15

道端

マリアとポーラが重い足を引きずりながら登場。


ポーラ「見て、マリア。あそこに修道院が見える。なにか恵んでくれるかもしれない」


マリアはポーラの指さす方を見つめる。

マリアは段々と過呼吸になり、苦しそうに地面にうずくまりえずく。


ポーラ「マリア、大丈夫。どうしたの」


ポーラはマリアの背中をさすろうとする。


マリア「やめて! 触らないで! 私に近づかないで!」


マリアはパニックを起こし近くに落ちていた木の枝を振り回しポーラを威嚇する。


ポーラ「マリア! 落ち着いて、私よ、ポーラよ。安心して私はあなたの味方だから。私の声を聞いて。大丈夫、私はなにも危害を加えないから安心して。そう、大丈夫だから。私を信じて。目を閉じて深く息を吐いて。そう、ゆっくり。大丈夫、私はポーラ、あなたの友人、あなたの味方だから。もう大丈夫。安心して」


ポーラはゆっくりとマリアの手から木の枝を取り、優しく背中をさする。


ポーラ「ごめんなさい、マリア。まさかパニックを起こすなんて思ってもみなかった」

マリア「ごめんなさい……」

ポーラ「マリアはなにも悪くない。謝る必要なんてない。なにも悪くないから」


ポーラはマリアを抱きしめて優しくなだめる。


ポーラ「ここで少し待ってて。私が行ってなにか恵んでもらえないか聞いてくるから。すぐ戻るから」


ポーラは駆け足で退場。

マリアはその場に座り込む。

マリアの生霊登場。


マリアの生霊「マリア……マリア……」

マリア「……誰」

マリアの生霊「あなたよ、マリア」

マリア「来ないで。どうして私の姿をしているの」

マリアの生霊「私はあなた自身だから。あなたの魂。怖がらないで」

マリア「……嘘」

マリアの亡霊「信じられないと思うけど……ねえ、マリア……どうして私を見捨てるの。ポーラを助けたのに、私を救ってはくれないの。ねえ、どうして」

マリア「……違う……見捨ててなんかいない」

マリアの亡霊「なら、私のために戦って。逃げたい気持ちは痛いほど分かる。けど……このまま一生、この屈辱で涙を流すのは耐えられない。私はなにも悪くないのに。世間知らずだったから? 無防備だったから? なにもかも私のせいにされて……人生を踏みにじられた怒りをどうすればいいの。逃げて逃げて、いつしか名もない被害者として消えていくなんて受け入れられない!」

マリア「やめて! 逃げたら駄目なの? 追手に捕まったら殺されるのに。死ぬほど勇気を振り絞って声を上げたのに侮辱されるばかり。誰も私の話を聞いてくれなかった信じてはくれなかった。何度も裏切られた。何度同じ話をすれば済むの。もう忘れてしまいたい。この苦痛から解放されるために逃げることがそんなにいけないことなの!? あの出来事を必死に納得させようとしているけど無理なの! あなたは私なのだからそのくらい分かってよ!」

マリアの亡霊「分かってる! 痛いほど分かってる! 私の気持ちも痛いほど分かってるでしょ!?」

マリア「分かってる! でも、どうして私が正義を果たさないといけないの? 被害者の私がなぜ! 悪いのは全てあの男なのに!」

マリアの亡霊「あなたの言う通りよ、マリア。でも、諦めないで。裏切られるくらいならわずかな希望にすら目を閉ざしたくなる気持ちは分かる。けど、必ずあなたを信じて助けてくれる人たちが現れるから。ポーラも、私も、あなたをいつまでも信じているから。どんなことがあっても愛しているわ、マリア」


マリアの亡霊退場。

マリアは意識を失い地面に倒れる。

ポーラ登場。


ポーラ「マリア! マリア! 起きて! お願い、目を覚まして! マリア、死んじゃいやだよ、マリア」


マリアは意識を取り戻す。


ポーラ「マリア! よかった。心配したんだから。死んだのかと思った。ああ、よかった」

マリア「……ポーラ」

ポーラ「パンと水を恵んでもらったから。お腹空いたでしょ食べて、遠慮せず」

マリア「ありがとう、ポーラ……ねえ……」

ポーラ「どうしたの、マリア」

マリア「……ひとつ聞いてもいい」

ポーラ「なに」

マリア「……私のこと……信じている?」

ポーラ「もちろん。信じてるにきまってるじゃん。急にどうしたの」

マリア「……なんでもない……ありがとう、ポーラ」

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