第9話

 土曜日、由紀には大変なことが起きていた。

 

 その日、由紀は古角に呼び出されていた。

 場所は古角の自宅。

 いつもなら由紀の家か尚哉の家、そうでなければカラオケハウスだったのだが、古角の両親が留守で、大事な電話がかかって来るらしく古角の家ということになった。

 古角の企みは巧妙だった。

 まず、由紀だけでなく、戸川、二宮さんにも同じ話をしていた。

 なので、誰もがなんの疑いもなく、古角の家で勉強するものだと思っていた。

 ところが、集合1時間前になってから、戸川と二宮さんに電話をかけ、

「言ってた電話がかかってきたんだ。で、今から出かけないといけないから、ごめん、勉強は中止にするよ」

 と、言ったのだ。

「西山さんにも連絡しておくから」

 と、二人が連絡しないよう念を押した。

 これで、あの二人は由紀には電話しないだろう。したとしても、慌てていたから忘れてしまったといえば何の問題もない。

 由紀がくれば、由紀は俺のものになる。

 由紀の全てを今日奪うんだ。

 気持ちの悪い笑みを浮かべながら、古角はコップ一杯分のフルーツジュースに睡眠薬を入れミキサーにかけた。

 古角は由紀の飲み方もよく見ていた。

 飲み方は人それぞれだ。

 少しずつ飲んでいく人もいれば、数回程度に分けて飲む人もいる。

 中には一気に飲み干す人もいるだろう。

 由紀は数回に分けて飲むタイプだが、外は暑い、となれば喉を癒すために、一気に飲み干す可能性もある。

 それを考慮して薬の量を決めたのだ。

 あとは由紀が来るのを待つだけだ。

 

 しばらくすると、チャイムが鳴った。

 由紀が来たのだ。

 神は俺に味方した。

「戸川と二宮さんはまだなんだ、さっき連絡したらあと10分くらいで着くらしいからそこで待ってて」

 と言って、フルーツジュースを差し出した。

「ありがとう」

 出されたフルーツジュースを半分くらい飲み干した。

 予定通りだ。

 しばらくすると、由紀に眠気が襲ってきた。

 

 あれ?なんか眠たくなってきた。今から勉強しなきゃい、け、な……い……のに

そこで由紀は眠ってしまった。


 目が覚めた時、由紀はベッドに縛られていた。

 

 何これ、どういうことなの?

「古角くん、これってどういうこと?お願い、外して」

 古角は悪魔のような笑いを浮かべて、

「外すわけないじゃないか。これから君は僕のものになるんだ」

 いつも見る古角とは違う、欲望に満ちた男の顔がそこにあった。

「俺はこの日を待っていたんだ。あいつが盲腸で入院した時、チャンスが来たって思ったよ」

「人でなし、外ずして。大声を出すわよ」

「出すなら出せばいい。外には聞こえないよ」

 と言って、音楽をかけ、ボリュームを上げた。

「戸川くんと二宮さんもくるんでしょ。なのに……」

 プッ、と吹き出してから、

「来るならこんなことはしないさ。あの二人には中止になったと連絡入れたよ」

「最初から私を騙すためだったのね」

「そうさ、まんまと君はハマったんだよ」

 そう言いながら、古角は三脚を用意し、スマホをセットした。

 古角が動画を撮ろうとしていることはすぐに分かった。

「古角くん、お願い、やめて。今やめたら全部なかったことにする。今まで通り、あなたと接するわ。だからお願い」

 そこで由紀は泣き出してしまった。

 尚哉とだってまだそんな関係になってないのだ。キスだって、唇を合わせるだけのキス。

 それなのに、望んでもいない相手に全て奪われるなんて、耐えられない。

 涙が次から次へと流れ出してくる。


 そんな由紀の涙など気にするそぶりも見せず、古角は由紀のブラウスのボタンを外し始めた。

「やめて~~。それ以上したら、私、死ぬわ。死んで、あなたを呪い殺す」

 ありったけの力を込めてさけんだが、

 古角は何も聞かなかったように、ボタンの外れたブラウスを左右に広げて、ゆっくり、ゆっくり、由紀の身体を自分のものにしていった。

 

 ことが終わると、

「わかってると思うけど、誰にも喋らない方がいい。喋ったら、撮った動画や画像をネットにばら撒く。あっ、それから、明日もここに来るんだ。君の身体は美しい。もっともっと楽しみたい」

 そう言ってから、ベッドに縛った紐を解いた。

 自由になった由紀は脱がされた服を着て、何も言わずに古角の家を飛び出した。


 何故私がこんな目に遭わなければならないの?私、何か悪いことした?

 古角くんを振ったから?好きでもない人と付き合えるわけないじゃない。

 そんなことを心の中で叫んでみたが、起こった事実は変わらない。

 何年か後に、尚哉くんにあげる筈だった自分を、まだ中学3年生だというのに、他の男に無理矢理奪われてしまった。

 明日も来い?ふざけないでよ。

 あんなこと二度とされたくない。

 それなら私に出来ることは一つしかない。   

 由紀はこの時、既に"死"を考えていた。


 家に帰ったのは6時前、別に不自然な時間ではなかったからお母さんも、まさか娘がそんな酷いことをされて帰ってきたなんて思いもしていなかった。

 

 今日、明日は出来るだけ普通に過ごそう。

 今日行けなかったから、明日は尚哉くんのお見舞い行って。

 このまま死ぬのはいや。最後に尚哉くんに会ってから死にたい。

 

  実行するのは、深夜になってから……


続く

 

 

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