第26話 蒼い髪のエレイン

「じゃあ、俺はこの『高速詠唱』を買うぜ。これで俺も魔法剣士になれる」

「私は『中級魔術』を売って『掃除』スキルを買うわ。冒険者をやめて、奥さんになるのよ」



 新しく始めたスキルショップを始めて半月ほどの時がたった。最初は一日に二、三人だったお客も、徐々に増えてきてそこそこ繁盛してきた。エレインさんからの紹介によって話を聞いてきた冒険者から徐々に口コミが広まったうえに、どこから流れてきたのか、国の騎士達までやってくるようになったのだ。

 予想外だったのは、手広く自分のできる事を増やしたい冒険者が思ったよりも多いため基礎スキルが売れたりしたのと、貴族からマイナススキルを買って欲しいという案件もあったことだ。どこから貴族に流れたのか……まあ、多分仮面の人だろうな……俺は以前もらった指輪をいじりながら思う。



「おつかれさま、セイン君。いい感じになってきたようだね」

「ありがとうございます、エレインさん。そっちに迷惑はかかりませんでしたか?」

「大丈夫さ。むしろ食事の客が増えたってベルさんも喜んでたよ。疲れたろ? これを飲むといい。わたしも冒険者時代はよく飲んでいたよ」



 俺が店を閉めて、休んでいるとエレインさんが、はちみつ入りの水の入ったコップを渡してくれた。スキルをずっと使い続けるのも疲れるため、時間はかなり絞っているだが、それでも疲労はかなりのものである。口をつけると心なしか精神的な疲れが良くなった気がする。



「セイン君はすごいな、自分のスキルで店を開いて、お金を稼ぐなんて……いつかはやるとは思ってたがこんなに早く軌道にのるとは思わなかったよ」

「俺なんてまだまだだって、それにエレインさんや、ベルのちからもあるからですよ二人が紹介色々な人紹介してくれなかったらとてもじゃないですがこんなにうまくはいかなかったでしょうね。エレインさんの方こそ、最近は上達したってベルが褒めてましたよ」

「ふふ、そうだろ? 今週はお皿も二枚しか割らなかったんだ。それに家事スキルも覚えることが出来たんだ。でも、その一歩を踏み出す勇気をくれたのは君なんだぜ」



 結局割ったんだ……と思いながらもエレインさんは嬉しそうにしているのでここで水を差すのも無粋だろう。それに最初の方のひどい有様からしたらかなり成長しているし、コツなどを定期的にベルやガレスちゃんに聞いているのも知っている。でも、いきなり冒険者を止めたけど、元のパーティーとかは大丈夫なんだろうか?



「そういえばエレインさんのパーティーってどんなところだったんです? Aランク『湖の乙女』でしたよね」

「ああ、そうだよ、Sランク冒険者を二人抱える女性だけのパーティーだ。とはいえ最近は、もう、個々が有名になりすぎて、個人個人に依頼がくるからパーティーとしての活動はほぼしてなかったんだけどね。だからこそ私みたいな勝手な事も許されたのさ。このはちみつ入りの水もね。私が剣の修行でしごかれて疲れたときにパーティーメンバーのヴィヴィアン姉さんが良く作ってくれたんだよ」



 そう言ってエレインさんは懐かしそうにはちみつ入りの水を飲む。その顔は俺がいつも見ている彼女とは違いどこか子供っぽく見えた。



「エレインさんはパーティーのみんなが好きなんですね」

「当たり前だろう? スキルのせいで冒険者になった私だったけど、これまで頑張ってこれたのはみんなのおかげだよ。だからね、いつか私が素敵なお嫁さんになれたら、パーティーの皆を結婚式に招待したいんだ。聞いてくれるかい? 私の初めての冒険はね……」



 そうして彼女はまるで自分だけの宝箱をあけるように、俺に大切な思い出をはなしてくれた。俺は彼女の思い出話をずっと聞くのであった。




 翌日、俺は冒険者ギルドに向かっていた。軍資金もできた事だし、わざわざ店には行かないが、不要なスキルを売ってやろうという考えをもっている冒険者に声をかけるのである。ようは仕入れっていうやつだな。



「そこの人……あなた冒険者でしょう? 冒険者ギルドに案内して欲しい」

「え、俺か……?」



 突然声をかけられて俺が振り向くとそこには十歳くらいだろうか? 銀髪の少女が無表情で立っていた。親と旅でもしているのだろうか? 着ているローブは少し汚れている。迷子だろうか?



「別に構わないけど、よく俺が冒険者ってわかったな」

「当然……歩き方や筋肉のつき方は典型的な前衛タイプだけど、スキル構成がおもしろい……まるで自分の理想通りに選んだみたいになってるね……」




 今の俺は鎧などはつけておらず一般的な布の服を着ているのに、なんだこの確信に満ちた言葉は……彼女の爛々と輝く両目をみて俺は警戒心があがる。この幼女……いや、こいつはなんだ?



「警戒しないで……自己紹介……私の名前はヴィヴィアン。Aランクの冒険者……。ちなみに君よりは年上だよ……この街には人を連れ戻しに来たんだ……」



 俺はどう反応しようかなやむのであった。


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