第8話

 8月30日、月曜日。

 昨日、遊園地で楽しんだ余韻を残したまま、夏休みが終わった。

 今日は2学期の始まり。始業式が終わり、進路希望調査があった。

 要するに、自分が何処の高校に行きたいのかを第3志望まで書いて提出するのだ。

 勿論、由紀と俺は、第3志望まで、全く同じ高校を書いて提出した。

 進路指導の先生からは、

「今の成績を維持していれば志望校に行けるだろう」

 と言われていたので、ある程度心に余裕はあったのだが、それこそ、アニメや映画のように、試験日当日に、病気や怪我、トラブルで試験を受けられなかった。

 ということもないとはいえないので、第2志望、第3志望もしっかり考えた。

 由紀と俺は、

「もしどちらかが第1志望校に落ちたら、2人で第2志望校に行こうね」

 と、約束しているのだ。

 

 進路希望用紙を出したら、先生が、

「じゃあ、席替えをして今日は終わりにしましょう」

 と言った。

 席替えのことなんか、忘れてくれてればよかったのに……とは思ったものの、こればかりは仕方がない。

 また、由紀と隣り合わせ……まぁ、くじ引きだからな。可能性は低いな。

 と、半ば諦めつつくじを引いた。

 由紀が、

「高橋くんは何処?」

 と聞いてきた。

「俺は真ん中の4番目、由紀は?」

「私は尚哉くんの隣の列の2番目ね」

「遠くはないし、由紀の後ろ姿を見ながら勉強するのも悪くないな」

「え~、私は恥ずかしいよ~」

 なんて話をしてたら、後ろから、古角、戸川、二宮さんの3人が近づいてきて、

「いつもラブラブだなぁ。ところで、5日の日曜日、またカラオケハウスで勉強会しようって話してたんだけど、二人も来るよな?」

 俺と由紀は顔を見合わせて、

「うん、行くよ」

 と言った。

「戸川がも~、目で会話するのやめてくれる?見てるこっちが恥ずかしいよ」

 と言って、笑ってる。

 俺と由紀もつい笑ってしまった。


 ホームルームも終わり、帰り支度を始める。

 その頃からどうもみぞおちの辺りが痛く感じた。

 みぞおちを抑えている俺を見て、心配そうに由紀が声をかけてきた。

「どうしたの?大丈夫?」

「少しお腹が痛いんだけど、時間が経てば治るんじゃないかな、大丈夫大丈夫」

 俺はそう言って学校を後にした。 

 

 その日の夜は痛みもおさまりぐっすり寝ることができた。

 翌日、朝食を食べた後また痛みが襲ってきた。

 昨日より悪くなっている感じがした。 

 学校へ行くのは無理だと判断し、母さんに伝えて休むことにした。

 母さんも今日は仕事が休みだったので、様子を見てくれることになった。

 昼になっても痛みは消えず、それどころかますます酷くなっている気がする。

「ひょっとして、盲腸じゃないかしら」

 母さんが言って、結局、昼から病院に行くことになった。


 検査の結果は……やっぱり盲腸だった。

 明日手術をして、6日まで入院になるらしい。

 由紀の誕生日か。午前中の退院ならプレゼント渡しに行けるな……なんて考えてた。

 

 翌日、午前10時に手術開始、手術時間は1時間から1時間半らしいので午前中には終わるようだ。

 大した手術ではないと人は言うが、自分の体にメスを入れられるのは気持ちのよいものではない。

 ジェットコースターを怖がったのは横に置いといてだ、俺だって今のところ、警察官目指してる人間だ。びびってるわけじゃない。

 ただ、手術を好きな人間なんて誰一人居ないってことだ。

 まぁ、早く午後になるのを願うばかりだ。

 

 手術は呆気なかった。

 そりゃそうだ、全身麻酔かけられてだんだから。

 俺が目を覚ました時にはもう病室のベッドの上だった。

 俺は母さんにバレないように、パンツの中に手を入れた。

 あれ?残ってる。

 盲腸の手術の時、剃るって聞いたけど……あれは嘘だったのか。

 

 尚哉は知らなかったのだ。今は一般的に剃らないことを。

 理由は、カミソリの傷口からバイ菌が入り、炎症を起こすかららしい。


 しばらくすると、由紀、古角、戸川、二宮さん、そのあと、田村さんも来てくれた。

「みんなありがとう。心配かけてごめん」

 俺が言うと、

「誰だって病気になりたいわけじゃないから仕方ないよ」

 と、戸川が言った。

 二宮さんが、

「由紀ちゃん、すごく心配してたんだよ。6日で退院できるって聞いて、やっと落ち着いたんだから」

 ってクスッと笑った。

 少し話したあと、

「授業のノートは写しておくから心配しないでね」

 と、由紀が言った。

 あまり病院で長居は良くないからと、30分ほどでみんな帰った。

 母さんが、

「いい友達だね」

 と微笑みながら言った。

 

 月曜日には退院できるので、他のみんなは来なかったけど、由紀は木曜日も金曜日もきてくれた。

 「土曜日も来るね」

 と言って帰ったが、土曜日に由紀は来なかった。



続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る