第14話 「王女」―――名を為さしみ「女王」と成る
「いつも」通りの街がザワつき始めた―――
それは、昼下がりの午後。
その街の住人達や外来の
そこに「いつも」の彼女はいない―――その耳には、今も
それに服飾も「いつも」の様に、行動重視のモノではなく、見栄えを重視にした
そして髪型も、「いつも」の様に“サラリ”としたストレートの長い髪を
それはまるで王族―――
いや、その『まるで』は、甚だしくも見当違い。
彼女は―――『王族』だった……
かつての王国は
そのはず―――でしたが……
結局は彼女も所詮、
しかし、その“元”王女の口から、衝撃的な宣伝が為されてしまう。
* * * * * * * * * *
「本日、ここにお集まりの皆様にお伝えしたい事があります。
私は“元”、エルフの王国であるエヴァグリムの王族の一人であり、王女だった者です。
そんな私が恥も知らずに、再び
彼女は、そう言った―――自分の国は、もう
なのにこの街に―――冒険者の街マナカクリムに、
「私の国エヴァグリムは
けれどそのお蔭であらゆる可能性が
私はこの地に、「私達」の国を
やはり、そう言うことだった―――
亡国の王族が再び栄光を纏い直し、衆目を集める目的などそれ以外に考えられなかった……。
だからこそ―――野次が飛び交う。
けれど、“元”王女だった者は、
いえ、対応するどころか―――……
「皆さん、何を勘違いされているか判りませんが。
私は「私達」と言ったのです、その「私達」はエルフ族だけを特定して言ったわけではありません。
そう……「私達」―――魔族による国家を、この地に建国すると言っているのです!」
その
そしてしばらくして、そこかしこで“ザワつき”始めた―――
「な、何を言っているんだ? 一体―――」
「あのエルフ、この地に国を
「けれど、エルフだけの国―――じゃなくて??」
「オレ達……」
「私達の……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
シェラザードが、この大胆な行動に及ぶ数週間前……
彼女は、彼女の協力者達と共に、ある場所―――
「おや、これは英雄殿ではないか。 どうしたと言うんだね。」
「魔王カルブンクリス様、この私たっての願いを聞き届けて下さいませんか。」
「ふむ、君はこの私の為に多大な尽力を果たしてくれた。 その事に関しては報いなければならないだろう。」
「ならば―――「あの地」に……ルキフグスを迎撃した時、最終的な防衛線の拠点となってくれたマナカクリムに、「私達」の国を
「「私達」の……それは―――?」
魔王城……その玉座の間ではないにしても、魔王の執務室にて今件に関わるある折衝が行われていました。
その折衝とは、そのご多聞に洩れず、マナカクリムに「私達」の国を
実は、この「私達」と言う
しかし魔王程の知恵者が、その本来の意味を寸分と違わせていないのに、敢えて問うた。
魔王は―――既に読んでいた。
それは盛る焔の様な、熾緋の眸を使わずとも。
目の前にいる、エルフの……強い意志が籠った碧の眸を視ていれば判る事だった。
そのはずなのに敢えて問い、「本願」を言の葉に乗せさせることで知らしめさせんとしていたのです。
「もちろん「
「いいだろう、許可する―――そしてその認可は、『勅命』である事を魔王であるこの私自らが申し渡す!!」
「王」自らが発する布令の事を、『勅命』と言いました。
この魔界にあるどの法令よりも、最優先される布令……
つまり、シェラザードがマナカクリムにて宣下した事の背景には、魔王と言う強い後ろ盾が付いていたからこそ。
「それにしても、思い切った決断をしたものだね……君も。」
「いえ―――私自身、今回の件がなければ思いつきだにしなかった事ですので。」
「そうか……。 それより、もうその国の名称は決めているのかな。」
「はいっ―――それはもちろん。」
「聞かせて頂けないだろうか、新たなる女王陛下―――。」
新たなる国を
そして事実上、「国王」が誰であるか―――言わずとも知れた処……
そう、最早シェラザードは―――
「魔王カルブンクリス様、私はあなた様の理念に、非常に感銘、感化されるところがありました。
よって、「
『王女』―――ではない『女王』、そして新たなる女王を奉ずる国の名称こそ……
「『スゥイルヴァン』―――フフフ……ハハハ……ハハハハハ! そうか!!」
「はいっ! 私はあなた様のその理念、『森羅万象』に基づき、従い、それを私達の国の名称とする事と決めたのです!」
『森羅万象』とは、まさしく「万象」「万物」の
それはまた魔王カルブンクリスが、その治政を行うに際し大元に掲げていた
それを、これから建てられると言う国家の名称に揚げた……それに―――
「なるほど、それで「私達」=「魔族」か。
つまり君は、私が目指している「魔族汎用」を国家単位で体現しようと言うのだね。」
「はいっ―――その通りです!」
誰もが平等である事。
身分の貧富の差もなく、また種属の優劣もなく、魔王はその登極以来その事にのみ腐心していたものでしたが、国家単位としては受け入れてもらえない処も多々にしてあった……。
それを、その理念を「汎魔族国家」を形成させることで浸透させようとした新女王の思惑がそこにあったのです。
しかし―――
「とは言え、口で言うのは容易い、少なからずの抵抗はあると考えておかなければならないだろうね。
その事を、君達近侍の者に委託をしてよいだろうか。」
崇高な理念―――であっても、支配階級が残っているからには、まずはそこの牙城から崩さなければならない。
だからこそ魔王は、新女王の他に魔王執務室を訪れていた、6人もの近侍者に申し渡したのです。
つづく
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