもの。

“内”は私達が守ってあげるから、お前は存分にその悪知恵を働かせなさい。



魔界の中央行政を信頼のおける者に託すことで、“内”の混乱を抑える……そうする事で、“外”からの「侵略」に対応する者達の背後は担保されたのです。


         * * * * * * * * * *

それはそれでさておくとしながらも、ならばその“外”は―――?


「「軍権」の掌握は……『ヘレナ』の一人であるベサリウス―――。」


「(!)公主……」


「どうしたの、「適材適所」―――そう言う事なんだから。」


……そう再び―――魔王軍の掌握を任された、“元”『魔王軍総参謀』が、元の地位に返り咲いた事を知った時、シェラザードは“はた”と竜吉公主の表情かおを見つめました。


すると……



一瞬―――僅かだけど、微妙な表情の変化を私は見逃さなかった。

だってこの人達は、私とクシナダと同じ様な関係性である事を、私は知っているから……。

本当は……この人は、いつも顔を見合わせれば憎まれ口しか叩かない相手の、その側にいて憎まれ口ばかり叩いていたかったんだろうに。

そうする事で、自分と相手との距離とを保っていたかったんだろうに……



けれど、彼女はもう大人―――自分や黒豹人の少女の様な、100歳か200歳そこらの若僧ではない。

既に500年以上もの時を紡ぎ、また経験の豊富な先人の一人なのです。


          * * * * * * * * * *

その事は―――こちらでも……


「お前は、本当に私で良かったのか。」


「なぁにをこの期に及んで。

“良かった”のかも、“悪かった”のかも、何もありゃしないでしょう。

出来る奴が出来るだけの事をすればいい―――そこに、情を差し挟む余地なんてありゃしないでしょうに……。」



ばか者が―――だよ。

実に今日のお前は饒舌だよくしゃべる

その饒舌こそが、総てを物語っていると言うものだ。

私も、あの方の想いを知っているからこそ、その辛さは判ろうと言うものだが……


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


彼女は、彼のその才を評価していた―――他の誰よりも……

けれどその才は、決して彼女に報われることはなかった……

彼が立てた策のお蔭で、彼女は一度虜囚囚われの身と成り、身を捩るよじるほどの苦痛を与えられた……


それが、竜吉公主とベサリウスとの、今日こんにちに於ける関係性の構築の始まりと言えました。



あんなにも認めたというのに……あんなにも愛したというのに……それに手向けおるか―――


許さんぞ……許さぬぞ!



それから程なくして、魔王ルベリウスはヴァーミリオン達に敗れ去り、またベサリウスもヘレナの手によって処分されるのでしたが……



これで愈々以ていよいよもってオレも最期か―――まあ、帳尻が合ったんで善しとしますか。



自分の“最期”―――というにも拘らず、実に彼は清々しくあった。

それはまた、彼自身も彼自身が仕えていた主の異常性に気付いていたから。

けれど彼は、そんな主が持つ「軍」の司令官の一人。

将も兵も従え自軍に勝利を導く……それが己に課せられた役割である事を良く判っていました。


良く判っていた―――からこそ、反乱軍の気持ちも良く判っていた……


ある折、反乱軍の中でも重鎮と見られる者の一人を捕え、次点での反乱軍の動向を探り出そうとはしましたが。

これが中々吐かなかった―――

“縛”に繋がれ……ながらも、こちらが様子を伺いに行った時、睨みにらみつけるその瞳―――「愛」と「憎」の織り交ざった複雑な感情。


それを受けて……なのかは良くは判りませんでしたが、この後ベサリウスはこの虜囚の「放置」を言い渡したのです。

そう……「放置」―――見張りもつけなければ、尋問に訪れる者もいない……



とうとう……相手にもされなくなったか―――

最早、には尋問するその価値もなくなったと―――?

このが……よもやこのような仕打ちを受けるとは……。



愛情や好意の裏返しは、憎悪や嫌悪ではない―――寧ろ「無関心」。

これから誰にも見向きもされないまま、自分は衰弱し消えて逝くのか……と、覚悟すらしましたが。

ヴァーミリオンの仲間である『韋駄天』と、ヘレナの協力により救出をされた……その後に『魔王軍総参謀』の死が知れ渡ったものでしたが。



{貴様はベサリウス―――!}



またある折に、“地”の熾天使と協力してラプラス共を掃討していた時に、その存在性が再認識された時、彼女はどんなにか喜んだことだろうか。

とは言え、その怨恨うらみを晴らす訳にもいかない、何しろ彼は今代の魔王の臣下の“一部”に成っていたのですから。


だから……こそ―――



{これまでの“愛”も“憎”も含んだモノを、とっくりと返してくれようぞ。 精々覚悟をしておれ。}

{*などと……まあ少々言葉尻は強いものの、“嫌味”や“ちょっかい”レベルまでで押し留められている事で、ある程度お察し出来ようと言うもの。}




つづく




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