勇者ども、これで終わりと思うなよ
さて冒険を終えて国に帰ってみれば、国王(仮)は幽閉され、国政は悪しき宰相(仮)に牛耳られていたとは……。
これは分類学上で申しますところの『ラスボスを倒したと思ったら実は身近にいた者が真の黒幕だったパターン』。
その黒幕たる宰相(仮)を倒さねば、臣の冒険は完結とは相成りません。
かくなる上は、いま一度周回して、隠しダンジョンなるものまで制覇し、レベルをゴリゴリに上げて参らねばなりますまい。
いえ決して臣は、もう一回冒険に出たいとか、そういうことを申しているのではございません。
「王様コンテストのエントリー、こちらで受け付けていまぁーす」
さすれば早くも、王城に戻って参った次第にございます。
「そこのお兄さんも、どうですか? 王様になれるチャンスだよ!」
「無礼者、この御方をどなたと――」
「サイゾー、よせ」
「ぐぉえっ!?」
不覚……。臣は詰襟に戻っていたのでした。
「いやあ、参加者少なくて困ってるんですよね。これだと盛り上がりに欠けるって、宰相様がお怒りで」
「して、現在の参加者とは?」
「今んとこ、4人ですね。えっと……宰相(仮)、強欲代官、悪役令嬢、少年A」
何とも個性的な。
さては、これが宰相(仮)のクーデターの全容ですね。
王様コンテストで優勝して王座を奪う――なかなかに穏当なクーデターのようにございます。
「サイゾー、このコンテスト……」
「はっ、直ちに中止させます」
「オレ審査員やりたい!」
はあっ!?
そして翌日。
爽やかな青空の下、王城の前にて。
「えー、本日は晴天なり。本日は晴天なり」
見ればわかります。
「ぱんぱかぱーん。それではこれより、第2回王様コンテストを開催します」
くっ……。そこからコピペで使い回すとは、何たる怠慢。
臣が
「司会は私『司祭』が務めさせていただきます」
ややこしや。
いやそれよりも臣の気がかりなるは、審査員として潜り込まれた陛下のことです。
王城のバルコニーより御観覧あそばされたる陛下の藁人形が、よもや偽者と知られるなどあってはならぬこと。
くれぐれも身バレ召されぬようにと、重ねてご奏上致したものではございますが、果たして……。
さりとて、優れた冒険者は時に、ジョブ・チェンジと共に外観ごとまるっと華麗に変化することもあるのだとか。
審査員席にお出ましになられた陛下の、見事な御変装にあらせられました。
その御姿たるや、サングラス、マスク、おまけにグローブ……って何の感染防御にございますか!?
とかくするうち、コンテスト参加者らがゾロゾロと壇上に集まってまいります。無論、その中には
「まだまだエントリー受け付けております。身分や年齢に関係なく、誰もが王様になれるチャンスですよ! さあそこのアナタも、レッツ・王様!」
「サイゾー、おかしいぞ」
「はっ、如何にも。あの宰相(仮)、かように布面積の小さき服で宰相(仮)を名乗るとは、片腹痛きことにございますな」
ていうか、脇腹がスースーしそうです。
「……少年が来ない」
はて、陛下はそのようなことに宸襟を悩ませておいででしたか。
「さすればあの者は、勇者たる資格がいま一つ足りなかったものにございましょう」
「うむ」
会場を見渡せども、昨日の少年の姿は見当たりません。
時は無情なものにございますれば、程なくして――
「では他に参加者は、いらっしゃらないですか? ……いらっしゃらないですね? それでは、これにてエントリーを締め切――」
「ちょっと待ったあああああ!」
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