18

修道院

司祭(男)の部屋


司祭(男)「アーサーはどこに行った。今朝から姿を見せていないが、話があるのに、まったく。知らないか」

修道士(男)「それが、私も今朝からアーサーを探しているのですが見当たりません」

司祭(男)「そんなはずはない。どこかにいるのだろう。ちゃんと探したのか」

修道士(男)「はい。朝起きてから修道院の隅々まで探して回りましたが全く」

司祭(男)「言い訳は聞きたくない」

修道士(男)「申し訳ございません。もう一度くまなく探してまいります、司祭様」

司祭(男)「私を待たせるな」

修道士(男)「はい」


修道士(男)が退場。

突然、司祭(男)の部屋が暗闇に包まれる。

ノー様の像の目が光る。


ノー様の像「ぐはははははは」


司祭(男)は驚いて腰を抜かす。


ノー様の像「アーサーはもうここにはいない。マリアを救うため、昨夜、修道院を発った。次の満月が沈み、日が天高く昇るとき、お前の罪は白日の下にさらされる。正義は下される。逃れることのできない裁きがお前を待っている。決して逃れることのできない裁きが! ぐははははははは」


ノー様の像から光が消える。


司祭(男)「……だっ、黙れ! 悪魔め! 醜き悪魔め! そんな戯言など信じぬわ! 私は罪など犯してはいない。誰も私を裁くことはできない! はは……はははっ……いや……もしもアーサーがマリアを救い、あの夜のことをもう一度話したら……そんなはずはない。マリアはもう死んでいるに違いない。きっと死んでいるはずだ。心配するな。たとえ生きていたとして、誰がマリアを信じる? 誰がアーサーを信じると言うのだ。誰も信じる奴などいない。頭が狂っていると私が言えばみな信じるのだ。私は司祭なのだから。いや、待て……もし……もし私が裁かれでもしたら……再び法廷に立つことになったら……私は無実だ。あの夜、マリアと私は愛し合ったのだ。神の導きだったのだ。私は今まで幾人と孤児に手を差し伸べてきた。着る物を与え、寝る場所を与え、食べる物を与え、神への道を与えてきた。私のを愛してなにが悪い! 私のを壊してなにが悪い! ああ、なぜ私が裁かれなければならないのだ。悪いのは全て私を誘惑した女どもだ! 私は利用されたのだ。すべてを与えてやったのに私を受け入れない女どもが悪いのだ! 神に許しなど請わぬ! 懺悔ざんげなどなおさら! ひざまずくのは私ではない。マリア! お前だ! 私を受け入れなかったお前が膝をついて懺悔するのだ! 許しを請うのだ! はははははははは」


修道士(男)が登場。


修道士(男)「司祭様……どうされましたか。独り言でしょうか」

司祭(男)「お前はここでなにをしているんだ。アーサーは見つかったのか」

修道士(男)「いえ……それが」

司祭(男)「この役立たずが! アーサーを見つけるまで帰って来るな! 分かったな!」

修道士(男)「はっ、はい」


修道士(男)が慌てて退場。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る