よろず情報承ります


「これ、そこのメイド」


「え? 国王(仮)様でしたら、持病の胃痛が悪化して、空気のきれいな田舎でご静養なさっているそうですよ」


 安定の問わず語り。


「でも、ここだけの話ですけどね……。本当は、宰相(仮)様に騙されて幽閉されているようなんです」


「なんとっ!? それはまことか。して、その宰相(仮)は……」


「あら、わたしったらついおしゃべりを。いけない、お掃除に戻らなくちゃ!」


 くっ……。矢張やはりこうなりますか。


 止むを得ませぬ、奥の手です。


「これ、そこのメイド2」


「え? 宰相(仮)様でしたら、『第2回王様コンテスト』のご準備に忙しいんじゃないかしら」


「なんとっ!? 第2回とは、聞いておらぬぞ」


「何でも、一年前に立てられたフラグを回収しなければならないそうですわ」


 臣の失態にございます。


「でも、ここだけの話ですけどね……。宰相(仮)様はクーデターをお考えのようなんです」


「なんとっ!? その話、詳しく聞かせよ」


「あら、わたしったらついおしゃべりを。いけない、お着替えに戻らなくちゃ!」


 着替え中!?


「サイゾー」


「はっ。これは、一大事にございますな」


「出かけるぞ」


「ははっ」


 そうして向かわれたる先は……え、これは冒険者ギルドにございますか?


「陛下……いえ、ユッケ様!? もう早速に冒険に戻られるおつもりではありますまいな? 一年……いやせめて半年くらいは王城に居ていただきませぬと、他国に攻め入る隙を与えてしまいます」


 第2回王様コンテストなぞ、臣は認めるわけに参りません。明日には王座にお戻りいただいて……それからまあ、3か月もすれば、国も落ち着きましょうから?


 まあ、それからでしたら、諸国漫遊なさるのであれば臣もお供せぬわけには参りませぬが……。


「焼肉セット2つ、肉マシマシマシマシで!」


 どんだけ増すんですか。


 ていうか、ここは冒険者ギルドですから焼肉など――


「ヘイお待ち!」


 臣が諫言かんげんしようとしたその刹那せつな

 現れたるは、筋骨隆々チョビ髭マッチョ。


「これはギルマスどの、お久しい。王都に異動になっていたとは」


「はて? 貴殿とお会いするのは初めてのはず」


「いえ、最初に訪れた辺境の町で……いや、一年も前のことだから覚えておらぬのも道理か」


「それは、わが同胞。ギルド・マスターには休みも異動もない!」


 いや、外見まるでコピーのようにそっくりですけど……。


「うむ、使い回しクローンだな」


 手抜きなのか効率化なのか、判定の難しいところでございます。



「それにしても、このような場所で焼肉ができようとは。さすが陛――ユッケ様、国内の情勢と肉のことにはお詳しい」


「うむ。国中の冒険者ギルドには、焼肉セットを提供するよう命じてある」


 職権乱用……。


 成程、だから一年前の辺境の町でも、冒険者ギルドに焼肉の煙が漂っていたのでございますね。


「為政者の求めとあらば、どんな無理難題でも受け付ける! それがギルド・マスターの矜持きょうじ! ふんぬっ!」


 ギルドの存続がかかってますからね。


 そして、ピチピチシャツのボタンが一つ、そらを飛んで――あっ、鉄板の上へ!


「ユッケ様!? なりませぬ! プラスチックには熱すると有害物質を生じるものもございますれば――」


 おのれギルマス、陛下の食い意地を利用して毒を盛るとは!


「うむ。良い溶け具合じゃの」


 あ、そのボタン、樹脂プラスチックではなく牛脂製でございますか?

 ジューッと何やら心地の好い音にございます。


「サイゾーくん、そのお皿とって」


「はっ、この肉マシマシマシマシ×2にございますか? ……重っ! これは、腰に――」


 あれ? 思ったより軽いですね。

 そういえば最近、あまり腰痛も出ていない気が。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る