第27話 蒼い髪のエレイン2
「君の名前は何かな……?」
「俺ですか、モードレットといいます。しがない冒険者ですよ」
「ふーん……モードレットね……」
なんとなく嫌な予感がした俺は咄嗟に偽名を使う。ヴィヴィアンさんは俺の言葉を噛み締めるように繰り返す。この人は表情が変わらないから何を考えているのか読みにくいんだよな。というか時々目が爛々と輝いてちょっと怖い。
とりあえず俺はヴィヴィアンさんが探している人を聞くことにした。別にエレインさんを連れ戻しに来たとは限らない。別件でこの街に来て、近くにいるエレインさんに挨拶をしに来ただけかもしれない。
「ヴィヴィアンさんはこの街には誰を探しに来たんですか? もしかしたら力になれるかもしれませんよ」
「協力感謝……私はエレインという女冒険者を探しているよ……『蒼の剣姫』という通り名……知ってる?」
ビンゴだぁぁぁぁ!! むっちゃ探してるじゃねえかよ!! エレインさん何かやらかしたのか? いや、冒険者やめてるけどまさかパーティーメンバーに相談しないでやめたんじゃないだろうな……あの人の場合戦闘以外の常識がからきしだから否定できないのだが怖い。
「ええ、Sランクの冒険者さんですよね、有名なので知っていますよ。そういえば最近冒険者ギルドでみないなって思っていたんですが、なにかやらかしたんですか?」
俺は探している理由がなんか軽いものであることを祈りながらおそるおそる尋ねると、ヴィヴィアンさんは一瞬不快そうに眉をひそめた。まじでなにやったんだよ。あの人……
「手紙が来た……セインとかいうクソ男に騙されて、奴隷のように働かされているみたい……あの子は世間知らずだから……私が助けなきゃ……」
淡々と言葉を紡ぐ彼女に、俺は悲鳴を上げそうになる。まてよぉぉぉぉぉぉぉ、あの人まじでどんな説明したんだよ。セインって俺だよな。実は別のセインってオチはないよな。さっさと宿屋に戻って事情を聞かなきゃまずい。そして、誤解を解いてもらわないと……
「それは心配ですね。あ、そこが冒険者ギルドですよ。俺は用事があるので、それでは……」
「待って……案内してもらって何もお礼をしないのは悪いよ……酒一杯くらいならおごる……」
「いえ、ちょっとこの後待ち合わせなんですよ、またお会いした時にでも」
「ふーん……まるで逃げるようだね……」
不審がられたが、俺が無視して踵を返してその場から逃げ出そうとした瞬間だった。冒険者ギルドの扉が開いてガレスちゃんが出てきて目が合った。やべえ、無茶苦茶嫌な予感がするんだが……
「セインさーん、今日もお疲れ様です!! その人はお客さんですか? 今夜はエレインさんの料理当番ですよ。あの人すごい頑張っていたんで今日はまっすぐ帰ってきてくださいね」
「あ、ああ……じゃあ、俺はこれで……」
「ふふふ……やっぱりこの人がセインなんだね……? あと、あなたも……エレインを知ってるの……?」
ヴィヴィアンさんの言葉にガレスちゃんがうなづいた。俺は嫌な予感がしまくって逃げ出そうとしたが不思議な事に身体が一切動かない。何らかのスキルを使われたのか?
「はい、エレインさんはセインさんの紹介でうちの宿で働いでるんです。あ、もしかしてエレインさんのご友人ですか」
「ええ……姉みたいなもの……ありがとう。サプライズをしたいからエレインには私のことは黙っておいて……」
「はい、わかりました。ではまたあとでーー」
そうして、ガレスちゃんは天使のような笑顔を残して去っていった。後で会えるかわからないんだが? 下手したら殺されそうなんだが? その間も俺は必死に体を動かそうとしていたが、マジで動かない。これはまさか……
「無駄だよ……『影縛り』を使ってる」
そんな俺に彼女は無表情に語り掛ける。目の前の少女がまるで死神のように見える。俺が何とか、目だけを動かすと案の定、俺の影を縫い付けるように短剣が刺さっていた。いつやったんだ? まるで気づかなかったぞ。『影縛り』そのまま、影を武器で縫い付けると本体も動けなくするコモンスキルだ。結構上級スキルで覚えるのは難易度が高いんだが、流石はAランク冒険者という事だろう。
「ちゃんとした自己紹介はまだだったね……私はヴィヴィアン……『湖の乙女』のレンジャーで索敵や、遠距離攻撃、サポート……後は拷問とか尋問を担当してるよ……色々はなしたいな……ね、セインさん……」
無表情で唇だけゆがめるように彼女が笑った。俺は命の危機を感じた。
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