第6話 王国の再建

「ねえ、聞いているの? ベサリウス!」

「あ゛あ゛~~~聞いてますよ、ちゃんと。

そんな耳元で小姑の様に小煩くしなくっても―――」


「なっ……なんですってえ~~?!」

「それよりいいんですかい? あんた今、激しくキャラ崩壊しまくってますぜw」


「(ぐ! ぬ・ぬ・ぬ……)あ・ん・た・ねえぇ~~!」


自分(達)とは少なからぬ交流があった、エルフの王女の国が不倶戴天の敵に滅ぼされてしまった。 しかも聞くところによると王女自身も手酷い扱いを受けたとも。

それなのに、自分達魔族の頂点に附座する者は、なんの対応もしないままリアクションも起こさないまま……

その事にアンジェリカは、マナカクリムをぶらついているベサリウスを見つけ、きつい口調で問い質しました。


すると、自分の唇に人差し指を押し当てられた―――


「(ヤレヤレ―――あんたもうちょっとは冷静だと思ってたんですが、案外処もあるようで、“オレ”としちゃ少しは安心しましたよ。)」


「(だって……仕方がないでしょう? 魔王様からは何の布令や沙汰もないし、こっちだってどう動いていいのか……)」


端から見れば、付き合っている“彼氏”と“彼女”が痴情の縺れもつれからか言い争いをしているかのように見えた―――

{*しかもうち一人は“キャラ崩壊”しまくっている}


だからそこを宥めるなだめるかのような、“色男”の様な仕草で喚く彼女を強制的に黙らせた……

ほんのりと頬を上気させながらも、大人しくなった彼女は彼氏としばし見つめ合う―――

{*ただしこれは、他人から見た『イメージ』です}


けれども……


「(こちとら、『安易に口外するな』―――って、厳命が下りていましたもんでね。)」


「(では……魔王様は―――)」


「(なんも考えてない訳がないでしようにw そう言う事ですよ―――水面下でちゃんと事は運んでます。

まあ……今急ぎなのは、エヴァグリム跡地を利用した闇市場ブラック・マーケットに出展中の、奴隷となってしまった元王女の身柄の奪還でしょうなあ。)」


「(エヴァグリムの跡地に、もうそんなモノが―――?)」


「(おっ……と、今から助けに行く―――などと言う暴挙には出てくれなさんな。)」


「(どうして……?!! 彼女は……『グリマー』は私達にとっても重要な存在なのよ?)」


「(“オレ”達の我が主マイ・マスターを、そんな感じでしか捉えちゃいない―――てのは少し寂しくはありますが……。

我が主マイ・マスターの救出の件は“オレ”達が出る幕じゃあない―――)」


「(えっ、なに? どういう事なの?)」


「(実に……こなれてきているんですよ。 “闇”が、いい具合に―――ね。)」


「(“闇”……『夜の世界を統べし女王ニュクス』か!!)」


「(『違っちゃいない』―――とでもしておきましょうか。

まあニュクスに関しては、ルキフグスを討伐した時点で自己凍結をしている……まあこの点に関しては、公主さんも現場にいたんだから判っちゃいるんでしょうが……。)」


「(判って……るわよ……。 けれどだったら、尚の事不思議じゃない。 あんたが知覚している“闇”の存在―――って……だったら何なの?)」


彼氏ベサリウス”と“彼女竜吉公主”の言い合いは、時系列で言う処の―――クシナダとササラが奴隷となってしまったシェラザードを買うまでの出来事でした。


そして、ここで“求め”られたから話し出した―――


「(まあ―――それはそれとしてですが……例の『勇者』様ご一行は、一旦“向う側”に帰ってます。

……が、我が主マイ・マスターが救い出されたなら、またこちらへとくるでしょうなあ―――ええそりゃもう積極的に。)」


「(……ん?ちょっと待ちなさいよ? 私達は『勇者』『賢者』『魔術師』の3者がいた事までは把握していたけど……それがですって?)」


「(そう言う事ですよ。 あちらさんにも相当なブレーンが付いていると見える。

ヴァーミリオン達の事を悪く言うつもりもありませんが、あの人達の様な「脳筋」連中なら、“オレ”達でも対処は可能だった容易かったんですがねえ―――(笑)

とどのつまり……言う処の『戦力の温存』―――『グリマー』であるあの王女さんが堕ち切った時にその生命を断てば、戦力を損なうことなく至極簡単に魔王さんが所有する『闇の衣』を無力化させる『光の珠』なるモノが抽出されるそうです。)」


「(えっ―――『光の珠』??)」


「(“オレ”達もそれが何であるか―――までは知らされていませんが、主上リアル・マスターはそう言っていましたよ。

全く……あのお人と来たら、森羅万象この世の総ての理をご存知である―――だがね公主さん、賢いあんたならもう気付いたはずだ。

そう……いるんですよ―――“あちら側”にも魔王カルブンクルス様と同様に、“至った”存在が。)」


「(そう……そう言う事ね、ならばその者が総ての『元凶』!)」


「(そう言い切るのは尚早まだはやい―――公主さん、『元凶おおもと』まではね、主上リアル・マスターですら言及していないんです。

ですから早まった行動だけは慎んでくださいよ……呉々も。)」


しばし見つめ合っていた“彼氏”と“彼女”―――でしたが、やおらして“彼氏”の方から席を外し立ち去ると、残された“彼女”の方は……


「ン・ゲッ―――お代こっち持ちかよぉ~~~ちゃっかりしちゃってんなあ~~★」


『いい雰囲気』―――だったのを、一気にブチ壊すかのような一言……とは言え、代金を支払わないようであったら無銭飲食にもなり兼ねないので、ブスくれながらも代金を支払うアンジェリカ“自称”ちゃん……なのでした。


           ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

その……後の出来事で―――


「シェラザード―――……」


「ああなんだ、“自称”ちゃんか……」


「見た処……どこも変わっていないわよね? 大丈夫よね??」

「ああ~~まあ~~見ての通り、私は“私”だよ―――

それよりさぁ、りゅうきちぃ~あんたってば、もう“キャラ”作んのヤメなよw」


「―――『りゅうきち』?」


「(~~~)『アンジェ』だとか『“自称”ちゃん』とか呼ばれるまでは構わないけど―――止めてくれない? 呼ぶの……。」


「それより、何の御用件ですか? 『りゅうきち』(笑)」(ムヒョヒョヒョヒョ)

「ササラまでえ~~……まあその事は今はいいわ、このままだと話しが進まなくなっちゃうから。」


くだんヘレナベサリウスとの会合の後で、シェラザードが救出され―――その後のヴエリサでの話し合いの後、アンジェリカがシェラザードの安否を確かめるかのように訪れた……

その事で下々の界隈では存在性を偽るなどして誤魔化してきた者は、誤魔化しきれずにいた事を揶揄からかわれはしたものの、そこは大人の対応で乗り切ったのです。


         * * * * * * * * * *

「それよりもこれからの行動指針なんだけど―――……」


「(……)―――。」


「シェラさん―――この方になら話しても良いかと思いますよ。」


「その物言い……まさかあなた達だけで何かを決め、しようとしているの? その事を……魔王様は―――」


「いや……今回はあの人からの力は借りない―――これは飽くまで“私”の問題だから……。」


「シェラザード―――? まさか……あなた―――」


「ああ……その通りだよ、公主様。

私は……私の王国くにを復活させる―――多くの臣民や、国王であったおやじまで害されはしたけれども……」


「王女―――……」


「なんかさあ……おかしいよね―――コレ……傑作だよ。

一時いっときは『どうして私は王女なんだろう』『王女なんてやりたくなかった』のに……

そんな私が―――さ……今じゃ王国くにの再建だよ……傑作通り越して嗤い話だよ。

漫画―――だよ……コレ……(哭嗤なきわらい)」



“嗤い”ながら“哭いて”いる……

当初はあんなにまで自由を嘱望していた者が、今は自らが王としての座位くらいを望み始めている……

「王室」という、「王」という束縛しがらみに―――

そんな、聞いていて切なくなるような決意を知り……


「判ったわ……それがあなたの揺るぎない意思と言うのなら、私はあなたの後見うしろだてに成ってあげる。

だけどやはりその事は現政権に上げないとダメよ。」


「いや……けど―――」


「あなたの言いたい事、やりたいことは判るわ……王女。

でもね、『復興』『再建』と口にはしても、それだけではダメなの。

まあ……あなたの事だから『エルフの王国』は再建できるでしょう……けれど、その後の事はどうするの? そこまでは考えているの?」


「竜吉公主様のご指摘の通り、私達の間で取り決めた行動指針は、『至急滅亡したエルフの王国の再建をする。』―――が最優先事項としてあります。

そう……「象徴としての国家」が必要―――それが第一歩なのです。」


「今……って―――? あなた達3人だけで……」


「この決定事項は、『グリマー』『黒キ魔女』『夜の世界を統べし女王』―――そして『大悪魔』四者の競合により示された指針……

いずれ支援の方は、我が『昂魔』の方からも用意されています。

それよりいかがですか……? 『聖霊あなた方』も新たなる王国への『投資』―――これに一口乗っかってみませんか?

そして行く行くは……―――」(ムヒヒヒヒ……)




つづく


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