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修道院 司祭の部屋 夜中

司祭(男)はイライラしながら椅子に腰かけている。

裁判官(男)は気だるそうに司祭(男)の対面に座っている。


裁判官(男)「こんな時間に呼び出して、一体なんの用だ」

司祭(男)「七年だ……七年だぞ! まだマリアは見つからんのか! この間抜けめ! 一体この七年間お前はなにをやってきたんだ!」

裁判官(男)「なにをそんなに苛立っている。判決は出たんだ。生きていようが死んでいようがなにも心配することなどないだろう。そんなことで私をわざわざ呼び出したのか」

司祭(男)「そんなこととはなんだ! マリアの火あぶりをこの目で見ぬ限り私はおちおち眠ることもできんのだぞ!」

裁判官(男)「ほう……罪の意識か」

司祭(男)「黙れ! 私はなにも悪いことなどしておらん!」

裁判官(男)「はあ……それで、懺悔ざんげはこれで終わりか。早く帰らせてくれ」

司祭(男)「まだ、要件は済んでおらん! 私はノー様の石像に言われたのだ。恐ろしい声で。私が再び裁かれると」

裁判官(男)「はあ……そんな下らないことで私を呼びつけたのか。いい加減にしてくれ! 頭のおかしい奴はマリアじゃなくてあんただ」

司祭(男)「馬鹿にするな! 黙って話を聞け! 石像は次の満月が沈み、陽が天高く昇るとき、私が裁かれるのだと言った。次の満月まであと五日だ。あの時から私は一睡もできていない。あの女は再び私を陥れるつもりなのだ。もし裁判が再び開かれたら、もちろん私に有利なようにことを運んでくれるよな。お願いだ。助けてくれ」


司祭(男)はひざまずいて裁判官の手を両手で握りしめ懇願する。

裁判官(男)は手を振り払う。


裁判官(男)「私に触るな! 鬱陶しい! もとはといえば貴様の過ちであろうが。もうこれ以上、私に関わるな! マリアの裁判はもう終わったのだ。もう判決は出た。それで十分だろ。再びマリアに訴えられるだと? 石像がしゃべっただと? 馬鹿馬鹿しい。私を呼ぶのではなく町医者を呼ぶのだな。一度頭を診てもらえ! もうお前とは付き合ってられん! 二度とお前の肩を持つことはない。マリアの裁判が再びあろうがなかろうが、私は法律に従うまでだ! 失礼する」


裁判官(男)退場。


司祭(男)「私を見捨てるか!? この裏切り者め! 神の裁きが下るぞ!」


陪審員1(男)が窓を叩く。


陪審員1(男)「司祭様」


司祭(男)は物音に驚く。


司祭(男)「誰だ!?」


陪審員1(男)「司祭様、もう私の声をお忘れですか」


陪審員(男)たちが窓からぞろぞろとはい出てくる。


陪審員2(男)「かの裁判で陪審員をした者です。裁判官殿が夜な夜なお出かけになる姿を見ましたので、なにかただごとではないと思い跡をつけたてみれば修道院に入っていったではありませぬか」

陪審員3(男)「せっかく修道院まで足を運びましたので、司祭様の心からの施しに再度お礼を申し上げようと思った次第です」

陪審員1(男)「ところで司祭様、小耳に挟んだのですが……なにやら裁判官殿ともめておりましたが、お困りでしょうか」

陪審員2(男)「司祭様が再び裁かれてしまうとか……マリアという女は恐ろしい女です。虎視眈々と司祭様を陥れようとしているに違いありません」

司祭(男)「そうだ、そうなんだ。あの女は再び私を陥れようとしているのだ。お前たちは私のことをよくわかっている。わからず屋のあいつとは大違いだ。私の話を聞いてくれ。ノー様の像が突然しゃべり出し、私が再び裁かれると予言したのだ。その日から気が気でない。きっとあの女、マリアの仕業だ。魔術を使ってノー様の像を操ったんだ」

陪審員3(男)「そうに間違いありません、司祭様。マリアの魔術です。司祭様をもてあそんで楽しんでいるのでしょう。なんと悪趣味な。でも、心配ありません。たとえ裁判がやり直されても我々がついております」

陪審員1(男)「その通り、裁判がやり直しになれば再び我々も法廷に立たなければなりません。いくらあの女がわめこうが、我々の判決は以前となんの変りもありません。司祭様の無実をみな信じておられます」

司祭(男)「もちろん、私は無実だ。無実なのだよ。もし裁判が行われてしまったら絶対に私の味方をしてくれ、頼む」

陪審員2(男)「もちろんですとも、司祭様。ですが、我々とて人間、一時の情に流されることも、考えが変わることもございます。そのことは重々ご承知ください」


陪審員(男)たちは不敵な笑みで司祭を見下す。


司祭(男)「分かっている。金の心配はいらん。勝訴のあかつきにはお前たちに報酬をたんまりくれてやろう」

陪審員3(男)「そんな!? 司祭様、我々は金で心を変える不徳な人間と思いなのですか。心外です。我々は正義を貫くだけです」

陪審員1(男)「正義が果たされたあかつきには司祭様のを我々に示してくださればよいのです。とっておきのとやらを」

陪審員2(男)「そうご乱心なさらずに。我々は心より司祭様の無実を願っております。では、我々はこれでおいとまさせて頂きます。ごゆっくりお休みください」

司祭(男)「ああ、とっておきのを用意しておこう。お前たちのおかげでやっと安らかに眠れそうだ」

陪審員3(男)「では、失礼いたします」


陪審員(男)たちはうやうやしく退場。

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