鵜の目鷹の目神の目


 かくして『第2回王様コンテスト』は盛況のうちにその全ての競技を終えました。


 無論その優勝者は、陛下にあらせられます。

 いえいえ忖度そんたく依怙贔屓えこひいきの類は一切ございませんから。


「それでは優勝者には、王の証である王冠と王笏を授与しまーす。では大司教様、お願いします」


 いや、大司教様が王冠と王笏を授けるって、それではまるで戴冠式ではないですか。


 そうしておごそかに壇上へと進み出た大司教様は、陛下にお尋ねになります。


「新国王となる者よ……その体操帽みたいなのは、何ですかな?」


「日除け」


 サングラスをお外しになられて、眩しかったのでございますね。屋外での運動は熱中症対策が肝要。さすが陛下にあらせられます。

 因みにマスクは、御昼食のぼたん鍋をきこしめす際に外されたままです。


「王冠と合体するとだいぶカッコ悪いから、外してください」


 大司教様、ごもっともです。


 渋々お取り外しになった陛下の前へ、大司教様が王冠を恭しく掲げると――


「待て、大司教」


 陛下の御双眸が、獲物を狙う鷹の如くキラリと光りました。


「……その王冠、贋物にせものだな」


 そりゃレプリカでしょうよ。本物の王冠なんて、軽々しく扱えるもんじゃないですから。


「何を仰いますやら。神聖な儀式に贋物など有り得ません」


 大司教様の温厚な笑顔が引きります。


 え、これ本気マジのやつだったんですか? 戴冠式そんな軽いノリでいいの!?


「えー、ウッソだあー」


「あっ!? な、何をなさるか――」


 陛下は大司教様の手から王冠をお取り上げになり、御自ら戴冠あそばされてしまったのです。


「やっぱり。前より軽くなってる」


「あの、それは陛――ユッケ様の筋肉が、以前にも増して強化されたからでは?」


 臣は陛下のお側に参り、コソッと奏上申し上げます。


 現に臣も、冒険に明け暮れるうちいささか筋力がついて、腰痛もかなり緩和されておりますから。


 あとは陛下より仰せつかった「クランチ」「バタ足」「シットアップ」「マウンテンクライマー」「ドローイング」の各種腹筋運動も、ボチボチ取り入れております。


「いや、間違いない。何ならお風呂に入れてみるか?」


 純金の王冠の真偽を見破った『アルキメデスの原理』でございますね。


「それに……この宝石も、模造品だ」


 陛下はもう一度王冠をお外しになって、その正面を飾る大粒のエメラルド(と思われた模造品?)をじっくりとご覧あそばされました。


 世界中の秘宝をご覧になってきた陛下には、宝石の真贋しんがんなどいとも容易く見分けられてしまうのです。


「神はすべて見ておられる。さっさと出したほうが身のためだぞ!」


「すみましぇええええええええんっ!」


 陛下の御咎めに、司会の司祭が飛び出してきて、スライディング土下座で平伏ひれふしました。


 司祭の白状するところによると、アレがソレしてコレだから、お金が必要になってつい王冠に手を出してしまったとのことにございます。


 ムーンウォーク土下座で大聖堂の奥へと消えた司祭は、間もなく真正なる王冠を捧げ戻って参りました。


 成程、神の御膝元に隠しておりましたか。そこまでお見通しとは、さすが陛下にあらせられます。


「なぁーんだ、そんなとこにあったのか」


 王冠と1年ぶりの再会を果たして、陛下は仰せになりました。

 はて、そこまでを見越しての、先程のお言葉ではなかったのでしょうか?


 さてはカマをおかけあそばされたものにございますね。


「うむ、やはりこの重さがしっくりくるな!」


 あれ? 今回は「しっくるくる」ではないのですか。シックル欠けた?


 そして臣は、世界中のどんな宝物庫よりも、そこが一番安全だと思うのです。



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