17

朽ちた教会

アーサー登場。

朽ちた教会の扉を恐る恐る開けて入る。辺りを見回しながら奥にたたずむノー様の像もとへ進みひざまずく。


アーサー「ノー様、私をマリアのもとへお導きください。もう二度と逃げたりは致しません。心に固く誓いました。司祭様の悪事と向き合い戦うと。命をしてマリアを助けます。どうか、罪深き私にお許しを……」


オルガ登場。


オルガ「その言葉は本当か」


アーサーは驚いて立ち上がり振り向く。


アーサー「誰ですか、あなたは」

オルガ「先に私の質問に答えてはくれないか」

アーサー「なんですか」

オルガ「マリアと今確かに口にしたな。お前とマリアはどういう関係だ」

アーサー「同じ修道院の者です」

オルガ「なるほど……司祭の悪事とはなんだ。詳しく知っているようだな」

アーサー「それは……汚らわしく……私の口からは到底言えません」

オルガ「強姦ではないのか」

アーサー「……」

オルガ「図星だな。マリアは生きているのか」

アーサー「……おそらく」

オルガ「確証あるのか」

アーサー「今は亡き修道女たちの霊がそう私に告げました」

オルガ「ほう、興味深いな。最後にもう一度問う。命してマリアを助けると誓ったが、その言葉に偽りはないな」

アーサー「はい、ノー様に誓って」

オルガ「ならば、私たちに力を貸してはくれないか。私はこの時を待わびていた。希望のともしびが再び燃え上がる日を」

アーサー「あなたは一体なに者なのですか」

オルガ「私の名はオルガ。女性の人権を求める活動家だ。今日は私ひとりだが多くの同志がいる。そしてマリアと同じような性被害者たちも。名はなんと申す」

アーサー「私はアーサーです」

オルガ「アーサー、私たちに協力してほしい。ちょうど七年前、マリアが勇気を出し声を上げた。同志たちは希望を見出したのだ。戦う勇気をもらったとみな色めき立った。しかし、結果はいつもと同じ残酷だった。マリアを侮辱し冤罪をなすり付け殺そうとした。希望のともしびは消えたと誰しもが思った。幾度となく絶望を味わってきたが私は決して諦めることはしなかった。みなを励まし、再び希望がもたらされると対話し続けた。そして、今日、希望のともしびはもたらされた」

アーサー「私はそんな……希望のともしびとなるような器ではありません。なぜそこまでして私を信じ頼るのですか」

オルガ「夢のお告げだ。アネット、クロエ、そしてマリーの亡霊に希望をもたらす者がここへ訪れると。私はその者をアーサー、君であると信じている」

アーサー「なぜ彼女たちの名前を。知り合いだったのですか」

オルガ「修道院から逃げてきた彼女たちを私がかくまった。しかし、助けることはかなわなかった。あの男から受けた傷に苦しみ自ら命を絶ってしまった。彼女たちだけではない。人知れず、誰にも話すこともできず、血と涙を流している者たちがいる。傷付けられた心から流れる尊厳はたやすく……いや、二度ともとには戻らぬ。これ以上の被害者を出したくないのだ」

アーサー「私に……私に務まるのでしょうか。マリアを救うことができるのでしょうか。何度もノー様に誓えど不安で押しつぶされてしまいます。私は無力だったから……」

オルガ「アーサー、自分を信じなさい。恐れていた男のもとを離れ、その足でここまで来れたではないか」

アーサー「……はい」

オルガ「アーサー、マリアを助け、そして無事にここへ連れてきてほしい。もう一度、戦い、マリアの無実を証明し、あの男に正義を下す。この日のために作戦をずっと考えてきた。後はマリアを待つばかりだ。私の依頼を引き受けてほしい」

アーサー「もちろんです。マリアを必ずや見つけ助けます。これは私に与えられた試練のなのです」

オルガ「協力に感謝する。済まないが、私にはまだやるべきことが残っている。共に行くことはできない。必要なものがあれば言ってくれ。物資は少ないが、惜しみなく提供させて頂く」

アーサー「今日の寝床と少しのパンを頂ければ十分です。ありがとうございます」

オルガ「礼におよばん。こちらへ」


オルガはアーサーを奥の部屋へと案内する。

オルガとアーサーが退場。


翌朝。

アーサーはノー様の前で祈りを捧げてから立ち上がる。


アーサー「準備はできました。必ずや、ここへマリアと共に戻って参ります」

オルガ「これを」

アーサー「こんな大金。これは受け取ることはできません」

オルガ「なにかと金がかかるだろう。遠慮せず受け取ってくれ」

アーサー「……はい。ありがとうございます」

オルガ「無事を祈っている」

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