第15話 蠢 =動きめきたる意志= 動

衝撃を伴った宣下により、いまだ冷めやらぬどよめきにざわめき……

ただの、普通だったこの街が、この日この時を以てもって一つの国家の「首都」と成ったのです。


しかも―――


「皆さまお鎮まりを。 今回の宣下はさぞや驚かれた事でしょうが、この事は突然決められた事ではありません。」


新国家樹立を宣言したエルフの王族と見られた者に代わり、今度は漆黒の導衣に身を包んだ、とある高位の魔導師の女性が事の経緯を述べ始めました。


「私はこの度、さある御方により新たなる国家の女王陛下の「助手たすけて」となるよう拝命した者。 『黒キ魔女』ササラと申し上げます。」


『黒キ魔女』―――この魔界で最早知らない者の方が珍しいほどに知れ渡っている超有名人。

そんな人物が既に新女王のブレーンに就いていた……まだ更には―――



あ……あそこにおられるのは、我ら『聖霊』の竜吉公主様?!

いや、それだけではない……その隣には『神人』のウリエル様までも?!



何も新しき国家は、一人のエルフの突飛な行動で為し得たモノではなかった……

この時までには既に―――


「お鎮まりを……皆様方が動揺されているのは判りますが、柔軟に受け入れてくれることを、『昂魔』の名代を授かった私がお願いをする次第でございます。」


『聖霊』『神人』そして『昂魔』―――魔界を支える『三柱みつはしら』が新国家樹立を承認していた……。

その為の『黒キ魔女』であり、また『竜吉公主』『ウリエル』―――ばかりだと思っていたのに……


「そしてここに―――魔界の王御自らが受認し「勅命」としたことを、ここに捕捉させていただきます。」


魔王勅命の下に認可されていた―――この魔界の絶対的な権威の命の下なのもととに。

それにその言葉は、最早凶器ですらあった、既に上位の者達が下位の者達の与りあずかり知らぬ処で勝手に決められた事だった―――。


しかし、もう、逆らえない……既にこの魔界の王自らが、「勅命」と言う最も強く効力のある布令で、この地が新たなる国家となることを認可したのだから。


          ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


とは言え……? 新国家がマナカクリムの地に樹立した―――と、宣下された事以外は、特段変わることはありませんでした。


それに……良く視れば―――?



アレ? 酒場あそこで一杯ひっかけてるの……って、さっき「宣下」した人じゃねえの?


いや、そんなバカな……??



新国家スゥイルヴァンの女王と成った……と見られる、エルフの女性と思わしき人物が? この街の酒場で一杯ひっかけていたあもうすでに出来上がっちゃっていました???


「ぷっひゃあ~♪! 大仕事終えた後の一杯って、サイッコーだづえ!!

おお~~うあんちゃん達、そんなとこでシケたツラァしてないで、こっちで呑もうや!

おおっしゃあ―――気分ノッてきたあ~~!! ここにいるヤローども! 今日は全部私からの奢りおごりだあ~~!!!」


先程の、あの厳粛な場こそが似つかわしかった女王陛下が、こうまで砕けて一般庶民とさして変わらない……と、誰が思った事だろうか。

それはその場、この酒場に偶然居合わせた街の住人達にしてみれば、妙に気前のいいことを言う一人のエルフの女性だとしか思わなかっただけに。


けれどこの気前のいいエルフの女性の事を良く知っている者達からしてみたら。


「全く―――何を考えているのかしらねえ。」

「考え……があるようには見えないのですが―――。」


「るっせえぞう~~りゅうきちぃ……(ヒック)

そ~~れにシルフィ―――あんたはまだ呑みが足らん様だなあ?(ゲヘヘ)

うらうら呑め呑めえぇ~い! 胃液が逆流するまでえ~~!!」



あの―――これ……「ハラスメント」として魔王様に提訴したら、絶対勝てますよね?



余計な一言を発してしまい、厚意の押し売りお酒の強要を押し付けられてしまったアンジェリカ某に、シルフィ某がいたようです。

{*このあとよろしく、魔王サンから「注意イエロー・カード」をもらったシェラがいたようで。}

{*それとまた、この大盤振る舞いの支払いは、一体誰が? それは―――……

『ヨシ、グレヴィール、あとはお前が払っとけ。』

その時の侯爵はニコヤカ対応であった事は、最早言うまでもない。}


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その一方―――「あの者達」は……


「ははっ―――そうでありますか……畏まりました。

ふむ……やはり隷従属させて穢しけがしきるのは手緩かったか。」


自分が崇める「神」からの託宣により、策の一つが失敗した事を知った『賢者』。

しかし彼女は、特にこれと言って動揺は見せませんでした。



確かに現在の『グリマー』を捕え、その馘を断ったところでその存在性が宙空を舞い、また新たな依り代を求めるのは知れた処だった……。

それに、すぐに馘を断ってしまったところで所詮はイタチごっこ、だからこそ『グリマー』の存在性を弱まらせる為に穢すけがす事に意味があった。

それであるがゆえの「奴隷化」だったのに―――この策が成功すれば、難なくある物質……「光の珠」を抽出することが出来たものの、失敗をすれば手間が増えてしまう。


もう“不意討ち”は通用しない―――今回の失敗で向うもこちらの意図が判り、警戒を充分にするだろう……。

そしてこの失敗により、“こちら”と“あちら”の直接的な対立全面戦争は不可避なモノとなった。

だとて……『闇の衣』に正面切って対立してしまう事こそ、まさに凡愚のなせる業……。

「『勇者』様―――少しお話しが……」


「どうした、『賢者』。」


「実はあの『グリマー』に施そうとした私の策が、失敗してしまった模様でして……」


「なにぃ?! だからあれほど言ったのだ、あの場で馘を刎ねていれば―――」


「それではまた時間を費やさねばなりません。

何十年か―――何百年か……その間に、その後に、その時まで勇者様も生きていらっしゃる保障などどこにもないのです。」


「ちぃ……忌々しい―――」



この男は……その武勇は優れるものの、深く慮るおもんばかることをしない。

しかし―――だからこそ、この私が操作コントロールするにはまさにうってつけなのだ。

さあ―――踊りなさい……私の可愛い傀儡操り人形……。



今回の一連の事象は、ある特定の意志に依るモノでした。

そう―――『魔界への侵略』……それは、魔界に於いて「ラプラス」と定義された者達が、度々起こしていた行動だったのでしたが。

弱い戦力では埒が開かないモノと流石に思い始めたか、『賢者』なる者が崇める「神」なる者が、その重い腰を上げ始めた……


それは『賢者』なる者もそうなのではありますが、『勇者』を筆頭とする軒並み外れた能力チートを有する者達で構成された『人間』と言う種属……


それはまた、「ラプラス」の中でも特に最上種を意味する存在でもあったのです。





つづく



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